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【3/14コミカライズ開始】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい  作者: 来栖千依
第3部

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24話 第二王子のしんかい

 屋外の稽古場で剣を振るう騎士たちを、レイノルドは騎士団長と並んで見守っていた。


 冷えた空気に、白く立ち上る息。

 雪こそ降らないが気温はもう冬と呼んで遜色ない。


 今年入った団員は、長剣や槍などさまざまな武器を手にしている。騎士団は冬に重点的に稽古を入れるので、今は定まらない形も冬を超えると見違えるようになる。


 レイノルドはつたない剣筋に自分を重ね合わせた。

 次期国王とはいえ、実際は来襲した公女に振り回される青二才だ。


「俺はルビエ公国に行くことになった。手練れを数名連れていきたい」


「では、ヘンリー・トラデスを筆頭に、殿下の役に立ちそうな者を編成しましょう。私ほどではないですが、盾になりそうな大男や曲芸ができる者もいますよ」


 分厚い胸筋を叩いて力自慢をする団長に、レイノルドは大真面目に尋ねる。


「魔法に詳しい騎士はいるか? ルビエ公国に行った際に対処できる人員がほしい」

「我が国では、見たことも聞いたこともない者ばかりかと……」


 言葉をにごされてしまった。

 当然だと思いつつ、レイノルドは落胆を隠せなかった。


「そうだよな。無理を言ってすまない。長距離の移動に耐えられそうなのを数名頼む」


 稽古場を出たレイノルドは、馬車までの道を足早に歩いた。


(自力で記憶を取り戻すのは無理か)


 ルクレツィアにルビエ公国で結婚式を挙げたいと言われ、国王が賛同していると聞いたレイノルドは、真っ先に一人の侍女を思い出した。


 マリアヴェーラ・ジステッド。

 またの名を〝高嶺の花〟。


 幾度となくレイノルドの前に姿を現す彼女は、たぶん自分の大切な人だった。


 どんな関係を築いていたのか思い出そうとすると、頭が痛んで倒れそうになる。側近は知らないと言うし、他の者に聞こうとするとオースティンにはばまれる。


(マリアヴェーラ本人に聞こうとしたら、キャビネットが倒れてきた)


 あれは不運な事故ではない。

 マリアが二人の関係を語ろうとした瞬間、レイノルドは自分の足元から蜘蛛の糸のような細い光が伸びるのを見た。

 光が絡みついたキャビネットは、あっという間にマリアに向かって倒れてきた。


(あれは魔法だ)


 間一髪のところで下敷きにならずにすんだが、もしもレイノルドが助けなかったらマリアは死んでいただろう。


 震えるマリアを抱きしめながら、レイノルドは考えていた。

 あんな真似ができるなら、記憶を書き換えることも可能なのでは?


(だが、証拠がない)


 魔法でレイノルドの中にあるマリアの情報が消されたとしたら、犯人は十中八九ルクレツィアだ。

 オースティンの行動を見ているかぎり単独犯の線はありえない。


 問題は動機がわからないことだ。


 大国の公女で妖精のような見目を誇るルクレツィアは、縁談相手に事欠かなかったはずだ。

 タスティリヤ王国の第二王子に取り入って結婚したところで、彼女にメリットはない。


(記憶を取り戻すには、ルビエ公国に行って魔法の解き方を探すしかないか)


 目的のために、レイノルドはルビエ公国行きを承諾した。

 ルクレツィアは母国で結婚式を挙げられると喜んだが、もちろんレイノルドに彼女と結婚する気はない。


 自分にかかった魔法を解いて、本当の記憶を取り戻し、タスティリヤ王国に戻ってくる。


 馬車に乗り込んだレイノルドは、座席に落ちていたラベルピンに気づいた。

 スズランの形のそれを上着につけると、なぜだかマリアヴェーラの顔が浮かんだ。


 涙をぼろぼろこぼす横顔と、幼子みたいな泣き声。

 気高く完璧な令嬢のそんな表情、いつどこで見たんだったか。


(戻ってくるまで、あんたとはお別れだ)


 王妃の元にいる彼女を想って、レイノルドは目を閉じた。

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