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いたずら  作者: あるとII
10/24

【10】てってれー

前と今回は、できるだけふざけたタイトルにしてます。

女性の駅員さんに見送られて駅を出た。

全員私の演技に騙されていた。もちろん、犯罪者の娘になりたくなかったのは本当だから、そこはガチだけど。

駅で見かけたあいつの憔悴しきった顔は最高だった。この世の終わりのような顔。たかが痴漢で捕まるなんてほんっとダサい。私がナシにしてあげたんだから、何か買ってもらわないとね。

制服に着替えて適当に時間を潰してから帰宅した。

お母さんはすでに家にいた。

「おかえり。駅から電話があったわよ。痴漢をナシにしたそうね」

「うん。犯罪者の娘なんてイヤだもの。なんとかうまくいったよ。あとは責め立てて最後にバラすの。お母さんにもあいつのクソ顔を見せてあげたいから協力してよね」

 少し呆れた様子だったけど、協力はしてくれるみたい。

 急いで自分の部屋で着替え、リビングに戻った。

 きっと娘に迷惑をかけたとか思ってより沈んだカオが拝めると思う。とっても楽しみ。

 バラすまではしっかり演技しないといけない。

 

 二十時を回った頃、お母さんがそろそろ帰ってくると教えてくれたので、リビングで待つことにした。

 玄関で音がした。あいつが帰ってきた。

 おもしろすぎて笑いが止まらない。大声で笑いたいところをぐっと抑える。

 普段ならすぐ二階に行くのに、今日は直接リビングに来た。

 私とお母さんを確認して、その前まで来た。

「美香、今日は迷惑かけて済まなかったな」

「……」

 無言でにらみ返す。娘を痴漢する親なんて見たくもないけど仕方ない。

「母さんにも。きっと家に電話があったろう」

「ええ、とんでもないことしてくれたわね」

「……とりあえず、会社はなんとか理解してくれた。この件は一応なかったことになる。とはいえ、迷惑かけたのは確かだ。本当に済まない。このとおり、お詫びする」

 あいつは私の前で深々と頭を下げた。

 こんなことで許すわけ無いでしょ。

「はあ? 私の中ではなかったことにならないからね。あんたは私に、娘に痴漢したんだから。ずっと覚えとくから。このヘンタイ」

 あいつが顔を上げる。

 駅の時よりさらに憔悴しきった顔が見える。

「……そうだよな。あたりまえだな。済まないな。変なことになってしまって」

「そうですよ。これでクビにでもなったら、あなたを身ぐるみ剥いで即離婚ですからね。とにかく、なんでもいいから私たちを食べさせてね。あなたは働くしか能が無いんだから」

 泣きそうな顔をしている。かっこ悪くて最高。ダッサダサ。

 もう十分見たかなと思い、お母さんに目配せすると、お母さんはうなずいた。じゅうぶん満足したらしい。

 リビングをでようと振り向いたとき、大声で叫んだ。 

「てってれー! ドッキリ大成功!」

 すぐにあいつが振り返る。ボケーッとしてて何が起きたかわかってないみたい。ほんとバカみたい。

「何言ってるんだ? ドッキリ?」

「だから、ドッキリだってば。わかんないの?」

「わからん。なにがドッキリなんだ?」

 ここまでやってわからないなんて、ほんとおっさんて。

「めんどくさいなあ。だーかーら、痴漢はドッキリなの! わかる?」

「ドッキリ、ってことは、嘘だったってことか?」

「そうよ。あなた、この子に騙されたのよ」

「そんな……どうしてそんなことをしたんだ?」

 娘のことが信じられないという驚きの表情に変わる。

「あんたのその情けない顔を見たかったから」

「……娘に痴漢した父親の姿をか」

「そうよ。もちろん私が仕掛けたんだけどね。手の甲があたっただけなのは本当そうなのに、もう予想以上に落ち込んでくれちゃって、警察で笑いこらえるの必死だったよ」

「お母さんも知ってたのか?」

「もちろんよ。あの子が全部計画したの。私もあなたのボロボロっぷりを見られてよかったわ。警察に突き出されないだけありがたいと思いなさい」

「ほんといい光景だったわ。必死で弁解するところやしぼんじゃうところも。わざわざ触らせてあげた甲斐があった。ほんとにありがと。ATMのあんたを私たちのために使ってあげたんだから感謝してよね」

「警察を説得したのも演技か」

「あたりまえでしょ。犯罪者の娘にされたくなかったから必死にやったよ。おかげで女刑事もあっさり騙された」

「警察に行かずには済んだが、会社には連絡されたぞ」

「そんなの知らない。あんたのせいでしょ。父親に痴漢された娘になりたくなかっただけだから、それさえできればあんたなんか死刑でもいいんだから」

 私もお母さんもさっきから笑いが止まらない。最高の気分だ。その気分を一気に引き裂いたのは、あいつが壁を思い切り叩いた音だった。今まで聞いたことのないような大きな強い音だった。

「おまえたち、本気で言ってるのか」

 とても低くて鋭い声だった。本気で怒らせていることよりも、ドッキリが成功したテンションの方が勝っていた。

「はあ? なにマジになってるの。こんなもん、ただのいたずらでしょ。笑って終わらせればいいのに。だっさい。男らしくないよね。ほんと最低」

 そう笑って返したら「そうか」といってなにも言わずにリビングを出ていった。

「なにあいつ、急にマジになって。こんなのただのいたずらじゃん。笑って返したらいいのに」

「いつになく怒ってるようだったけど、まあ、いつもどおり、そのうち冷めるでしょ。気にしなくていいわ」

 夜は二人で大勝利に沸いた。実際あいつは、翌朝にはいつも通り起きてきた。私たちが食べ散らかした缶やお菓子を片付け、洗濯したり朝ご飯を作っていた。

 やっぱり大きく出ただけだったんだ。ハッタリだけなんてやっぱオジサンはオジサンだね。


 この時は、本気でそう思っていた。

ドッキリ大成功!

・・・さて?

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