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14話 れきしてき禁断魔法

 レイノルドは、ルクレツィアと結婚するためにマリアを無視したのではなく、恋人だったことを忘れてしまったのではないか。


 疑いを持ったマリアは、王都の西にある高等教育機関・タスティリヤ王立大学にやってきた。

 歴史や政治、国際情勢をマリアに教えてくれるコベント教授なら、記憶を消す魔法があるか知っているはずだ。


 コベントを訪ねていくと、歴史書が詰め込まれた研究室に通された。


「とある人物だけ忘れさせる魔法ですか……」


 マリアが着ている深紅ドレスと同じ色の図鑑を閉じて、コベントは眼光を鋭くした。

 こんな教授を見るのは珍しくて、マリアはごくっと唾を飲み込む。


「コベント教授ほどの方ならご存じかもしれませんが、レイノルド様は現在ルビエ公国の公女殿下との結婚準備をされています」


「第二王子殿下はマリアヴェーラ様とご婚約されているはずでは?」


「その通りです。わたくしは婚約破棄されておりません。これまで準備してきた結婚式を乗っ取ろうとしているのは公女殿下。そして、それを静観しているのがルビエ公国との縁をつなぎたい王妃様です」


「レイノルド王子殿下の意思はそこにはないと?」


 けげんそうな教授に、マリアは首肯した。


「もしも本気でルクレツィア様に乗り換えるなら、レイノルド様は先にわたくしに別れを告げます。そういう人ですわ」


 レイノルドの人柄は十分に知っている。

 一途で、誠実で、ちょっとだけ悪戯好きで、マリアのためなら人を殺せると断言するくらい、恋をまっとうする覚悟を決めていた人だ。


 思いがけない恋に落ちたとて、後を濁すような飛び方はしない。


「ルビエ公国には魔法使いがいて、王族や貴族が活用しているそうですね。魔法で記憶を変えることはできますか?」

「できますね。残念ながら」


 コベントは丸眼鏡を外して、疲れた目元を手でもんだ。

 話すのに体力を使うような重たい話をするようだ。


「記憶の改竄は、魔法が使われるどの国でも禁止されています。使った者は国外追放に処されると、百年前にルビエ公国が代表を務めた、魔法利用に関しての国際会議で決められました。ルビエ公女ともあろう方が、それを侵すとは思えませんが……」


「もしもレイノルド様に横恋慕したら、そういうこともなさるかもしれません」


 大真面目に言うと、コベントは楽しそうに笑い出した。


「恋のためとは、素敵な発想ですね。そういう柔軟な考えは大学の教授にはできない。貴方はいい生徒ですよ」


 ひとしきりマリアを褒めて、さてと立ち上がった教授は、歴史書の詰まった本棚から一冊の分厚い本を取り出して手渡してくる。


「これは国際会議で制定された、魔法に関する五十条を解説した一冊です。記憶改竄がどれだけ罪深いか読めばわかります。実際のルビエ公国で魔法がどんな使い方をされているのかは、マリアヴェーラ様の兄ダグラス様がお詳しいでしょう」


「そういえば、お兄様の留学先の一つにルビエ公国があったわ!」


 兄は留学中にルビエ大公の息子と仲良くなったと言っていた。

 もしかしたら、ルクレツィアが侍女も連れずにタスティリヤにやってきた理由を何か知っているかもしれない。


「ありがとうございました、教授! わたくし、レイノルド様を取り戻すために頑張ります」


 糸口を見つけて表情を輝かせるマリアに、コベントはにこにこと頷く。


「貴方なら、絶対にできますよ」


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