【04】計画
話が進みます。
美香は暇を持て余すようにテレビのワイドショーを見ていた。
痴漢について取り上げられている。女性の多くが痴漢被害の経験があること、男性は指摘されれば示談で片付けようとする事が多いこと、警察も自白を強く勧めることなどを司会者や専門家が伝えている。同時に私服警官の活躍も伝えていた。
美香はそれを見て急に飛び上がった。
「お母さんお母さん!」
「なによ美香」
「ねえ、あいつが痴漢してるってわかったらどう思う?」
「あいつってお父さんのこと? 人前であいつは止してよね」
「わかってるよ。で、どうなの」
「慰謝料もらって離婚に決まってるでしょ。家も貯金も全部もらって、慰謝料も養育費も全部もらうんだから」
「わあ、がめつい」
「うるさいわね。で、なんなのよ」
英美が台所に立ちながらめんどくさそうに答える。二人しかいないときの料理はやむを得ずやっている。呼び出して作らせる時間がもったいない。
「ねえ、あいつが痴漢して捕まる姿を見たくない? しょんぼりしてちっさくなるところ」「だめよ。あの人に痴漢する勇気なんかないから」
「でももしそんな姿を見られたらスカッとしない?」
「スカッとって……うーん、まあ、うつむく姿を見るのも悪くないかな」
「でしょでしょ! 私考えたんだけどさ、私があいつに痴漢されるってのどう?」
「は? あなたがお父さんに痴漢されるの? あの人最低じゃないの」
「そう。その最低にするの」
美香の目が輝いている。心底楽しそうに話している。
「だから、あの人にそんな勇気ないってば」
「だから、こっちから仕向けて、痴漢!って叫ぶの」
「はあ? あんた、冤罪を仕掛けようって言うの?」
「えんざい?なにそれ」
「無罪の人に罪をなすりつけることよ。お父さんがあなたに痴漢したことにするんでしょ。それを冤罪っていうのよ」
「ふーんそうなんだ。まあいいや。その冤罪だよ。でも直前で私が泣けば示談で済むでしょ」
「泣くって、泣いて罪にしないでくれとかいうつもり」
「うん。女子高生が泣けばなんでも許してくれるでしょ。しかも身内なんだし。私だって娘に痴漢した親なんて一瞬だってイヤだし。『おとうさんだって魔が差しただけなんです。わたしはなんとも思いません。ですから今回のことはなかったことにしてください』っていえば納得するでしょ。私は被害者なんだし」
「だったらなんでそんな面倒なコトするの」
「暇だし、あいつがしょぼくれるところを見たいから。お母さんだって、あいつの弱みをにぎって、今以上にこき使ってATMにしつづけられるんじゃないの」
英美は娘の提案に戸惑った。
いくらなんでも考え方が酷すぎる。どうしてこんなふうに育ったんだろうか。あの人の威厳がないせいなのか、いつまでも出世せずにだらしないからなのか。でもあの程度なら、いたずらに使っても問題ないかも。なんて、私も相当か。
そんな錯綜もすぐに終わり、あっさり了承し、二人でシナリオを話し合った。
結果、数日後の平日に決行することになった。
やるんだ・・・。
感想、ご意見などお待ちしています。