めまい
高校生くらいのある若い子の額から顎にかけ液状の焦りが流れていく。首筋も、肩からも、それは寒気をともなって鳥肌をたてていく。もはや境界はなくなっていたのかもしれない。しかしいつから?その人はその場所にいて、その人は、長机とパイプ椅子の間で、縮こまっていた。
若い子 『最後の最後、彼女は後悔していた、幼馴染である僕にまるで他人のように接してしまったことを、あるいは……』
母親『大丈夫?あなたはここにいるのよ、大丈夫よ』
―近頃めまいがする。まぶしいものに触れて、しかしそれを瞬間的に失ってしまったような。彼女と同じ輝きに満ちたステージにたち、僕は舞い踊る、アイドル、それはアイドル。僕は、彼女になりたかったのだろうか。―
母親『しっかりして、今から先生に診てもらうんだから』
若い子 『彼女の血、肉、体の末路は僕に押し寄せる後悔を残した、隠しきれない失敗をおかしたのだと、もはや平凡な生活にはもどれない、けれど自信があった、これには必ず隠し通す方法がある“そうすれば絶対にばれない”あの女が最後に口にした言葉の続き“ス……キ”の一文字目』
―1か月前
とある平凡な高校にて
『なんで私に付きまとうの?』
『付きまとうって、何が?』
『最近私の人気に嫉妬してるんでしょ、アイドルとして売れてきたから、でも健全なアイドルなんだから、だからってコンサート会場にこないで』
『は?いってないけど』
ある平凡な幼馴染の男女がいた。二人とも平均的な顔立ちで、女の名はサナ。男の名はテル。教室でのたわいのないひと時、だが最近すれ違いが多かった。何やら彼らの直ぐ傍で妙な事が起きている、あるいは起ころうとしているのを示すように。その時も背後から級友が余計な言葉を放った。
『一昨日だったか、お前最近女と歩いてるのをみたぞ、テル』
その瞬間、その言葉に妙に感化されたようで、あるいは茶々にイライラとしたのか、サナはもっていたハンカチをその級友の男にむかってなげた。
A『おい!!なげんなよ』
B『おまえラッキーだな、アイドルのタオルだぞ』
A『おまえ、最低なこというなよ、それに……俺がみたのは』
その時テルが、クラスから出ていくサナの姿をみた。
テル『あっ、まてよ、こいつまだ何か……』
A『テル、お前も変だな、俺がみたのは、一昨日おまえがサナと一緒にいたとこだけど』
テル『ん?一昨日?その日は俺、家にいたはずだけど』
B『それってもしかして、ドッペルゲンガー?』
A『何々、まじ?』
テル『いや、兄貴かも、ん?でも兄貴も今この町にはいないはずだけど……』
A『お前さ、素直になれよ、まだ好きなんだろ?子供の頃から大好きな幼馴染っイデっ、殴んなよ』
テルは突然まじめな顔になり、窓の外を見た。心の中で太陽をみつめてつぶやいた。
テル 『俺が誰を好きだろうと関係ないだろ』
(彼女はもう遠くなり、まぶしくめまいのするような存在になっている)
テルはその時内心、サナはもはや自分では手が出せないとそう考えていたのだ。
その数日後……テルとサナは偶然出会った。テルは、昔からよくサナに物を貸していた。だからその日は、ゆかりのある場所、とある公園で彼女を待ち構えていた。少し読みなおしたいコミックを返してもらおうとおもっていた。今考えればそれもある種の口実だったかもしれないが。近頃、自宅のすぐ隣にあるサナの自宅にも彼女は帰らない。それほどに忙しくしているらしいのだが、この場所には落ち込んだ時彼女がよく来るのをしっていた。テルは昔からサナの事が好きだったが近頃、距離を感じていた。何より、ある時期からサナが妙な対応をし始めたのだ。自分を突き放すような、だからここで待つことにしたんだ。しばらくすると、サナはやってきた。やっぱり悩みがあるとどうやらこの場所にくるらしい。自分が待ち構えていたのをみて、あきれて入口でしばらく棒立ちになっていたが。しばらくすると公園の特等席―ブランコに座った。
『借りてなんてないって』
『貸したよ』
サナは公園のブランコにすわっており、そのブランコの鉄柵の外側にテルがいた。
『あんたの兄貴、ケイさんからかりたのよ、あんたは不潔だから、私あんたなんかから借りないわ』
『不潔って何が……』
サナはいいずらかった。自分があるときものを返しに行っているときに、テルの恥ずかしい姿をみてしまったことを。幼馴染で隣通しテルには、よく似たケイという兄がいた。サナは昔ケイの事が好きだったこともあり、近頃事あるごとに、彼の名をだす、まるで自分の本当の内心を隠すように。
『まあいいよ、早いとこ返してくれるなら、この場所はおまえの特等席だ、悩みの邪魔はしねえよ』
『まちなさいよ、あんたが先にここにいたんでしょ、あんたがここにのこんなさいよ』
『何?』
サナはスカートのお尻をたたいてほこりを払った。
『ライブ会場に二度とこないでね、あんたに気を使われるのも付きまとわれるのも嫌だから、私もう帰るわ』
彼女はツンとしてブランコから降りて、そそくさと駅の方へ向かっていってしまった。
『はあ?いってないし、周りがみえねーのか、ここはただの公園、昔一緒に言った公園じゃねーか、貸したのは俺で、お前が多分ここにいるとおもってここにきたのによ』
テルのほうもすねながら、スマートフォンで色々な情報をチェックしていた。彼女が悩んでいるのを邪魔した事をごまかすように、現実逃避をしていた。少し時間がたち、体感では5分くらいだったが、彼女に話しかけようと呼びかける。
『サナ……って本当にいっちまったのか』
見渡すともはや日がくれた公園がそこにあり、彼女の姿はもう見えなかった。見回りの警察官が自転車にのって自分に近づいてくる。
『君、どうかしたのか?』
『どうにもしてないです、今の今まで、友達がそばにいて』
『早く帰りなさいよ』
その夜、スマホのメッセージアプリでのやりとり。
《サナ》今日は言い過ぎたごめん
《テル》俺も熱くなりすぎた、ちょっと混乱してて
《サナ》でもびっくりするよ、いくらなじみの公園とはいえ土砂降りの後にあんな場所にいつんだもの、ちょっと怖かった。ストーカーかと。
《テル》いや、悪い。貸してたものだけどいつ返してもらってもいいから、昔は勉強とかよく教えてもらってたよな、それで貸し借りなしだ。
《サナ》そういえば、Aがいってたことって何?新しい彼女できた?
《テル》未返答
だれにも聞こえない声で、“犯人”がつぶやく。すべてが終わった後で。すべてがおわったあの簡素なパイプ椅子と長椅子の薄黄色の部屋で。
『僕は、彼女を殺してしまった、けれどこの世のだれも、そのことには気づかない、あの哀れな女の最後に気づかない』
(最近めまいがしてとまらない。彼女を殺したせいだろうか)
ズキンズキンと頭痛がする、もうすこしすればこの部屋に“先生”とやらがくるのだと右わきに座る母親が何度となく自分に呼びかける。窓から日光がさす。それさえも最近体調を悪くする原因に思えた。誰にも聞こえない小声でつぶやいだ。
『彼女は、僕に殺された。好きの嫌いは反対、彼女は潔癖症で僕を嫌い、その反面僕を好いていた』
(僕は、このめまいが消える頃には、僕という存在がまるで泡のように消えるような気がして。彼女と一つに慣れる気がしているんだ……)
言い訳のような言葉ばかりがうかんで、話す言葉も支離滅裂。だがその人には殺人の記憶があった。薄暗闇の森の中、二人の男女がもめあう映像が記憶の中にある。男が貸した本を女性が返そうと話していた。
『せっかく、この公園であったんだし、あえるとおもったから、テルがかしてくれた本返しにきたよ』
男は知っていた。女が凶器をもっていたことを。胸元できらりと光る何かに、怪しげな雰囲気を感じていたのだった。
《ズキン》
頭痛が走り、映像は切り替わる。男と女がもみあいになり、男が、女が倒れているすきになぐりかかり、しかしそれを女がよけたので、男はそばに落ちている女が持ってきた包丁をてにして、女の腹部を刺そうとした。しかしそれはあまり勢いがなく、女の腹部の何かにつきささる。
【なんだ……これは?本?】
男が、倒れている女の上着をはぎ、腹をみると女が腹部におとこが貸していたコミックをだきかかえてきていたようで、そのせいで女は一度一命をとりとめたのだった。
2か月前、サナの所属する件のアイドルグループ、遠方での公演の後。
『ちょっと!!ま、ち、な、さいよ!!』
『!?!?』
サナは、テルの影をおっていた。楽屋の前を彼が通りすぎた、その影が見えた気がしたのだ。
『テル!!なんでこんなとこまでついてくるの!!私があなたの家の窓からのぞき見してたこと本当はしってるんでしょ!!』
『はあ!?』
サナに手を取られ、男がふりかえる、小太りの似ても似つかない男だった。機材の入ったケースを肩に背負っている。
『なあ、あんた、だれに話してるんだ?疲れてるのか?俺はそのテルって人じゃないぞ、俺はただの照明さ、あんた、今日でてたアイドルグループの子だろ、変な噂をたてられてもこまるんだ、これで失礼するよ』
『……』
サナはひろいホールの長い廊下に一人たたずみ、眉間にしわを寄せ鼻根を人差し指と親指でつかんだ。
二週間前
その日、テルは珍しく自分からサナに連絡をとった。電話をしかけたのだった。というのも、近頃喧嘩が多かったからだ。学校でも喧嘩、昔よく遊んだ公園でも喧嘩。このままでは自然に仲が悪くなってしまう。それに勘違いされていることも多いような気がする。だからこの際あれこれきこうと電話をかけた。だが、その時だった。電話をしかけた彼の直ぐ傍で、着信音がなる。それは直ぐ傍、サナの家の方から、つまり自分がかけた音かもしれないと思ったテルは、サナの家のほうをみあげる。テルはその時一階のリビングにいたが、一階のリビングからではお隣をみることはできない。自室に移動する、自室からは二階のサナの部屋がみえるのだ。自室に戻る、とそこで彼は驚いた。
『つっ』
サナは、サナの自宅の二階の窓から、一階のテルの部屋を覗きみていた。夕方7時半のことである。やっと電話が通じてサナがでた。
『もしもし?テル?何なの今……』
『……オイ、電話したのはほかの理由なんだが、気になるんだよ、なあ、お前今俺の事ずっとみてるだろ』
『何いってるの?テレビみてよ、いま、生中継中じゃない、今ライブ終えたところよ』
『……』
テルはテレビをつける、たしかにサナのグループがさきほどまで歌っていたらしい映像がながれる、目の前で起きたことが信じられなかったが、これにはテルはオカルト番組か何かで見覚えがあった。
『どうしたの?』
『お前、“生霊”って信じるか?』
テルがサナに詳しく説明する。その場所にいなくても魂だけが気にしている人物の目の前に飛んでいくことがある、それがドッペルゲンガーの正体だという説も目にしたことがあった。
『ドッペルゲンガー、あるいは生霊かああ、もしおれがそれででたら、俺を……殺してくれるか』
『は?』
『冗談だよ』
『笑えないんだけど、フッ』
なんだかんだその日はその話題で盛り上がったのだった。
1週間前。
午後7時頃。二人は偶然、あの公園のそばにいた。
『なあ』
『何?』
何の打ち合わせもせず同じ時間に、公園の入り口に二人、偶然、そこに居合わせたのだった。
『……』
『……』
その日は最初から、その時その場所でいあわせてから、不穏な雰囲気だった。だからだろうか、公園の裏側の山に散策しにでかけたのは、それは子供の頃でさえ、休日にしかでかけないほどの場所だった。あるきながら、二人は知らず知らずのうちに暗がりにおびえるように手をつないでいた。
『ねえ、私、死んだほうがいいのかもしれない』
『!?』
『あんたが付きまとっているっていう話、私の思い込みだったみたい、私の怨念、生霊だっけ?多分それが、悪さをして、私幻覚までみて……ちょっと悩みが多くてさ、あんたに頼りたいこともあったのよ、それなのに、あんたのせいにしてばかりいてごめん、私、幻覚をみていたみたい、いや、あんたにも見せていた、か』
『何の話だよ』
聞くと、サナはAから件のドッペルゲンガーを街で見かけた時の事を聞かされたようだった。
『あいつ、余計なことを……』
『私ね、私本当はあんたのこと……』
しかし、はっとしてサナは、テルの事をたたいてみた。自分の頬もつねってみる。異常はない。
『生霊じゃねえよ』
テルが冗談じみて話した、するとサナは笑った。
その後、公園をでて裏山にのぼった、その上のある丘で、二人にとってはそこも思いで深い都市が見渡せるその山の隠れスポットで、二人はくつろいで座った。
『私たち昔から兄妹みたいにそだったよね』
何気にいい雰囲気で、だがお互いにそれを口にすることはできなかった。
『そうだな、確かに』
『私のためなら、なんでもしてくれたもんね、ケイさんが助けてくれた面もあったけれど、でもあんたは無鉄砲だけどいつも私をかばう事をしてくれた』
『たしかに、お前は大切な友人だからな』
少し間をおいてそれまでとは違う少し低い、しゃがれた声でサナがいう。
『じゃあ、もし、私が追い詰められて死にたいといったら私と一緒にしんでくれる?』
『お、おい冗談だよな』
彼女の胸には光る凶器、包丁がにぎられていた。
『なんの冗談……』
『最近あんたの幻覚をみるのよ、そこら中で、そのせいでヘンナヤツ扱いされて、軽くハブられてる、せっかく夢見たアイドルになれたのに、私はあんたとアイドルとどっちつかずで、そのせいで胸がね……何かつっかえてるみたいで、』
あわただしく、サナは口早に口走る。テルはサナを落ち着かせようとするが、その言葉がみつからない。
(こいつ、昔から異常な潔癖症だった、何かをはっきりさせたいとき、周りのいう事も聞かないんだ……)
テルの額からは大粒の汗がながれる。その凶器が、もし自分に向いたら、そう思うと兄妹の契りなど忘れてしまうほどに焦りが生まれた。
『何が?お前がすきなのは兄貴だろ』
『たしかに、相談はしたわ、あんたの痴態について、でもそれだけよ、私あんたの事嫌いじゃない、好きでもない、とにかく潔癖症なの、ケイさんよりきっとあんたのほうが私に似てるから、気になって気になって、それも無意識に……あんたが悪いのよ、私意外の女で変な事してるから』
テルはサナに笑われた気がした。そもそもそんなところを覗くのが悪いという思いと、少し前にサナの部屋から自室をじっとみられた不気味さがつきまとって、少し突き放すような態度にでた。恥ずかしさをごまかすためでもあった。
『お前、例の件、俺がお前のしらないアイドルの写真で何してようが勝手だろうが!!それを兄貴にいうなんて、俺のことバカにしてるだけだろ!最近うれてるからって!』
『触らないで!』
テルはサナに突き飛ばされる、公園からずっと夜の闇でよくみえなかったが、サナの目を月明りに照らされたその目をよくみるとクマだらけになっている。
『お前、何をそんなに一人で悩んで』
『あんたの事が気になって、好きでも嫌いでもどっちでもいいんだけど、私潔癖症なの、あんたしってるでしょ、きになってきになって、それがきっとあんたのいう、オカルト的な怨念になって……だからAも変な事いってたのよ』
『おい、ちょっとまてよ、おちつけよ!!』
テルがサナの肩をゆさぶる、サナは自分の肩をだいてふさぎ込み、体育座りでひじにかおをつっぷしていた。
『……両立ができないのよ、あんたの事、好きなのか嫌いなのか、あんたが好きなのか嫌いなのかわからなくて、ケイさんなんて、私には遠すぎるし』
ふと、サナが一人でたちあがり、自分の喉元に凶器の先端をおしあてた。
『だから私きめたの、あんたがとめたら、あんたのために生きていく、けどあんたがとめてくれないなら、アイドルとして、首になる前にここで死ぬわ、だって最近グループの皆とまともにコミュニケーションなんてとれてないんだもの』
サナは勢いよく包丁をにぎり、少し距離をとり手を伸ば勢いをつけるような姿勢をとった。
『くそっ』
そこでテルがとった行動はm彼としてはとっさの行動だった。それがどういう結果をもたらすかはわからないものの、何か新しい選択肢をもたらすと信じていたのだ。それがどういう結果になっても二つの選択肢よりはいい気がしていた。
『昔からお前、アイドルになるのが夢だったじゃないか、俺はなんでもする、だからそれをよこせ』
背後からおおいかぶさるようにして、テルはサナの両手をつかみ、包丁をぶんどった。しかし、それでふと体をはらった拍子に、女の弱いからだがのけぞり、くずれおちてたおれこんだ。それが運悪く、坂を転がり、2,3転しておおきな木に頭をぶつけたのを目撃した。
《ゴツッ》
『おい、大丈夫か、おきろ、おい!!』
『うっ……』
テルはまずいとおもって女からうばった凶器を彼女へ返した。というより彼女のそばに放りなげたのだ、一瞬、その一瞬でも証拠を隠滅しようとしたのだった。
『……ケイ兄、助けて』
彼女が、うめき声をあげる。その声をきいたテルは、全身から血が上る。テルには、ひとつトラウマがあった。走馬灯のように記憶がよみがえる。かつて、親友に自分の恋人をとられ、二人とも失踪してしまった。
テルがこぶしをふりあげる。とっさに、サナはその場に、ケイがいたら何をするか考え、包丁に手を伸ばした。だがその包丁はテルに取られた……。
再び時は現在に戻り、長机とパイプ椅子の部屋。長髪で髪の毛がぼさぼさのわかい子と両親がとなりあいすわる。その前に白衣をきた男性が座り質問を問いかける。
先生『何か近頃心理的にショックだったことは?』
彼は、ゆっくりと答えた。その声は、低い男の声だった。
若い子『最も気になる人が、実は私の初恋だったらしい事です、けれど相手には複数の相手がいて……』
テレビが隣の部屋で流れていた、何の変哲もないCMの映像だった。
親に支えられていた若い子の肩が震えだした。
《ガタガタガタガタ》
親 『ほら、先生、肩が震えだした、これが《性格》が変わる合図なんです。本当のあの子が……きっと先生の前でなら本当のことを』
ふと一瞬全く違う声で、若い子が語りだした先ほどまでとは違う、女の声で。
若い子『ありえないわ、私が……彼の事をここまで気にしていたなんて、彼の痴態をみてから、私はおかしくなった、そうよ、彼が悪いのよだって、不潔にもよくしらないアイドルをみてその……痴態をさらしていたのだから』
その若い子は……長髪の毛がぼさぼさで男だか女だか、わからない。
先生『おちついて話して、ショックな事なんて誰にでもあるし、トラウマなんて誰にでもある、解決できないことなんてひとつだってないんだ、心の持ちようさ』
若い子『だから殺したのよ、魂と遺体は私の中にとじこめたわ』
先生『ちょ、ちょっと、いま何て』
母『聞き間違いよね、そうよね』
母が子の肩をゆさぶる、いつかのように。先生が立ち上がり叫ぶ。
先生 『ちょっと奥さん、これは私の手に負えないかもしれない』
若い子『私は人を殺したのよ、けれどその事実を忘れようと、私は今の今まで、その《男》になりきっていたの!!』
息をついて、大きく息をすって、彼女は叫んだ。
若い子『テルは私が殺した!!だっておかしいじゃない、こんなに好きな私意外の前で痴態をさらして、それに、私は彼がほかの女と一度つきあっていたという事実を隠して、私は彼が気になりすぎて、アイドルである事と普通の女の子であることを両立できなくなった、私は、ついには、幻覚をみるようになったのよ、公演にくるのは幸せそうなカップルばかり、私は、私は、想いなんてつたえられない、伝えたとしたら、アイドルは続けられないし、もし失敗したら、みじめなじゃない、私、潔癖症なの……だから、あの時、拾い上げたナイフで彼を刺したわ』
その少女と親と対面に先生が座る長机とパイプ椅子の部屋、その隣の待合室でテレビの音が鳴り響く。
『~テルさんがが無残な姿で発見されたのはこの森の奥深くでした』
とあるニュースの映像だった。