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19話 よりあつめ文殊知恵

 誰がレイノルドの記憶を改竄したのか。


 ヘンリーの証言によると、もっとも怪しいのオースティンだ。

 彼は魔法に詳しかった。魔法というよりは、魔法使いの置かれている立場についてか。


(魔法を解くには、どんな方法があるのかしら?)


 マリアは、兄ダグラスが所有していた魔法に関する書物を片っ端から読みあさった。


 魔法を使うには生まれ持った魔力が必要だとか、魔力がない人間は一角獣の角から採れる魔晶石を使用するとか、基本的な情報ばかり。


 魔法がどのように使われ、解呪には何が必要かといった実践的な内容に触れた本はない。


「そういう知識は魔法を使える者たちの間で伝えられていくものだ」


 とは、持ち主であるダグラスの言である。


(タスティリヤ王国に魔法の使い手がいるわけがないわ)


 他の方法はないかと悩む昼下がり、ヘンリーが助けを求めてきた。

 何やら恥ずかしそうなミゼルを連れて。


「君のお友達、本当にヤバいんだけど。見てよ、この怪我!」


 ヘンリーは自分の頭に巻いた包帯を指さす。

 その隣に座ったミゼルは、しょんぼりと肩を下げた。


「マリアヴェーラ様に内緒で、記憶を取り戻す方法を探そうと思ったんです。ヘンリー様本人の了解を得て、びっくりさせたり、氷で冷やしてみたり、しまいには棒でぶったりしてみたんですが記憶は戻らないみたいで……」


「まあ、そんなんで戻るわけなかったよね」


 痛い思いだけして損した気分、とヘンリーはソファの背にもたれかかった。


「王子サマを助ける手段が手に入るかもって協力しちゃったオレが馬鹿だったし、ミゼルちゃんに賠償とかは求めないけど、オレらじゃ無理だよねって結論になったわけ。で、マリアヴェーラちゃんにご報告に上がったんだよ。レイノルドとはあの後どう?」


「二人きりでお会いすることはできましたわ」


 観劇の夜を思い出すと胸がきゅっと切なくなる。


 レイノルドは、恋人だった頃の記憶はなくとも、マリアを泣かせることに罪悪感を抱えていた。

 今まで疎んでいたのに、あの夜は抱き寄せてくれた。


 彼の厚い肩から見えた満月を、マリアはありありと思い出せる。


「レイノルド様は、わたくしの恋人だったことはお忘れです。けれど、心のどこかでは覚えていらっしゃるようでした。わたくしに泣かれると困るそうですの」


「どうでもいい令嬢が泣いたって、何も感じないのが普通だよね。ってことは、レイノルドの中にはマリアヴェーラちゃんへの恋心はちゃんと残っていて、魔法で眠らせられてるってところかな」


「眠っているだけなら、対ショック療法が効くかもしれませんね!」


 ミゼルが拳を振り上げた。

 ヘンリーはその腕をパシッと掴んで攻撃を封じる。


「待って。記憶が戻っても、怪我で再起不能になったら意味ないんだからね。あと、王子サマを殴ったりしたらミゼルちゃんの身が危ないでしょ」

「そうでした!」


 はたと我に返るミゼルを、マリアは口元で手を隠しながらクスクスと笑った。


「わたくしは書物をあたってみましたが、魔法を説く方法はのっていませんでした。ミゼル様とヘンリー様が実践したショック療法でもないとなれば、次の手に出ましょう」


「次って?」

「何をなさるつもりですか?」


 興味津々で前のめりになる二人に、マリアはまるでこれから舞踏会にでも行くかのように、優雅に言い放った。


「力づくで方法を吐かせますわ」


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