心霊体験怪綺談8
六
正雄はあれからずっと考えて居た。 道を示す事についてである。 どうやるべきなのか見当も付かない。 そんな時知り合いの義男から連絡が入った。 新居を構えたので、
一度顔を出せと言う。 義男は早くから結婚をしていて、子供も二人居る。 新居かぁ、アイツ頑張っているのだな。 正雄と同じ歳なのに大分差が付いてしまった。 いったい俺はこんな所で何をしているのやら。 正雄は焦りに似た様な気持ちを感じた。 来いと言うなら行かねばなるまい。 正雄は新居祝いに何を持って行こうと考えた。
義男の新居は、新築のマンションだった。
コイツはきっとコレを自慢したかったのだろうと思った。 それにしても良いマンションだ、正雄のアパートと比べると天と地程の差がある。 それが自分と義男の差のような気がして少し悲しく思えた。
「おう、いらっしゃい。元気そうだな」
「おお、まぁボチボチや、それにしても良いマンションやなぁ、分譲か?」
「まぁな、しかし住宅ローンだから・・・まだまだタップリと残っている」
「そうか、これからが大変だ」
「まぁ、それでも一国一城の主だからね」
「そうやなぁ、羨ましい限りではある、あ、コレつまらない物で恐縮やけど」
結局何が良いのか分らずに、駅前のケーキ屋で見繕って貰った。
「おう、何か気を使わせてしまったな」
「ホントつまらん物やから」
通り一遍の挨拶を済ませた後、中へと案内された。 しかし高校を卒業して以来だから、実に8年振りになる。 8年でこの差は大きいなぁと正雄はまた思った。 片や一国一城の主、正雄はまだ彼女も居ない。
「それより新聞で読んだが、江藤さん・・・やっぱりあんな運命だったのだな、ヤクザ同士の抗争でなぁ」
「アノ人らしい最後と言えば頷けるけどな」
「確かに・・・」
義男はその後を知らない。 一瞬語って聴かせようかとも思ったけど辞めた、今更言った所でどうしようも無い事だ。
そう思いながらリビングを見廻した時、正雄の眼に変なものが映った。
昭和初期位の陸軍兵士の霊だ。 しかし軍服は血で真っ赤に染まって居り、顔中包帯でグルグル巻き、その包帯も真っ赤に血で染まって居た。 正雄、は何とも異様な姿にドキリとした。 その霊は正雄と目が合うと、ソファーの後ろへ身を隠した。
「どうした、正雄」
「いや、何でもない」
「もう少ししたら嫁が子供たちと帰って来るから、そうしたら飯にしよう」
「あ、ああ、そうだな」
暫くすると、子供たちを連れて帰って来た。
子供たちは正雄を見て、始めこそ大人しかったのだが、段々慣れて来ると正雄にべたべたと引っ付いてきた。 子供は罪が無い、可愛いモノだ。 義男の奥さんが鍋の用意をしてくれた。 正雄は久し振りに家庭と言うモノを堪能できた。 鍋は美味かった。
「そろそろ正雄も身を固めろよ」
「それは相手が居てからの話しだろ」
「なんだ、誰もいないのか?」
「まぁ、居ないと言えば居ないなぁ」
「のんきな奴だなぁ、相変わらず」
義男の妻は隣で笑って居る、正雄は良いなぁと思った。 俺も家庭が欲しいと思った。
「あかにんじゃ~」
「あかにんじゃ、あかにんじゃ」
「あの子たち、又だわぁ」
「ん、ああ」
「もう、赤忍者がどうしたのよ」
「きっと幼稚園で習ったのさ」
「え~、赤忍者を?」
子供の達の指差す方にまたさっきの包帯男が立っていた。 血だらけの包帯男が、赤忍者か・・・子供にはそう思えるのだろう。 やはり子供には観えるのか・・・
正雄はあえて義男夫婦には告げない事に決めた。 放置しても害は無いだろう。
それの折角の新居なのだ。 無理に怖がらす事も無いだろう。 子供たちも怖がっては居ないし、黙っておこうと思った。 知らないことが幸せと言う事もある。 ご馳走を腹いっぱい頂いて義男宅を後にした。