ハナソ!
イチコ「ハイ! 皆さんこんにちは!
この白黒ハッキリするまで部屋から出られません会も、
遂に10回目を迎える事が出来ました! 拍手!!!」
フミ「わぁぁ♪ おめでとう〜!」
篠原「パチパチパチ…(やる気のない拍手)」
イチコ「拍手が小さい!」
篠原「まぁ2人しかいないからな、最大ボリュームに限界があり過ぎるだろ」
イチコ「…本当だ?!?! 最初は10人以上いた筈なのに……
解釈違いに同担拒否、多くの人々が戦い、傷付き去っていった……」
フミ「じゃあ私達は精鋭って事だねぇ♪」
篠原「いや、単純に議題がどんどん迷走していったのが原因だ。
最初の頃は白と黒どちらを選ぶか、とかマトモだったけどよ。
最終的には生きるべきか死ぬべきか、の境地に達してたじゃねぇか」
フミ「確かにそれは演劇部が考える問題かもね?」
篠原「いや違う、そういう問題じゃない。シンプルに重い」
イチコ「それは確かに反省してる…ので!!
今回は原点回帰してライトなやつを選んでみたよ☆
今日の議題は!!!
”甘いのとしょっぱいの、どっちが好き?!”」
篠原「あー…確かにそういう感じなら、また人も増えるかもな」
イチコ「でしょでしょ?!
今日の結果をまた掲示板に張り出して、我こそはって人を呼び込もー!」
フミ「おー! 頑張ろうねぇ♪」
篠原「じゃあ俺しょっぱいので」
イチコ「結論はやっ! あんたの反応がしょっぱいわ!」
篠原「だってこの世にある食いもんってしょっぱい方が多いだろ」
イチコ「そんな地球規模で雑な多数決を取らないでくれる?!
今はこの部屋が全てだから! ここが世界だから!」
フミ「イッツ・ア・スモール・ワールドだねぇ♪」
イチコ「ちなみに私は甘い派!
結局のところ究極の選択って、
無人島に一つだけ持っていくなら何かって話でしょ?
塩は海にいくらでもあるし、砂糖一択で!」
篠原「お前こそ論点ズレてんじゃねぇか!」
フミ「私もどちらかっていうなら甘いのかなぁ?
悲しい時とか甘いものを食べると落ち着くし♪」
イチコ「分かる〜!
へこんでる時にしょっぱいもの食べたら泣いちゃうよね!」
篠原「泣いた時こそ塩分補給だろ」
イチコ「そういうフィジカルな話じゃなくて
メンタルの話をしてるのよ私達は!」
フミ「あ~ぁ!
甘いのとしょっぱいの、無限ループ出来たら良いのになぁ〜」
イチコ「分かる…!!
けど白黒ハッキリしないその結論だけは絶対にダメよ?!」
篠原「それにそういう事言ってると太るぞ」
フミ「篠原くん…言っていい事と悪い事があるよ?」
篠原「すみませんでした」
イチコ「あまじょっぱいも禁止ね!
あれは双方の欲望を叶えている様で実際はどちらも中途半端に満たされ、
常にどこか物足りないと感じて延々と食べ続けてしまう悪魔の食べ物よ…
そしてあまじょっぱいは大抵高カロリー……」
フミ「この世の食べ物なんて
ぜーーーんぶカロリーゼロになれば良いのにね☆」
篠原「おい、お前らこそフィジカルな話になってないか」
ガラガラッ
先生「お疲れ! 今日も元気に白黒してるかー?」
イチコ「先生! やってますよー!
今日の議題は、甘いのとしょっぱいのどっちが好き? です!」
先生「おー、それは確かに人類永遠のテーマだね」
フミ「先生はもう化学の補習授業は終わったんですか?」
先生「あぁ、終わったよ。
というか、篠原君は補習に参加してないといけない筈なんだけどな?」
篠原「うっ…!!
そ、そんな事より先生! かる〜く入って来ましたけど、
今ここは白黒ハッキリするまで出られない部屋なんですよ?!」
先生「分かってる分かってる、この部屋出るべからずってね☆
でも入るなとは決まってないだろ?」
イチコ「そんなトンチみたいな言い方しないで下さい」
先生「ははは! じゃあ行きはよいよい帰りは怖い…かな?」
イチコ「怖い話っぽく言うのはもっとダメです!!!」
フミ「怖い話…
そうだ! ねぇ、みんなでコックリさんやってみない?」
イチコ「突然なに言い出すのこの子は?!」
フミ「3人で結論を出すよりもさ、先生だって来てくれたし
コックリさんも入れて5人で話し合った方がよくないかなぁ~と思って!
そしたら奇数になるし♪」
イチコ「コックリさんを数合わせのメンツに呼び出す普通…?!」
篠原「まぁ確かに、
3人で結論を出すってのも人数が少なすぎて微妙ではあるけどな」
先生「なかなか楽しい提案だね、先生も賛成☆」
イチコ「でもそういうのって、
遊び半分で呼んだら呪われるって聞くし…」
フミ「う〜ん、じゃあコッソリさんを呼んでみようよ☆」
イチコ「…誰それ?」
フミ「分かんないけど、
なんとなーくコッソリさんに変えたらライトな感じしない?
そんな派生系いたりしないかな??」
篠原「まぁ該当なしなら来ないだけなんじゃねぇの」
イチコ「えぇぇ…
なんか更に馬鹿にしてる感じもするけど大丈夫なのかな……」
先生「大丈夫大丈夫!
コッソリ呼べばいいんだよ、コッソリさんだけに☆はははっ」
イチコ「もう、先生まで…仕方ないなぁ」
フミ「ワーイ♪ じゃあ紙を用意するね!」
先生「コインなら先生が持ってるよ」
イチコ「よし! 準備OK!
どうしよう、いきなり今回の議題を聞くのも味気ないし……
試しに過去問から!
コッソリさんコッソリさん、おいでください。
生きるべきか、死ぬべきか……」
篠原「おい! だから重いんだよその質問! 無駄に怖いだろうが!」
イチコ「確かに!!!
さっき丁度話してたからつい……
いやでも、流石にコッソリさんなんていないよね??
そんなググッても出てこなさそうな…」
篠原「!!! コインが、動いてる…」
イチコ「え?! 本当に?!?!」
フミ「どうしよう、手が勝手に…」
・・・・・し・・・・・
全員「!!!!!」
篠原「おい、みんな手を離せ!!!」
フミ「ねぇ、これって教えてくれたって事、かな…?」
篠原「俺達が議題で出した時の答えは生きるべきだったから、
少なくとも過去問の答えを教えてくれた訳ではないだろうな」
フミ「え、じゃあ…」
先生「し……死……呪われちゃったかな??」
イチコ「先生! そんな軽いノリで言わないで下さい!」
先生「ごめんごめん。答えてくれるんだったら、
本人に直接聞くのが一番良いんじゃないかな?
続きをやって、レッツ・コミュニケーション☆」
イチコ「うぅ、ノリが軽い…」
篠原「まぁ偶然かもしれねぇし、もう一度試してみるのはアリだろ」
イチコ「そうだよね…先生の言う通り、やってみよう!
コッソリさん、コッソリさん…
…怒ってる……??」
篠原「お前も充分ノリが軽いな」
・・・よ・・・く・・・も・・・
イチコ「きゃああああ! 怒ってる! ぜっっったいに怒ってる!!!」
篠原「流石にちょっと、シャレにならないなコレは…」
イチコ「もう出よう! 今日だけは特別! ドアを開けて…あれ??」
篠原「どうした?」
イチコ「…開かない……」
篠原「はぁ?! そんな訳…」
ガチャッガチャッ
篠原「クソっ本当に開かねぇ…」
フミ「…ふぇ…えぇぇ……」
イチコ「ちょっとフミ、なにも泣かなくても!」
フミ「だって…
私がコックリさんをやろうなんてバカな事を言い出したから…
ごめ…なさい……」
イチコ「誰も責めてなんかないよ? 大丈夫だから!」
篠原「そうだぞ、俺たち全員共犯だ」
フミ「でもね、きっとバチが当たったんだよ…」
イチコ「バチって? 一体なんのこと?」
フミ「わたし、優柔不断で何もハッキリ言えない自分が嫌いで…
この会に参加すれば、
自分の意見をハッキリ言える強い子になれるかなって思ってここに来たの。
けど、いつも結局なにも言えなくて……
最初の頃は人数が多かったから、何となく乗っかってれば平気だった。
だけど3人になったら、言葉が重くなってきて、
少しずつ喋るのが怖くなっちゃって…
曖昧な逃げ道を作って、いつもいい加減な事ばっかり言ってた!
そしたらこんな、取り返しのつかない事に…
私がコックリさんなんて適当な事を言ったから……」
イチコ「そんな事ないよ! そんなのただノリで言っただけじゃん!!
何も悪い事なんてしてないし、それにフミはそのままでいいんだよ!
逆に私なんて、いつも余計な事ばっかり言い過ぎちゃうから……
沈黙が怖いからつい無駄にまくし立てちゃうんだけど、
好き勝手に喋ったら何言ってんだコイツって顔をされる事も多くて。
それが世界から突き放されてる感じがして、寂しくて……
だからフミがいつも笑って話を聞いてくれるの、本当に嬉しかったんだ。
私を否定しないでくれてありがとう。何も言わないのだって、強さだよ?」
フミ「イチコちゃん、自分の事をそんな風に思ってたの…?!
私、ずっとイチコちゃんに憧れてたんだよ?
私もこんな、自分の意見をハッキリと言える
格好良い女の人になりたいなって……
否定もなにも、イチコちゃんの事を私は心から尊敬してるよ!」
イチコ「私だって、フミの皆を柔らかくまとめてくれる優しい強さに
いつも憧れてたんだよ?」
フミ「…ふふ、わたしたち、両思いだね♪」
イチコ「うんうん! 2人でいれば無敵だよ!」
篠原「おい、俺たち男+コックリさんはおいてけぼりか」
先生「篠原くん、コックリさんじゃないよ。コッソリさんだよ」
篠原「先生は呑気ですね本当に!
でもまぁ、なんか良い感じの空気になった事だし、頑張って…」
先生「そうそう! 頑張ってコッソリさんの続きをやろうね☆」
篠原「そう、続きを…って違いますよね?!
頑張ってこの部屋から出ようですよね普通?!」
先生「その為にじゃないか。
皆が怖がってすぐに手を止めてしまうから、
コッソリさんの言い分は結局ちっとも聞けずじまいだよ?」
篠原「確かに…」
フミ「そうだね♪
出る為にも、コッソリさんがどうするつもりなのかちゃんと聞こう!
コッソリさん、コッソリさん。
私達を閉じ込めて一体どうするつもりですか…?」
・・・つ・・・れ・・・
イチコ「いやぁあああ!!! ムリ!!! やっぱ無理!!!!!」
篠原「おま、だから手を離すなって!」
イチコ「だって!
もう絶対に連れていくとかだよコレ! あの世的な場所に!」
篠原「嫌な予測変換するなよ!」
イチコ「そんな事言われたって!!!」
篠原「あぁぁもう、お前は本当に1回落ち着け!
いつも暴走して、騒いで、人の話を聞かないで…
だから周りに呆れられるんだろうが!!」
イチコ「はぁあ?! なにそれ、さっきの話の事?!
あんたに関係ないでしょ!」
篠原「それでお前が孤独を感じるっていうなら関係大アリだ!
俺はお前のそういう所が好きだからこの部屋にいるんだよ!!!」
フミ「きゃー! 突然の告白っ!
この状況でしちゃうの?! 大・胆♪」
先生「シーっ! 静かにっ!
コッソリさんに聞く前に、こっちの話をコッソリ聞こうね☆」
篠原「もう聞こえてますよ!
言っとくけど変な意味じゃねぇから!
ただ俺は、毎日教室でボーッとしてる時に
耳から入ってくる会話がどれも同じで、退屈で。
授業も天気も流行りの話も、全部変わらない音で聞こえてた。
けどコイツの話がさ、本当に意味が分からなくて。
いきなりホッチキスのホッチって何?
とか言い出すだろ。ついググッちまったよ。
調べたらそもそもキスも意味がちげぇし。なんか笑っちまって……
コイツと話せたら楽しいだろうなと思ったんだ。
だからここにいる。
お前の馬鹿みたいな話が聞きたくてここに来てんだ。
だから、ひとりぼっちだとか言うなよ。
全校生徒がお前に呆れて誰もいなくなったって、
俺は絶対に離れたりしねぇから」
フミ「……だね! 私もずーっと一緒にいるよ♪」
イチコ「…二人とも……ありがとう。
正直、私から篠原に対する感想は特にないんだけど」
篠原「おい!!!」
フミ「きゃー! 片思い〜!」
イチコ「…でも、何もなくても話してて毎日凄く楽しいよ!」
篠原「…おう。それでいい。……今は」
フミ「最後の意味深! やらしー!」」
先生「いやぁ~!
これは甘いのとしょっぱいのどっちが好き?というより、
甘酸っぱいねもう! 答えが出ちゃったねコレは!!」
イチコ「答え……そうだ! コッソリさん!」
篠原「何はともあれ、まずはここから出ないとな」
フミ「だね! もう一度ちゃんとコッソリさんに聞いてみよう♪」
イチコ「コッソリさん、コッソリさん……
どうすればこの部屋から出して貰えますか?」
・・・ん・・・さ・・・
イチコ「…あれ? 手が止まっちゃった…」
篠原「んさってなんだ?
どう考えても言葉が「ん」から始まるなんておかしいよな…」
イチコ「っていう事は、途中からって事?」
フミ「あーーー!!!!!」
イチコ「きゃ?! びっくりした…
フミがそんな大声で叫ぶのはじめて聞いたよ」
フミ「分かった! 分かったよ!
今まで途中で手を離しちゃってたけど、
ぜーーーんぶ繋がってたんだよ!」
篠原「どういう事だ?」
フミ「つまりね!
毎回何を質問してたかなんて関係なくて、
たったひとつの言葉をコッソリさんは伝えようとしてたんだよ!」
篠原「ひとつの言葉…」
イチコ「最初から繋げると…
し…よくも…つれ…んさ……食物連鎖??」
先生「ピンポーン☆ 大正解!」
イチコ「先生、まさか…」
先生「甘いのを食べたらしょっぱいの、
しょっぱいのを食べたら甘いの……
その連鎖こそ真理だと、
コッソリさんは伝えたかったんじゃないかな?」
篠原「あぁ、なるほど…」
イチコ「いや、その白黒ハッキリしない答えは
絶対にダメって前提の話ですから!
そもそも食物連鎖ってそういう意味じゃないですよね?!」
篠原「え、ちげーの?」
先生「ははは、篠原くんはちゃんと
化学の授業を受けないから分からないんだよ☆」
イチコ「…まさか先生、
コイツに補習をサボった嫌がらせをする為に…」
先生「どうかな、コッソリさんに聞いてみるかい?」
イチコ「もうコリゴリです!!!」
篠原「でも、それならどうして扉が開かなかったんだ?」
先生「入れるけど出られない部屋って言ってたからさ。
ちゃんと掟を守ろうと思って、
ドアを閉めたらつっかえ棒が落ちる様に少し細工をね☆」
篠原「…なるほど、てこの原理ってやつ、か?」
先生「うん、君は小学生の理科からやり直そうか」
イチコ「先生、なんて事をするんですか!
どうやって出る気だったんです?!」
先生「ドアが開かないなら、窓から出ればいいじゃない?」
イチコ「そんなマリー・アントワネットみたいな言い方しないで下さい!
何よ、ぜーーんぶ篠原のせいだったんじゃない! バカ!!!」
篠原「お前が怖がってすぐにコインから手を離したりしまくるから、
こんなややこしい事になったんだろうが! この人騒がせ!」
先生「まぁまぁ☆ でも良かったんじゃないかな?
甘いのとしょっぱいのより、もっと大切な事を話し合えたと思うよ」
フミ「…ふふっ、そうだね!
正直な気持ちを伝えられて、答えて貰えて嬉しかった♪」
篠原「それはまぁ、確かに…」
先生「本当は君たちに、議題なんて必要ないんじゃないかな。
きっかけは必要だけど、
いつまでもそこに立ち止まっていたらいけないよ。
自分の気持ちをハッキリと正直に言うのが怖いから、
別の言葉に隠して君たちはぶつけ合う。
けれどそれだけじゃ、本当の気持ちは繋がらないよ。
白黒ハッキリつけよう会なんて名目じゃなくて、
本当に確かめなければいけないのは、
君たちが友達かどうかっていう事だ」
イチコ「友達…うん、友達だと私は思ってる…けど……」
フミ「私も!
何も話す事がなくたって、ずーっと一緒にいたいよ♪」
篠原「…俺の気持ちはさっき言った」
フミ「って事は、友達じゃなくて恋人希望だねぇ」
篠原「だから違うって言っただろ!」
フミ「きゃー! 怒った!」
イチコ「じゃあさ、明日はこの部屋から出て、
普通に遊びに出かけてみない?」
フミ「わぁ! 行きたい!!!
私ね、本当はずっと皆で遊びに行ってみたかったの♪」
篠原「…そうだな、たまには議論じゃなくて別の景色を共有するか」
イチコ「じゃあ! 明日はみんなで! カラオケに行こーーー!!!」
篠原「いやそれ結局部屋じゃねーか!!!」
先生「ははは! 今しかない時間を大切にね☆」