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第四話 愛天使と私生活②

「……アホか?」


 カッコいい風のポーズをり続けているメズルフに俺はもれなく突っ込みを装った本心をぶつける。


「アホって何ですか、アホって!愛のキューピッドだって歴とした天使の役目です!!」

「ふぅん。それで、愛の弓矢とかで胸を射抜けば祈里と恋に落ちるのか!」

「そうです! 愛の弓矢があれば……!」

「おおお! それを早く言えよ!! で、その弓矢はどこにあるんだ? 早速打ちに行こうぜ!」


 俺がメズルフに食い気味に近づく。するとメズルフはかっこいいポーズを止めて思いっきり笑った。


「……そんな神器、私が持っているわけないじゃないですかぁ!」

「……は?」

「だから、キューピッドは言葉のあや! 私が恋が成就できるようにお手伝いするって言ったんです」

「……!!」

「嬉しいでしょ!? このメズルフが力添えするんですよぉ!」

「お前なぁ!!! ……期待させやがって!! 羽を出せえええええ!!」

「なんで怒ってるのおおおお!?!?」


 俺はメズルフに飛びかかるが羽をすんでの所で仕舞われてしまった。


「ふっふっふ! 3回目はありませんよ!」

「ちっ!」


 勝ち誇った顔をするメズルフに舌打ちをする。


「もう、私に任せておきなさいって! ちょっと、色々とやることがの出来たので私は外出することにしますね!」

「は?」

「明日は寝坊しないで学校へ行ってくださいね!!」

「ちょ、ちょっとまてって!!」

「では、また明日!」


 ガララとドアを開けるとメズルフはあっという間に空へと飛び立った。

 こんな住宅街で堂々と空を飛んで大丈夫なのだろうか、とちょっとだけ思うがまぁ、きっと大丈夫なんだろう。


 突然一人になってしまった俺はやることもなく部屋にちょこんと座った。


 どうしようか。


 辺りを見渡して俺はふと思う。

 祈里の家の事を俺はよく知らない。

 俺の記憶によると祈里は一人っ子だと言っていたが、両親の顔さえ分からかった。


「参ったな。俺、祈里のふりを一か月も出来る自信の方がない」


 誰もいない部屋に祈里の声が響いた。最初から難題続きのこの状況を打破する為にはまず、祈里っぽい行動を把握しなくちゃいけない。


 俺は、部屋の配置をまず見て回ることにする。自宅で迷子は一発で祈里じゃない事がバレるだろう?


 祈里の部屋は2階にある。俺は階段を降りると、目の前には綺麗で広い玄関が広がっている。きっと靴は揃えてきちんと並べて置くのだろう。びっしりと隙間なく靴が並んでいる。几帳面で綺麗好きな性格は家族全員なのかもしれない。

 これは、俺の実家の玄関と対照的すぎる光景だった。俺の家は年下の弟と妹がいるのも相まって、ぐちゃぐちゃに投げ飛ばされた靴が乱雑に並ぶ。同じ玄関でもこんなに違うのかと、我が家の玄関を俺は少しだけ懐かしく感じた。


 と、思いにふけっている時間が勿体ないので、俺はさっさと次に行く。誰もいない静かな部屋を一つ一つ見て回る。玄関から見て正面にオープンキッチンのある広いリビング、左手にトイレとその奥にはバスルーム。そして、右手には両親の寝室があるようだ。寝室には家族写真がおいてある。そこにはお父さんとお母さんに囲まれて笑う祈里の姿があった。


「これが祈里の両親の顔……」


覚えておかなくては。俺はその顔をまじまじと見て記憶に刷り込むと、寝室を出た。


「さて、と」


部屋を大体見終わった。腹は減ったが、それよりもやりたいことが俺にはある。


俺は足取り軽く風呂場へと向かった。


「メズルフが居ない、今がチャンスだよな!」


そう、風呂場へ向かったのは、もちろん風呂に入るためだ。一か月もこの体で過ごすんだ。風呂に一度も入らないわけにはいかないよな?と、心の中で誰にとは言わないが言い訳をする。



 綺麗にたたまれているタオルを一つ取り出すと俺は制服を脱ぎ始める。スカートのフックが上手く取れずに悪戦苦闘すること数分。ようやくスカートも脱げ、下着姿の祈里が鏡の前に現れる。


「……祈里……」


 思えば祈里の体を乗っ取ってしまっている状態なのかもしれない。


 だとすると、本物の祈里の魂はどうしてるのだろう。俺の方が偶然、強くて表面にいるだけで、この体に祈里の魂がいるのだろうか?だとすると、祈里にずっと見られてる……!?


「……風呂はいるだけだからな!!」


 俺は意を決してブラジャーのフックに手を伸ばした。しかし、またもやブラジャーのフックが上手く取れずに格闘すること数分。下着を脱いで、俺はようやく全裸になった。


 俺、と言うより、祈里を全裸にしてしまった。


 そう思うと顔まで赤くなる。これから一か月これを続けていくのだろう。


(ちょっとくらい、見ても罰は当たらないかな……?)


 俺はちらっと鏡を見た。そこには祈里の全部が映っている。

 色白の肌。たわわに実った胸。そしてくびれたウエストの綺麗なライン。

 服を着ていた見る事が叶わなかったいろいろな部分が今目の前にある。


(綺麗だ……)


 そう思った。それなのに、俺の中で不思議な感情が湧き上がる。


 男だったら絶対に喜んで食い入るように見つめる大好きな女性の裸。


 なのに、なぜだろう全くときめいていない。というか、心は踊っているのに、全然、全く、これっぽっちも性的な物を感じない。


(……??)


 数秒俺は鏡をみていたが。やはりそう言うやましい気持ちにはならなかった。しばらくかんがえた後俺はある結論に至る。


(あー……そっか。俺、今、女だから女の体見てもときめかねぇのか?)


 きっと、祈里自身が祈里にときめかないのだ。だから体が祈里の体を見ても全く反応しない。体が反応しないと、ムラムラと言う気持ちにならないのか。と、ものすごく心と体のギャップを感じた。なんだろう。この、モヤモヤとした気持ちは……。


(……風呂入ろう)


 風呂に入っていきすぐにシャワーのノズルを捻った。

 シャーと言う音と共に心地よいお湯が流れてくる。


(せっかく、せっかくの祈里の裸なのに!)


 俺は半分泣きながらそれを顔面から浴びるのだった。





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