心霊体験怪綺談11
十一
きみひこの時にやった除霊だが、結局あの一回だけで後は成功していない。 何度か試みたのだがダメだった。 佐代子にも試みて見たが、「無視しているのか」と怒られてしまう始末だった。 結局あの時は、純粋な気持ちできみひこに解って貰いたいと思った。
そんなピュアなパワーが働いたのだろう。
雑念が混じって無いから、直接心に語り掛ける事が出来た、そんなところだろうか。 どうでも良い事だが、さっきからスイッチをオンにしているのだが電気が付かない。 電気代は払っているので止められる事は無いのだが・・・。 疲れて仕事から帰って来たところなので、電気が付かない状態と言うのも困るなぁ。 そう思って横を向いた瞬間ビックリした。 女の子が背中を向けて座って居るのだ。
「おわぁっ!」
真っ暗な部屋に独りで座って居たのだ。 勿論人間では無いだろう。 まだ心臓が早鐘を打っている。 霊には慣れたつもりだが、こんな登場のされ方だと流石にビックリする。
「なになに、何の用よ」
すると女の子の霊はゆっくりとこちらの方を向いたのだが、またビックリしてしまった。
顔が無いのだ。 顔の部分が真っ暗だ。
その瞬間電気がバチッと大きな音を立てて点いた。 女の子の霊は消えて居た。
「なんやねん!」
思わず正雄は自分自身に突っ込みを入れてしまった。
「おいおいマジ勘弁、こっちは仕事で疲れて帰って来たばっかりやで・・・」
電気も大丈夫かな、変な音がしていたけど。
こいつら(霊のこと)本当に意味が解からない。 用があるなら普通に出てくれば良いじゃないの、それもあんな登場の出方をしといて、どうやら用は無さそうやし。 もしかしたら、俺を驚かそうとしていたのかもしれない。 霊の中には人間を驚かして喜ぶヤツも居ると言う。 何十年、何百年とこの世を彷徨って居れば、そんな考えに成るのかも知れない。 それにしても今日は疲れた、早めに眠る事にしよう。
昨日は結局眠りに付いたのは十二時を過ぎて居た。 人間疲れ過ぎると中々眠れない。
寝不足のせいで仕事場では凡ミスが続き、
工場長から大目玉を貰ってしまった。 お陰で残業をする羽目に成ってしまい、体力的には限界が来てしまいそうでヤバイ。 アパートに着くころには八時を過ぎるだろう、外はもう真っ暗である。 やっとの思いでアパートに帰り着いて、電気を付けようとスイッチを入れるが、また点かない。 部屋に入った瞬間から分かって居た。 こちらに背中を向けて女の子が正座して座って居るのが観えたからだ。 何なのだろうこのガキは、正雄をビックリさせたいのだろうか?それとも何か意味があるのだろうか? 女の子の霊がゆっくりとこちらを振り向こうとして居る。
「コラッ!このガキ、何の用や!」
正雄は大声で怒鳴り散らしてやった。 その瞬間、女の子の肩がビクッとなって居た。 いきなり大声を出したのでビックリしたのだろう。 こちらを振り向きもせずに消えた。
ビックリして慌てて消えたようだ。
「幽霊もビックリするんやなぁ、肩ビクッなっとったわ」
驚かしに来といて、逆に驚かされて逃げていった。 人間を驚かそうとして色々試行錯誤して、こいつら(幽霊のこと)も大変なんやなぁ、そう思ったら考え深いモノがある。
暫くするとバチッと音がして電気が点いた。
「おわっ!こっちの方がビックリするわ、あのガキきっと何処かで笑いよるんやろなぁ」
結局はまんまと驚かされてしまったが、正雄は女の子の霊を許してやろうと思った。
十二
人間はどんな環境にも慣れてしまう生き物なんだなぁ。 今日は日曜日で会社は休みである。 正雄は朝からそんな事を考えながら過ごしていた。 金が無いからである。 しかし始めの頃は本当に驚きの連続であった。
青天の霹靂とはまさにこの事で、まさかこんな世界があるとは思いもよらなかった。
霊の存在にもビックリだが、今現在の現状に慣れてしまって居る自分にもビックリだ。 始めの頃は流石に無理だなと思っていたが、
それがどうだ。
(嘘だろ?)➝(怖い!)➝(なめんなよ)
➝(もういい加減にしてくれ~)➝(仕方がない・・・)➝(ふんっ、無視、無視)➝(どうにもならないやんか!)➝(とにかく逃げたい)➝(憑いて来ている~)➝(何で俺なのだ?)➝(マジ迷惑!)➝(共存するしかないなぁ)➝(あれ?今日は居ないの)
➝(ちょっと心配かも)➝(どこ行ったのよバカバカバカァ~)➝(はぁ~疲れるわ)➝(邪魔するな、ボケ!)➝(出ていけ~)➝
(ふざけるなヨ)➝(待て、行くな)➝(面倒臭いわぁ)➝(どうするの?)➝(もう好きにしてくれ)➝(どうでも良い)
と、今では受け入れる方向で居るのだ。 始めはこんな話は誰にも言わないつもりで居たのだが、いつの間にか広まってしまった。
人に言っても、信じて貰えないと思ったからだ。 この経験をする前の自分だったら絶対に信じない。 しかし、何人かに話してしまった、こんな凄い体験を誰かに話さずにはいられなかったからだ。 実はその後、嘘つきだとか頭がおかしいだとか言う人も何人かは居たが、気にしない様にした。 自分が死んだ時には分るだろう。 気が付いたらもう昼を過ぎて居たが、まだ考えながら過ごそうと思った。 金が無いからだ。 話を戻すが、
信じる人は信じる、信じない人はいくら言っても信じてくれない。 世の中はそんなものだ。 でも現実にこの世界はあるのだ、もしかしたら、自分の頭がおかしくなっている可能性もゼロでは無いだろうが、余りにもリアルすぎるのだ。 頭がおかしくなって居ないことを祈るばかりだ。 実際に観ない事には中々理解するのは難しいだろう。 今はもう慣れてしまって居るので、自分の中では当り前に成ってしまっているが、良く考えてみる
と、当たり前に思って居る自分の方が断然おかしいのだと思う。 何度も言うようだが、
人間どんな環境でも生きて行けるのだ。 霊に対して強気で接する様に心掛けているが、
きっとコレは正解だと思う。 コイツら(霊のこと)は基本頼みごとを言うために現れるから、一番良いのは断る事だ。 無理だと。
ろくなことにならない。 何とも自分勝手な輩が多く、断れば怒り出すヤツも居る。
そうならない為にも、始めから強気にガツンと行くのだ。 人間社会でも同じで、始めからグイグイ強気で来る奴に、頼み事をしようとは思わない、面倒くさい事になるからだ。
そう、面倒くさいヤツと思わせれば良いのだ。 除霊も満足に出来ない正雄だが、そんな人の前にコイツら(霊のこと)は出て来るのだ、何とかして貰おうと思って。 金と時間ともっと強い力が有れば、何とかしてやろうと言う気持ちにもなるが、自分の生活だけでいっぱいいっぱいの正雄にいったい何が出来るのだろうか?何も出来ないのと同じだ。
しかし、ここに居ては次から次へと霊がやって来る。 ここは霊の通り道であり、心霊スポットと化している場所だ。
「引っ越し、しようかなぁ・・・」
思わず正雄は呟いて居た。
十三
こんな光景を観たのは初めてだ。
「何なのだ、コレは?」
来ては成らない、自分自身も人に幾度となく言って居たのだが、懲りずにまた来てしまった。 心霊スポットだ。
事の成り行きは、友人の清隆が女の子をナンパしてきたのだ。 その一人がめっちゃ可愛いのだ、そして心霊スポットに行きたいと言い出したのだ。 女子からそんな事を言われて、断れる男は居ないだろう。 ノリでそんな雰囲気になって居るのに、そこに行くのは危険だなどと野暮な事を言える正雄ではない、二つ返事で付いて行く事になった。 もし今度、危険な事になっても守護霊は助けてはくれないだろう。
めちゃカワ「正雄君って霊が観えるんだよね?スゴイよね、何かあったら守ってね」
正雄「え?ああ、うん」
ブス「きゃ~、私もお願いね」
正雄「・・・」
清隆「正雄、霊を払ったり出来るんか」
正雄「それはまだやね、観えるだけや」
ブス「それでもスゴイよぉ」
正雄「・・・」
めちゃカワ「スゴイよぉ、頼りになるよ」
正雄「そうかなぁ」
ブス「頼りになるって」
正雄「・・・」
この際だから、心霊スポットがどれだけ危険なのかを語っておこうと正雄は思った。 今から行く所まで、道中の演出にもなるだろうし丁度いい。 正雄は語る事にした。
「心霊スポットって言うのはね、霊が集まる所だから、霊がウヨウヨ居る。 それも、悪い霊がね。 コンビニの前に暴走族が溜って居るのを想像してみて、ちょっかいを掛けられるよね?そんな感じ。 良くはないよね。
負の波長が合った霊達が集まって来る。
負け組達がお互いに傷を舐めあって居るのかもね、波長の合った者どうしで野党を組んで居るから、そんな中に入って行ったら絶対にろくなことが無いと思うけどねぇ俺は。 あぁ、行くよ、ここまで来たら行くよぉ勿論。
でも、その負の波長が集まれば怖い事だからね。 余談だけど、幽霊が人を取り殺すとか、霊界に連れて逝かれるとか聴くけれど、そんな事、俺は信じてない。 コイツら(霊のこと)にそんな力は無いからね。 要は誘導する程度だから。 霊に驚いて事故を起こして死んでしまったとかはあると思うけど、所詮コイツら(霊のこと)に出来る事は、誘導だけ。 気が付いたら崖から落ちる寸前だったとか、事故を起こす寸前だったとか、本当に殺すつもりなら、そのまま気付かせないで死なせれば良いのに、そうはしないよね?
それは出来ないから、誘導する事だけだから所詮は。 だから、自分が気を付ければ良いだけの話し。 いたずらに怖がれば、そのたぐいの霊が喜ぶだけ。 強気で行けば良いと思う。 しかし、今俺が言ったのは、一対一の時の話しで、心霊スポットには必ずグループで居るからね。 霊団で。 基本良い霊はすぐに成仏するからね。 例外も無くはないだろうけど、残って居るのは余り宜しい霊では無いよね。 偉そうな事を言っては居るけど、実際この俺も心霊スポットは怖いと思うからね。 行くよ、今回は行くって。 でも気を付けないと、心霊スポットには沢山の霊が居るからね。 数は力なりと言うように、コイツら(今度は霊団のこと)のする誘導なんかは、かなり凄いと思うよ。 強引であり巧みであり、そして繊細であり・・・、まぁ取りあえず、そんな場所には近づかないに越した事は無い、触らぬ神に祟りなしと言う言葉があるようにね。 だから行くって、ここまで来たら行くって・・・」
と言う訳で、結局着いてしまった。 ここは一家心中があった場所だとか、一家惨殺殺人が遭ったとか噂されている所で、山奥にひっそりとあり、普段は大きな門で閉ざされて居るのだが、何故だか今日はその門が開いていた。 嫌な予感がする。
「今日は門が開いて居る!」
清隆が隣からいきなり大声で言うので、女の子達がキャ~ッ!と悲鳴を上げる。 かなり大きな屋敷で門から母屋までかなりある。
長い庭を通り抜けて行く途中で、何体かの霊を観たが、皆 威嚇して来るのだ。 気持ち悪い事この上ない。 威嚇して来る霊は皆眼が色付きだ。 白色の眼。 眼に色が付いて居る霊は怒って居るのだ。 めちゃカワが率先して進んで行くので、引き帰そうとは言えなく成ってしまった。 そして母屋に着いた時にそれを観て息をのんだ。
「何なのだ、コレは?」
母屋は火事に遭ったのだろう、建物は骨組みだけを残した状態だったのだが、その中がびっしりと人の顔(霊の顔)で埋まって居るのだ。 まるでガチャポンみたいだ。 圧巻と言った感じで見とれてしまった。 正雄たちが来たのに気付いたのだろう、一瞬にしてガチャポン達の眼の色が白色やら、赤色に変わって行った。 中には銀色も居る。 怒って居るのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
正雄は恐怖のあまり、大声で叫びながら走って逃げた。 正雄の行動に、恐怖を感じた残りのメンバー達も、正雄の後に続いた。 女の子達の前で面目丸つぶれだが、そんな事はどうでも良い、一刻も早くこの場を離れなければ大変な事になると思った。 もう二度と絶対に心霊スポットには来ない、絶対だ。
その後、周りから正雄はたいした事ないと、負け犬だと陰口を叩かれた事は言うまでもないだろう。