第六話 愛天使と接近作戦②
チャイムが鳴り、昼休みが始まると俺は3方向声がかかった。
「祈里さん、私、ご飯持ってきて無いんですが……」
これはメズルフ。
「どういう事か説明してよね!?」
そして、真心。
「なぁ、祈里。さっきの話を……」
最後に前楽。
ほぼ同時に3人が話しかけてくる事態となり俺は当然困った顔をした。
「悪いんだけど、先に祈里を借りるわ」
「いや、俺の方が大事な話が」
「おなかすきました~」
もはや面倒くさい。
「ちょっと待って3人共!」
「待てない」
「待てないわ」
「待てないです」
3人は声を合わせてそう言ってきた。どうしてこういう時だけ気が合うんだよ!
「だって、毎日一緒に昼ご飯を食べているのはウチだよ?」
「今日くらいいいじゃねぇか! 急を要するんだよ」
「祈里さん、私のお腹は限界です! 朝ごはんも食べてないのに!」
3人共順番を譲る気はなさそうだ。
「だあああああ!!! もう、わかった。じゃぁさ、こうしよう?」
業を煮やして俺は3人を解くように間に入る。
「4人で昼ご飯!!屋上に行こう!」
最早こうするしかなかった。
◇◇
何も持ってきて無いって言うメズルフに、購買でパンとジュースを一つ買ってやってから、俺ら4人は屋上へ来た。適当な壁の縁に腰掛ける。
初夏の風が優しく流れる。心地のいい昼休み。
そう感じて空を眺めたのは他でもない。前3人がやんややんやと騒ぎ始めたからだ。俺が一人空を仰いでいるのは現実逃避でしかなかった。
「ってか、メズルフ。さっきの話だと、昨日あの場にいたって事だよな」
「はい、もちろんいましたよ?」
「その場に居合わせてたの? ねぇねぇ、どんな感じだった?」
「楽はー、告白しようと祈里さんを呼びだしたくせに~、ずっと待たせた挙句出来なかったんですよ~? ぷぷっ!」
「うっわ、意気地なし」
「いや、それを本人の前で言う!?」
仲良さげに楽と真心とメズルフは話始める。むしろ、祈里のふりを課せられている俺は口を出さないほうが良いような気がして黙々と朝、祈里が作ってくれていた弁当を食べている。あ。ミニトマト入ってる。俺ミニトマト苦手なんだよな。なんて、どうでも良い事に思いをはせる。何なら俺ここに居なくて良くない?3人で仲良くやってるじゃん。
「そもそも、俺、結局肝心な話を祈里に出来てないんだからそう言う言い方やめろよ」
「じゃぁ、今すればいいじゃないですか!」
「するって何をだよ?」
「だから、ここで今、告白してくださいよ! 祈里さんに!」
メズルフがとんでもないことを言い出した。もちろん、俺も、前楽もその言葉に固まる。昨日『告白されなかった事』をここで取り返そうとしているのが見え見えだ。いくら何でも焦りすぎだ。
「いいんじゃない? 昨日しようとしてたんでしょ? いま告白したって変わりないじゃない」
まさかの真心までそんな事を言い出す。大きく違うよな?告白って周りにはやし立てられながらすることじゃないと俺は思うんだが!!
「ちょっと待てよ。告白って周りにはやし立てられながらすることじゃないと俺は思うんだが!!」
前楽が今思った事を一語一句違わずに代弁してくれる。さすが、俺。思う事は同じらしい。
「こーくはくっ!こーくはくっ!」
「メズルフ、止めよう?ね?」
「こーくはくっ!こーくはくっ!」
俺が止めに入っても、メズルフはそれでも前楽をはやし立てる。すると屋上にいた他の人もメズルフの大きな声に反応してこっちを見始める。前楽と俺に視線が集まった。
「ほら、さっさとしちゃえばいいじゃない」
真心もそれを面白そうに眺めた。なんだこれ、公開処刑もいい所だ。こんな中で告白とかしたくない。もし、順調に付き合えて結婚までした時に『告白の思い出』がこんなのは絶対に嫌だ。それでも、メズルフはきっとつじつまを合わせることしか考えていないだろう。
「……」
「こーくはくっ!」
「…に…ろ」
「こーくはくっ!」
「……いい加減にしろ!!!」
前楽の怒声が屋上全体に響き渡り、しんっ、と屋上が静まり返った。
メズルフはようやく、前楽の怒りに気がついたようだ。ぽかんとした目で前楽を見た。
「人の事を馬鹿にすんのも大概にしろよ?」
低い声で前楽はメズルフにそう言うと、そのまま屋上の出口へと向かい歩いていく。
「あ! ちょっと!? 楽! 待って!?」
俺も焦って呼び止めるが、前楽はこちらを全く見向きもせずに姿を消してしまった。
「これは、やっちゃったね」
「……やっちゃいましたね」
メズルフと真心は二人、気まずそうに顔を見合わせる。
「やっちゃったねじゃないでしょ!?」
どうしてくれるんだ!強引過ぎるんだよこのアホ天使は!!!