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ニート魔導士、勇者に雇われる  作者: 燕 柿太郎
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7.旅立ち

 逃げなきゃ、と思った次の瞬間。

 大鷲が僕の隣にふわりと着地し、着地と同時にみるみる人の形になったかと思うと、僕の雇い主が立っていた。


「こっちにも教会があったのか。待たせたな」


 昨夜見たときは全身真っ黒だと思っていたが、光の下で見ると、青紫色に反射する不思議な髪の色をしていた。ラピスラズリの色みたいだ。

 そして、金貨のような眼の色。とても体の一部だとは思えない。


「お、おはようございます。僕の方こそ、場所をちゃんと確認してなくてすみませんでした」


 深々と頭を下げる。たぶん、西の町はずれの教会で僕を待っていたけど、来ないので心配になって空から探してくれてたんだろう。

 さすが勇者、変化の魔法も難なく使いこなせるんだな。


「気にするな。行くぞ」


 東の道を視線で示す。同じ方向を見ながら、僕は聞いた。


「え、でも、他のメンバーは?」


「他には誰もいない」


「え? トリプルSランクの魔物を討伐しに行くのに、たった2人ですか? つーか僕は役に立たないので、実質1人ですか!?」


「問題ない。俺は強いからな」


 びっくりして後の言葉が出なかった。魔物の討伐は、勇者とはいえ大仕事なので、複数の攻撃魔導士と補助魔導士、回復役も必須だ。それに道案内や荷物持ちも含めると、5人から7人程度のパーティが一般的だ。1人で討伐なんて無理ゲーじゃないのか?


「で、では、荷物をお持ちします」


 荷物持ち兼話し相手で採用されたので、と手を出す。

 しかし、大鷲の姿で登場した僕の雇用主は、両手に何も持っていなかった。ついでに付け加えると背中にも何も背負っていない。


「あー、そうか、そうだったよな……」


 何かないか、と内ポケットを探っている。大きめの袋を取り出したが、中身が空っぽだったため、辺りをきょろきょろしている。何か適当なものを詰めて持たせよう、と思っているのがありありと分かった。


「あ、あの、無理に荷物作らなくていいので! てゆうか、荷物ないんですか?」


「必要なものはその場で生成できるし、貴重品はここに入るからな」


 と、上着の懐を示す。異次元につながるポケットでもついているのだろうか。


「じゃあ、荷物持ちはキャンセルですね」


「給与は最初の約束通り払うから心配するな。さ、行くぞ」


 収入は変わらず業務内容が楽になったことで、少し得した気分になる。なかなか良い雇用主と出会えたな。

 戦闘は仲間がいらないぐらい強い、人手を雇って運ばせる重い荷物もない、大鷲に変化できるので道に迷っても心配ない。


 ……え? 待て待て待て。おかしくないか?


「どうした、行くぞ?」


 僕が歩き出さないので、雇い主は怪訝そうに振り返った。


「あの、戦闘の補助も荷物持ちもいらないなら、さっきみたく鷲に変化して霧の湖までひとっ飛びでよくないですか?」


「……………」


 金色の眼がゆっくりとした瞬きに隠され、少しして再び現れた。

 めんどくさいこと言うと殺すぞ、とでも言いたげな眼光が僕に突き刺さる。


「なななんでもありません! 参りましょう、社長!」


「なんだそれは」


「え、だって、雇い主だから」


「社長はやめろ」


「じゃ、親分で」


「却下」


「ボスってのはどうですか?」


「採用通知に名前が書いてあったはずだが」


「ワンダーなんとかって、名前というか屋号ですよね?」


「それでいい」


「ワンダーさん……ですか?」


「何か問題があるか?」


 質問に質問で返しましたね、と心の中で昨夜の揚げ足を取りつつ、気難しい雇い主の呼び方について提案する。


「ちょっと呼びづらいので、縮めてワダさんでもいいですか?」


「好きにしろ」


 そこで初めて、黒づくめからの銀縁メガネ転じて金色の眼の人物を、「ワダさん」と呼ぶことに決定した。




 町を出て東へ延びる道を黙々と歩く。


 荷物持ち兼話し相手で雇われた僕は、荷物持ちの仕事がキャンセルになったので、雇い主のワダさんにとっては話相手でしかない存在だ。

 つまり、話相手としてだけ給料が発生しているということだ。


 これはなかなかのプレッシャーだった。給料に見合うトークができるかと考えると、僕なんかよりもっとスキルの高い人はいくらでもいる。


 気にはなったが、「なぜ僕を雇ったのか」という疑問からは目をそらすことにした。


 さっきの様子を見ると、どうやらワダさんは、自分が決めたことや考えてることに対して、詮索されるのを好まない人なんだろう。得てして優秀な人物にはありがちな特徴だ。


 余計な詮索はせず、旅の語り相手として、退屈しない話を披露していれば……。


 だったら吟遊詩人を雇えばいいのに、と口に出しかけて慌てて飲み込む。そういうことを言われるのを好まないということを学んだはずだ、自分。


 そんなこんなで、適当な話題も思いつかないまま、黙々と歩いている次第だ。


「よお、レヴィ。久しぶり」


 不意に声をかけられ、見ると、道端の小さい石像の上にさらに小さな青ガエルが載っていた。昔なじみのテッドだ。


「あ、久しぶり。この辺にいるなんて珍しいね」


「この先の湿地帯でトラブルがあってな。友だちを助けに来たんだ」


「トラブル……?」


「ああ。凶悪な魔物が、俺たちの仲間をさらってるらしいんだ」


「君たちをさらうってことは……ヘビの魔物かな?」


「詳しいことは分からないんだ。よかったら、一緒に行ってくれないか?」


「いま仕事中なんだけど……」


「そうか、とうとう就職したのか。おめでとう」


 とうとう、に多少ひっかかったが笑顔で応じる。


「ありがとう。この先の湿地帯ってことは、竜巻の平原と方向が一緒だから、途中までなら一緒に行けると思う」


 ワダさんの許可を取ろうと、テッドを肩に載せて前方を見る。少し先を歩いていたワダさんは、立ち止まってこちらを見ていた。


「ワ……ダ、さん?」


 すごく、怖い顔をしている。見開かれた金色の眼からは今にも光線が放たれそうだ。


「すすすすみません! 仕事中なのに、知り合いと話してしまいました!」


 就労規則に職務怠慢の罰則の記載ってあったっけ? もうクビかな、減給かな? とにかく謝って許してもらって……と、あわあわしながら駆け寄る。


 ふい、とワダさんが目を逸らした。ものすごく怒ってる! 僕の顔を見たくないほど怒ってる!!


「あの、もしよろしければなんですが、僕の友だちが、えっと、あの、テッドって言うんですけど、モンスターに襲われてる友だちを助けに行くところだって言ってるんですが、竜巻の平原の方向なので、途中まで同行してもいいですか?」


 ワダさんは振り返らずに「構わん」と言うと、そのまますごい勢いでスタスタと歩き出した。


「てっきり断わられるかと思った」


「俺も。レヴィの雇い主、ツンデレか?」


「さあ、どうだろう。今日が初日だからまだ全然」


 分からない、と手を横に振って表現する。

 テッドを肩に載せた僕は、ワダさんを追いかけて歩き出した。


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