捜索 ◇白藤視点◇
早めの投稿になります!
《白藤様視点》
「はぁ―――……」
嵐の過ぎ去ったような室内で、俺は蒼狼の為に準備された寝台の上に腰掛けたまま、頭を抱えて深い溜め息を吐いた。
やっちまった。
ひたすらにやっちまった。
ただただ最悪だ。
―――神獣になるのを辞めて欲しいと言えば予想通りブチ切れられ、そのまま勢いでカミングアウトしてみれば、ブチ切れていた事を忘却する程にドン引きされた。あまりの引かれ具合にちょっとした冗談で場を和ませようと声を掛けてみれば、全力で逃げられた。
もう一度言おう。
ドン引きされて全力で逃げられた。
……あぁ―――――――――っ、もうっ!!
ってヤベ。またちょっと泣けてきた。
俺だってなぁっ、やりたくて女装なんぞしてるわけではないんじゃよ。戻って来てくれんかのぅ。蒼狼さんやぁ……。
俺は精神的に随分老けながらたっぷり15分は悶絶していたが、結局蒼狼が戻ってくる事はなく、俺はフラフラと立ち上がった。
「蒼狼を探さねーと」
だって逃げられたからと言って話は終わりじゃない。寧ろこれからだ。
何処かに行ってしまった蒼狼を探す為、俺は一歩ニ歩と足を踏み出そうとしたが、おかしな事にもどかしい程足が思うように動かない。
不思議に思って足を見下ろせば、俺の足はガクガクと震えていた。
「……あれ?」
震えが止まらない。さっきは緊張のせいで震えが出たけど今は……?
震えがさっさと治まるようにと膝をさすっていると、ふとさっきの蒼狼の言葉が脳裏に蘇った。
『……なら次は、白藤様が【呪印】がなければどんな目に遭うのかを理解なされた方がいい』
―――……。
正直、めちゃくちゃ怖かった。
蒼狼に腕を押さえられた時、俺がどんなに力を込めてもまるで重い岩で固められたみたいに俺の体は動かなかった。
蒼狼が言葉を話す毎に口元で見え隠れするその牙は鋭く尖り、俺の肉を裂く為にあるのだとでも言っているようだった。
護衛獣は恐ろしい。
人並みの知力を持ち、人より遥かに強い力を持つ者達。
彼等がその気になれば、俺なんか一瞬で首をへし折られ、肉を噛みちぎられ、腹を裂かれる。
宮に居る聖獣達は呪印のせいで、俺に危害を加えることは絶対に無いが、呪印のない蒼狼は……。
「……」
俺はそれ以上の思考をやめ、また思う様に動かない足でのろのろと歩き始めた。
呪印など無くても蒼狼を信じてるとか、信じたいとか別にそんなんじゃないんだ。
これは蒼狼にも言ったが、俺は蒼穹を手に入れたいなんて欠片も思わない。
ただ、そこに思いを馳せながら眺めていたいだけなんだ。
だから蒼狼に呪印を刻むなんて本末転倒。以ての外だ。
そもそも別に空から落ちてきた落雷に打たれたり、隕石が降ってきても、俺は空を恨む事はない……というか恨みようがない。
ただ、自分の不運を惜しむだけ。つまりそういう事なんだ。
だからとにかく今はビビってる場合なんかじゃない。蒼狼ともう一度話をしないと。
「おーい蒼狼ーっ、蒼ー狼ーくーん!! 何処ですかぁーっ?」
俺は声を張り上げながら、ゆっくりとした足取りで塔の中を蒼狼を探し歩いた。
◇◇
そして30分後。
「―――……いない」
俺はまた4階の執務室に戻ってきていて、そこでガックリと膝を突いていた。
まじかよ、何処にもいねぇし。
塔の中の全ての衣装ケースの中すら覗き込みつつ蒼狼を探したのに、蒼狼の痕跡や気配は何処にも見つけることは出来なかった。
俺の心は早くも折れそうになり、同時に焦りと不安が湧き上がってくる。
―――まさか外に出たとかないよな? 白藤宮の敷地外の警備に捕まった場合、いくら俺が神獣に仮任命しているとはいえ、印なき者は不審者として有無を言わさず取り押さえられる可能性がある。そして万が一にもそれが上帝様の耳にでも入ったら……。
「っっ蒼狼!! 何処だ!!? 蒼狼―――っ!!」
俺は叫びながら塔を再び駆け下り門の外に出た。
途端、いつの間にか雨が降り出していたせいでモワッとした湿気が俺の肌に纏わりついた。
俺はふとその湿気に、もう一つ蒼狼に自由に出入りしていいと許可していた場所があった事を思い出す。
「―――……そうだ。来客用の温泉風呂……。あそこも蒼狼に好きな時に好きな様に使えって言ってたんだ……」
ポツリとそう呟いた俺は、またハッとある事を思い出し、苦悩のあまり頭を抱えてその場で蹲った。
「……しまった。“風呂場の小人”の件も訂正してねぇ……。この状況でそんな下らない訂正を言い出せるのか? いや、無理だろ……なんであんな事言ったんだよ、あの時の俺えぇっ!!」
雨足の強くなりだした音に被せ、俺はぶつぶつと過去の自分を責めた。
……や、もう小人の件はこのままではよくないか? いや駄目か。あのクールボーイ蒼狼君が、友達に得意げの小人の話をしてる姿とか最早目も当てられないっ。
やっぱちゃんとこれも訂正しないと。
俺はゆらりと立ち上がると、重い足を引きずるようにしてそれでも前に進みだした。
―――待ってろよ、蒼狼。……俺はお前をそんな恥辱に塗れさせたりはしない。……って言うか本当にごめんね!
目指すは温泉。
頼むからそこに居てくれと願いながら、俺は客人用の温泉風呂を目指し歩き始めた。
◇
長い本殿の廊下を抜けた東宮殿の奥に、その風呂場はある。
塔を出たこの本殿内部は円慶や女官達、それに唱鶏が彷徨いている可能性があるため、俺はまた“姫言葉”に戻して蒼狼に小声で呼びかけ続けた。
「蒼狼、おりませぬか……? 蒼狼」
道中に応えが返ってくることはなかったが、東宮殿の奥の花鳥風月と銘打たれた露天風呂についた俺は、その暖簾を押し開けて中を覗いた瞬間、ほっと小さな安堵の息を吐いた。
脱衣所籠に、蒼狼が着ていた濃紺の着物が綺麗に畳み置かれていたのだ。
俺はホッとして小声で奥の露天風呂に声を掛け、そちらに向かった。
そして何気なくヒョコリと浴室を覗いた時
俺はそこでとても不思議な物を見た。
―――それは頭に蒼狼と同じ顔と、胸にCカップのおっぱいを付けた女の子。
…………え? 誰?




