流れたくないお星さまのおはなし
2022.01.14
表現を修正しました。うっかり漢字を使ってしまった……
月→おつきさま
2022.01.17
教えていただきありがとうございます、まだ漢字ありました!!
足→あし
『よぞらをほしがながれたら、ねがいごとをさんかい』。
これが、わたしたちのくにのこと。
でも、そのくにでは、ねがいごとをかけると、ほしがながれるのです。
こころでだいじにあたためたねがいごとを、ほしぞらにむけてさんかい。
こころのなかでていねいにとなえると、それはおほしさまにとどきます。
『このねがいをかなえてあげよう』そうおもったおほしさまは、そっとそらからとびだします。
そうして、よぞらをながれながら、とけていくのです。
おほしさまのなかには、ふしぎなちからがつまっています。
ねがいをかなえる、やさしいかみさまのちからです。
おほしさまがそらにとけて、ひかりかがやくそのちからが、オーロラになってふりそそぐとき、ねがいことがかなうのです。
あるひとは、さむさをしのぐ『がいとう』を。
あるひとは、うえをしのぐ、たべものを。
あるひとは、かわきをいやす、きれいなみずを。
あるひとは、どんなびょうきもなおす、おくすりを。
あるひとは、あんしんしてねむることのできる『おうち』を。
あるひとは、はるかにたびだつための、ふねを。
あるひとは、じぶんのために。
あるひとは、かぞくのために。
あるひとは、あいするひとのために。
みんな、おほしさまにねがいをかけ、のぞむものをいただきました。
そうして、おおきなふじゆうもなく、くらしていました。
もちろんそらにとけてしまえば、おほしさまは、そのいのちをおえることになります。
それでも、おほしさまたちはまんぞくでした。
だれかのしあわせのために、じぶんのいのちをつかうことができる。
そんなじぶんたちに、ほこりをもっていたのです。
おほしさまたちは、ほこらしくかがやきなから、やさしくあたたかく、ちじょうのひとびとをみまもっていました。
――ひとつの、ちいさなほしをのぞいては。
* * * * *
そのちいさなほしは、じぶんのみのうえがいやでした。
だれかのために、じぶんをぎせいにするなんて。
そんないきかたは、したくない。
ずっといつまでもじぶんのため、きらきらきれいにかがやいてたい。
そんなことをおもう、ちいさなほしは、いつもおみみをふさいでいました。
ひとびとのねがいごとを、きかないようにです。
けれど、そうしているうちに、ちいさなほしは、かがやきをうしなっていきました。
ダイヤモンドのようだったかがやきは、どんどんとしぼみ、ついにはちっちゃなビーダマのようになってしまいました。
かがやきをうしなったちいさなほしは、そらをとぶちからもなくし、そのまま、ちじょうにおちてしまったのです。
ちいさなほしが、おちてゆくさき。
そこには、ひとつのまちがありました。
おほしさまへのいのりでつくられた、いくつものたてものがならぶ、おおきなおおきなまちです。
おうちのまども、おみせのウィンドウも、みちゆくひとたちのきるものも、みんなきらめきでみちています。
そんなまちの、どまんなか。おおきなひろばのそのまんなかに、ちいさなほしは『ぽとん』とおちてきました。
「やあ、たすかった。
ここなら、だれかきづいてくれる。
そうして、ぼくをぴかぴかにみがきなおし、おそらになげてくれる。
だって、ぼくはおほしさまだもの。よぞらできらきらしている、おほしさまなんだものね」
ちいさなほしはつぶやきます。
けれど、ほっとしたのもつかのま。
きらきらのふくをきたひとたちは、にぎやかにおはなししながら、ぴかぴかしたおみせのウィンドウをのぞきこみ、とおりすぎていきます。
ひかりもしない、ちいさなほしには、だあれも、めもむけてくれません。
「どうして、きづいてくれないの?
ぼくは、おほしさまなのに。
みんながあこがれてみあげる、おほしさまなんだよ。
ねえ、ねえ、きづいてよ。
いまこそちょっとこんなだけれど、みがけはぴかぴか、ひかるんだ。
きれいなきれいな、おほしさまなんだよ」
おほしさまは、こえをあげます。
けれど、ひとびとはきがつきません。
「ああ、なんてこと。
あのころはみんな、うっとりとぼくをみつめていたのに、いまとなってはこのありさま。
ひかりをなくしたぼくなどは、だれにもきづいてもらえないというわけか。
なんて、りふじんなことなんだ。
ねえ、ねえ、きづいてよ!
おほしさまが、ここにいるんだよ!」
ちいさなほしは、ぷんぷんとおこりだしました。
それでも、やっぱりだれも、ちいさなほしをひろいあげてくれません。
やがて、ちいさなほしもくたびれてきました。
ふっと、こんなことをかんがえます。
「どうして、こんなことになったんだろう。
ひかりがなくなっていって……そらをとぶちからがなくなって……
ぼくはなにか、わるいことをしたのかな?
まさか、ひとびとのこえをきかないで、ずっとみみをふさいでいたから……」
ちいさなほしは、やっとそのことにきづきました。
「ああ、ぼくは、まちがっていたんだ!
『ねがいをかなえるおほしさま』としてうまれたぼくが、そのさだめにさからっていれば、かがやきだってうしなわれていく。
でも、どうすればよかったんだろう。
ぼくは、おほしさまでいたかった。ずっと、おほしさまでいたかったんだ」
ぽろぽろ、なみだがこぼれます。
みあげるひとみにうつるのは、まんてんのほしぞらです。
もしもこれがひとならば、たすけてくださいとおねがいもできたてしょう。
けれど、ちいさなほしは、そうもいきません。
ただ、なくしかできないのです。
「ああ、こんなことになるのなら。
だれかのおねがいを、きいてあげるのだった。
それがどんだけ、つまらないものでも。
こうして、なににもならず、みちばたのいしとして、ころげてなくなるよりは、まだどれほどに、よかったことか」
そんなふうになげいていれば、ちいさなかわいい、こえがしました。
「ねえ、きみ、どうしたの?
ちっちゃなビーダマみたいだけれど、ビーダマは、ないたりしないよね。
ねえ、きみはだぁれ?
いったいどうして、ないているの?」
みればそこにいるのは、ぼろをまとった、ちいさなおんなのこです。
はだしのあしも、ちいさなほしをひろってくれたやさしいおてても、すすにまみれてよごれています。
けれど、きれいなそのりょうめは、きらきらとほしのようにかがやいています。
そのすがたに、ちいさなほしはおどろきました。
「きみ、いったいどうしたの?
そんなまずしい、かわいそうなかっこうをして。
おほしさまにおねがいをしなかったの? きれいなふくと、あたたかなおふろをくださいと」
このまちではだれもが、きれいなかっこうをしてあるいています。
このこのように、ぼろきれをきたりしていません。
けれどおんなのこは、にっこりわらっていいました。
「だって、そんなことをしたら、おほしさまがいのちをうしなってしまうじゃない。
そうしておようふくをてにいれるより、たとえぼろでも、じふんのちからでてにいれたもので、いきてゆきたいの」
しかしそこまではなすと、おんなのこは『こほんこほん』とせきこみました。
よわよわしく、ちいさなせきです。
ちいさなほしは、さけんでいました。
「なにをいっているんだい、そんななりで、このふゆをこせるものか。
しかも、きみはびょうきじゃないか。
さあ、はやく、おねがいごとをするんだ。そして……」
おんなのこは、ちょっとハッとしたようでした。
けれどすぐ、しずかにくびをふります。
「ううん、いいの。
だってわたしは、もうながくない。かなしむかぞくも、もういない。
そのわたしのために、おほしさまのいのちをつかうなんて、よくないことだもの。
やさしいおほしさまには、おほしさまのままでいてほしいの。
わたしなんかを、たすけるよりも」
そういってわらうおんなのこは、まるでてんしのようでした。
でも、かなしいてんしです。
ちいさなほしのりょうめから、もういちどなみだがこぼれてきました。
ちいさなほしは、ちいさなおんなのこに、いっしょうけんめいにいいました。
「ねえ、ちいさなこ、よくきいて。
ねがいをきいて、オーロラになったおほしさまは、それでおしまいじゃないんだ。
たとえ、めにはみえなくっても、ねがいごとをしたひとをつつみ、そばでまもってくれているんだ。
ぼくは、きみをまもってあげたい。
そうすれば、きみとぼくはいっしょになって、もっとしあわせにいきられるから。
ぼくも、このままではながくない。
のこったいのちもきえはててしまうまえに、ぼくのいのちを、きみのいのちとひとつにしてほしいんだ。
おねがいだ。ぼくを、きみのてでかかげて、おねがいをして。
『げんきになって、しあわせいっぱいにいきたいです』と。
ぼくがかなえるよ。かならずかなえる。
だから、そんなきれいなひとみで、たすからなくていいなんて、ごしょうだから、いわないでおくれ。ちいさなかわいい、ぼくのてんしよ」
いつしかちいさなほしは、おんなのこのてのなかで、かがやきをとりもどしていました。
ダイヤモンドよりももっとまばゆく、まんまるなおつきさまのようにやさしいひかりが、ちいさなほしからあふれます。
かがやくほしの、あたたかくやさしいことばに、おんなのこのめからも、たくさんのなみだがあふれだしました。
* * * * *
そのふゆは、ゆきのふかいふゆでした。
いくども、まちがまっしろにそまっては、ひざしをあびてふんわりとけて。
やがてすっかりとゆきがきえてしまえば、みちばたに、のはらに、たくさんのはながさきました。
あっちからもこっちからも、たのしいわらいごえがあふれだします。
にこにことさんぽをするおとなたち。
はしゃいであそぶ、こどもたち。
そのなかに、あのおんなのこがいたのは、いうまでもありません。
あれは、ふゆのはじめのこと。
きれいなめをしたわかものが、まちにやってきました。
そのわかものは、だれもがおどろく『すごうで』のおいしゃさんでした。
やさしくって、おはなしもおもしろくって、とってもハンサムなおいしゃさんは、すぐにまちのにんきものに。
いまではみんな、びょうきになったらおほしさまにいのるのでなく、このおいしゃさんのもとにきます。
さいしょにおいしゃさんにたすけてもらったおんなのこは、おとうさんもおかあさんももういなく、おうちもなかったのですが……
おいしゃさんのおうちにすみこみで、おてつだいをするようになったので、みんなひとあんしんです。
げんきをとりもどし、きれいなふくをきて、だれよりもあかるく、かわいくなったそのおんなのこは、いつもおいしゃさんをこうよんでいました。
おほしさま、わたしのちいさなおほしさま、と。
『おほしさま』とおんなのこは、それからずっとずうっと、げんきにしあわせにくらしたのでした。
おしまい