小さな村のエリク
初投稿です。なんとなくの雰囲気でお読み下さい。ふわっとね、ふわっと。
エリクは大陸を十字に走る街道を外れた小さな村で生まれ育った。山々の間を縫うようにして作られた畑で作った雑穀で腹を満たし、山から採れる木の実や山菜を蓄えに。時折狩る獣がごちそうになり、物々交換の品になる。贅沢ではないが飢えで死にはしない、そんな生活だった。
村には年に2回、街道を通ってやってくる行商人がいた。目ぼしい産業もなければ娯楽なんて何もない小さな村にどうして来てくれるのかは知らないが、村人の生活を支える品を携えて春の始めと秋の終わりに必ずやって来る。
立ち寄った街や村の流行りから大陸を分かつ国々を統べる王家の噂話まで、村人にとって行商人は大事な娯楽でもあった。
エリクも例に漏れず、村人の生活を支えてくれる行商人が大好きで、とりわけ大陸を抜けた先にあるという海の話はかぶり付きで聞き入るほどお気に入りだった。
曰く、一年を通して凍らない水源、北の山を飲み込むほどに深い水底。川を泳ぐ魚よりももっとたくさんの種類の魚の楽園、水平線とは北の山脈より長いのか。日々変わる青い水面、瑠璃・紺碧・浅葱に縹色とはどんな色なのか。海は未知の領域であるとともに、小さな村で生まれ育ったエリクには想像もつかない憧憬でもあった。
大きくなったらこの目で観てみたい、そう思うのにいくらもかからなかった。