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第三話 告白と不一致①

 キーンカーンカーンコーン


 俺らが通う中学。

 3年A組に入ると、俺は祈里の席へと向かった。

 確か、祈里の席はここだったよな、と挙動不審になりながらも窓際の席にちょこんと座る。


 隣の席を見ると、そこはまだ誰も来ていない。


 俺の隣の席こそ、転生前の俺が座っているはずの場所。俺はチラリチラリとその席の主が来るのを待った。

 メズルフが言うには転生前の俺は今ここに居る俺とは別に存在すると言う事だ。ややこしいので以後は転生『前』の『楽』と言う事で『前楽』と呼ぶことにする。


 前楽は始業ギリギリになっても中々登校してこなかった。

 俺が何故かハラハラしていると、自分の正面の眼鏡っ子がくるりと振り返る。

 パッツンな前髪と黒ぶちメガネが印象的な木古内きこない 真心まこ。俺の記憶が正しいとするならば、祈里の親友だ。


「ねぇ、祈里?」

「え! な、何?」


 突然話しかけられて俺はビクッとしながら真心を見た。ここからは楽だとばれないように接していかなきゃいけない。祈里の両親は家に二人ともいなかったので、『祈里』として初めて話しかけられた俺は内心は不安でいっぱいだった。


 そんな驚いた俺を真心はちょっと笑う。


「なにびっくりしてるのさ?」

「べ、別にぃ?」


 俺はばれないように平静を保ちつつ、短い単語で話を返す。声が裏返っているような気がする。そんな俺をみた真心はにやにやと笑って見せる。どうにも薄気味悪い笑い方だ。俺は目を細めた。


「ははぁん! やっぱり! そう言う事なんだ!」


 嬉しそうに真心が手のひらを打つ。実にわざとらしい。しかし、話の内容はさっぱり分からずに、俺はさらに目を細めることになる。ついでに眉間に皺もよっていた事だろう。


「何の話?」

「ウチにまで惚けなくて良いって!! アイツでしょ?」

「アイツ??」


 真心が指を差す先を視線でたどると、そこには前楽の机がある。


「辻井君に呼び出されたんだって?」

「…………」


 その一言を受けて、俺はふと思い出した。


「あ」


 慌てて黒板を見ると、5月4日。それは俺と祈里が付き合い始めた、というか俺が祈里に告白したその日だった。すっかりと失念していた。俺は死んだ日から一か月遡って転生しているのだ。過去を追従する形で出来事は進むのだろう。

 俺が目を見開いていると、真心が覗き込んできた。


「え、まさか昨日あれだけはしゃいでたのに忘れてたの?」


 真心は俺の様子にドン引きしているようだ。

 慌てて首を横に振る。


「ち、違う……わよ?」

「わよ?」

「ち、違う……よ?」

「わよ?」

「違うってば!」

「あはは! 緊張でおかしくなったのかと思った! それとも急に女の子らしく喋ろうとしていたの?」

「ほっとけ!!」

「はいはい」


 俺は少し真心を遠ざけるようにそう言うと真心は肩をすくめて前を向いた。危ない。話し方がさっぱり分からない。祈里がどう喋っていたかなんて正直分からない。


 懸命に頭の中で女らしい話し方を模索していると、ガララと大きく扉が開いて、40代ほどの男性がゆっくりと入ってくる。担任の今田先生だ。悪いが、下の名前は覚えてない。


「ホームルームを始めるぞ」


 今田先生の声が響くとみんなが自分の席へと座り始める。けれども相変わらず、前楽は来ていない。どう考えてもこれじゃ遅刻だ。俺の馬鹿野郎。


「出席取るぞー青井~」

「はい」

「赤坂~」

「はぁい」

「木古内~」

「はい!」


 どんどんと1人1人の名前を呼ばれていく。俺は未だには前楽が来ない事にそわそわしながら教室の後ろ側のドアをじっと眺めていた。


「信楽~」

「……」

「信楽、居ないのか?」

「あ!! は、はい! います!」

「ぼーっとするなよー」

「すみません」


 その事に夢中になりすぎていて自分が信楽祈里だと言う事を一瞬忘れていた。先生のじっとりとした目がこちらを見ている。俺が愛想笑いをしていると、鼻から息を漏らして出欠の続きを取りはじめる。危なかった。


 今田先生が名簿を見る。もうじき前楽の番だというのに、まだ来ない。


「辻井~」

「……」

 とうとう、名前を呼ばれた。俺が返事をしそうになるが、今祈里の声で「はい」なんて言えるはずもない。あ~あ、遅刻だよ。全く何してるんだか。

 と思ってると、廊下からバタバタという音が聞こえて勢いよくガララッとドアが開いた。

 俺はそこから入ってきた人物を見て大きく息をついた。やっと来やがったよ。


「はーい!! 辻井、います!!」

「辻井……お前、また遅刻か!?」

「今返事間に合ったんで、ぎりぎりセーフですよね!?」

「ったく。普通ならアウトだぞ! まぁ、今日は良しとしてやるが、また同じことやったら遅刻だからな?」

「ありがとうございます!!」


 そこにいたのは、まぎれもない、俺だった。

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