開戦
俺はこの三ヶ月間、ダンジョンを駆使して貯め込んだポイントを使い、大量のアイテムを購入した。
購入したものは主に圧縮玉や再生薬などだ。
再生薬は失った肉体を元に戻してしまうという、驚きの優れ物だが。
恐ろしく高価だった。
その為、一つだけしか購入することが出来なかった。
圧縮玉は8個購入することができたので、明智と真夜ちゃんに4個ずつ持たせようと思っている。
さらに、幽体化も4つ購入した。
これはこの世界に来たばかりの頃、俺を救ってくれた透明人間になるための薬だ。
今回、俺がすべきことはオークと戦うことじゃない。
飽くまで瓜生をサポートすること。
それが俺のやるべきことなのだ。
なので俺は透明人間になり、影から瓜生を見守る。
その為には敵に気付かれてはいけない。
そこで必要になるのが幽体化だ。
一度幽体化を使用すると15分は効力が持続する。
4つあれば1時間は身を隠せる。
流石に1時間もあればなんとかなるだろう。
その他にも買った……というか当たったアイテムがある。
そう、新たなドールが欲しいと欲を出してしまい。
30回ほどガチャってしまったのだ……。
まぁ、結果から言って27個の飴玉を手に入れた。
でもっ! 一応3つ、当りを引き当てた。
一つが、かつて真夜ちゃんの窮地を救った結界スクロール。
で、もう一つが流れ玉。
これはヴァッサーゴ曰く。約1分間玉から大量の水を吐き出すものだという。
正直、ハズレだと思う。
しかし、最後の一つは当たりだ。
なんたってスキルを獲得する為の書なんだから。
その名も剣の書――心得編と言うかっこよさげな書物だ。
出来る事なら俺が覚えたいのだが、残念ながらそうはいかない。
スキルの書で覚えられるスキルは一人一つまで。
そう、俺はクソの役にも立たない。
穴を掘るだけのスキル、穴の書を獲得済みなのだ……。
なので少しでも生存率を上げてもらうため、勿体無いが……明智に覚えさせることにした。
とにかく、これで明日のオーク戦の準備はバッチリだ。
俺は明智と真夜ちゃんに圧縮玉を渡して、使い方をレクチャーした。
ついでに明智にスキルも覚えさせた。
「感謝するでござるよ! ユーリ殿! 正直、それがしのメタモルフォーゼだけでは不安でござった。しかしでござるっ! それがしも新たに強力なスキルを手に入れたとなれば、鬼に金棒でござるよ!」
新たなスキルを手に入れたことが余程嬉しかったのだろう。
明智は張り切って、こう言った。
「ユーリ殿は明日、心置き無く瓜生殿に付いているでござる。真夜殿は責任を持ってそれがしが守るでござるよ」
「ええぇー。明智くんで……大丈夫かな? 私不安だよ。でもまっ、遊理くんがくれた圧縮玉があるし、なんとかなるかな?」
真夜ちゃんは明智に不審な眼差しを向けたものの、すぐに手にした圧縮玉を見やり、ニコッと微笑んだ。
明智はそんな真夜ちゃんの言葉など聞いてはおらず、新たなスキルに興奮している様子。
俺はそんな二人とフィーネアに大切なことを伝える。
「フィーネアは明日、明智と真夜ちゃんの二人に付いてあげててくれ」
「なっ、何を馬鹿な事を言っているのですかっ! ユーリ! フィーネアはユーリにお仕えし、守るた――」
身を乗り出すように迫り来るフィーネアに、俺は掌を突き出し答える。
「聞いてくれフィーネア。この間も言ったが、俺は飽くまで瓜生の傍にいるだけで戦わない。隠れているから俺が危険に遭うことはないんだよ。それよりも問題は二人の方だ。二人が敵前逃亡なんてしてしまったら、それこそ後で何をされるかわからない。そうなれば瓜生との約束を果たしても、俺たちの逃亡生活は終わらないんだ」
「でもっ! 戦場では何が起こるかわかりませんっ! ユーリは、その……」
何かを言いかけて、黙り込んでしまったフィーネア。
フィーネアの言いたいことはわかっている。
ステータスオールFの俺が心配なんだろう。
だけどそれを口にしてしまったら……俺が傷ついてしまうと思ったのだろうな。
フィーネアは……本当に優しい子だよ。
いつも俺を気遣ってくれる。
だから、俺も言わなくちゃな。
「フィーネア、俺はね……この世界の人間じゃない。そんな俺は一人で生きていけるほど強くはないんだよ。例えば……俺と瓜生が無事に事なきを得ても、明智と真夜ちゃんがいなくなってしまったら……俺はこの世界で歩いて行ける気がしないんだよ。それはもちろんフィーネアも同じだ。俺は誰も失いたくないんだ」
「ユーリ殿」
「遊理くん……」
フィーネアはとても悲しそうに俯いて、辛そうに微笑んだ。
「はい。それが……ユーリのご命令であれば……フィーネアは従うしかできません……から」
「……うん、ごめんね」
うるうると瞳を潤ませるフィーネアに、俺はそんな言葉しか掛けてやれなかった。
俺のステータスがもう少しだけまともなら……。
俺を誰だと思ってるんだ、最強の月影遊理だぞ……って、カッコの一つもつけれて、フィーネアを安心させてあげれたんだけどな。
……本当に……情けないよ。
◆
城内――与えられた豪華な部屋のベッドに腰掛けて、俺は嘆息した。
「ついに運命の日が来てまうんか……」
「禅……」
「ごめんなさい……私の力では未来を変えることができなくて……」
俺の前には12人の仲間が……今にも死んでまいそうな顔で俯いとる。
未来予知言う、ある意味最強の力を有する光明院円香。
それに、同じバスケ部で親友の竹田蒼甫も、不安を隠せずにおる。
その他にも、側室制度を利用して、匿っとる女子が10人。
もちろん。俺は神代とか言うゲスとは違う。
彼女たちを側室に迎えたんは、飽くまで保護するためや。
俺は指一本彼女たちに触れとらん。
つーか、俺にはちゃんと彼女がおる。
今もきっと元の世界で俺の帰りを持ってくれてる、世界一の女が……。
あいつの為にも俺はこんなところで死なれへん。
必ず生きて帰って。
プロのバスケットマンになって、あいつを幸せにするんや。
それに、俺が死んでもうたら……匿ってるこいつらはどないなんねんっ!
そうや。俺は絶対に死なれんのや。
その為に卑劣かもしれんけど……月影を仲間に誘い込んだ。
あいつには申し訳ないことをしたと思っとる。
この件が終わったらちゃんと詫びを入れるつもりや。
「なにをそない暗い顔しとんねん! まるでもう俺が死んだみたいやんけ。通夜とか勘弁してや」
俺は不安をかき消すように、笑った。
こいつらを安心させるために、俺自身に言い聞かせるように。
せやけど空回っとったんかな?
俺の作り笑いじゃ誰も安心させられへんかったみたいで……それどころか。
変な気を遣わせてこいつらまで苦笑いを浮かべる始末や。
「私の未来予知では……瓜生くんを助ける方法が……わからない。ごめんなさい」
「謝んなや! せやから月影を仲間にしたんやろ?」
「でもっ! 彼のステータスは……」
「光明院の言う通りだ。信用できんっ! やっぱり俺がお前の傍にいるべきだ!」
「それはあかん! ここでまともに戦えんのはお前だけや蒼甫! お前がこいつらを守らんでどないすんねんっ! 側室で保護されとる言うてもな、俺たち勇者まで駆り出される緊急事態や。側室も駆り出されることは円香の予知でわかってるやろ」
俺の言葉に苦虫を噛み潰したような顔を見せる蒼甫。
そんな正義感の強いお前やからこそ、俺はお前にこいつらを任せることができるんや。
「とにかく明日が正念場や! そないな顔すなや蒼甫。お前は知っとるやろ! 俺がピンチに強い言うんを」
「ああ。インターハイ出場がかかった大一番、点差は89対87!」
「残り時間はあと3秒っ!」
「お前のスリーポイントで……俺たちは逆転勝利!」
「そうやっ! 俺はいつかてスーパースターや! ピンチになった時の俺はもう誰にも止められへんねんっ!」
俺たちは笑った。
あの日の興奮を思い返して涙浮かべながら、アホみたいに笑った。
一頻り笑って……また静寂に包まれた頃。
蒼甫がそっと呟いた。
「バスケ……してぇなぁ」
「ああ。こんなふざけた世界とはさっさとおさらばして、NBAに殴り込みや!」
それから俺らは明日のことを話し合い。
眠りについた。
そして――翌朝。
兵の一人が血相変えて俺の部屋に飛び込んで来た。
「緊急事態です!! 勇者の皆様方はすぐに、謁見の間にお越し下さいっ!」
こちとら既に準備万端や!
「おう! ほな行こか」
生か死か……?
運命なんぞ糞くらえやぇっ!
どないな試合でも、俺は必ず勝ってみせるっ!
さぁ試合開始や!!
◆
森から数キロ離れた場所に、どこにそんなに居たのかと驚いてしまうほどの兵士がずらりと屹立している。
ざっと見ただけでも5000人は居るんじゃないか?
急いでかき集めた割にはすごい数だな。
まさに圧巻!
指名手配中の俺は、予め瓜生に用意してもらっていた外套をまとい。
顔を隠して兵の中に紛れ込む。
なに、バレることはない。
5000人ほど居る兵の半数以上が街の住人から募った志願兵や、冒険者ギルドの連中だ。
全員が兵士の制服を着ているわけじゃない。
中には白い制服を身にまとう騎士みたいな奴らもいる。
俺は人ごみをすり抜け、そっと瓜生の仲間、竹田の元まで歩み寄った。
「瓜生は?」
囁くように発した俺の問いかけに、竹田はこちらを見ることなく顎をクイッと正面へ向け、瓜生の位置を俺に教える。
瓜生は神代や千金楽たちと共に先頭で兵士の士気を上げるため、声を張り上げていた。
「禅を……頼んだ」
正面を見据えたままの竹田はそっと呟いた。
その声音に反応するように、近くに居た。
未来予知者の光明院円香ちゃんと、羨ましすぎる瓜生の喜び組みも声をかけてきた。
「う、瓜生くんを……お願いします」
「絶対に死なせないでよ!」
「本当なら私たちが一緒に居たいのに……」
「死なせたら許さないからっ!」
「あんたには悪いけど一生恨むからね」
皆、声が震えていた。
それは今にも泣き出してしまいそうなほど。
側室に選ばれて瓜生にあんなことやこんなことをされていると言うのに、健気な子たちだな。
正直何もかも羨ましい。
瓜生の野郎は顔がいいからって愛されすぎだろ!
世の中不公平だ!
「わかってる。俺だって訳のわからん罪を着せられたまま指名手配は嫌だからな。できる限りのことはするつもりだ」
それだけ言い、俺は一個目の霊体化を飲み干した。
すると、突然視界から消えた俺に竹田たちは驚愕している。
俺はそのまま竹田たちに話しかけることもなく。
瓜生の傍まで忍び寄る。
「約束通り来てやったぞ」
瓜生はどこからともなく聞こえた俺の声に頷き、にやっと微笑んだ。
「敵の数はおよそ一万五千らしいわ」
「はっ!? なんだよそのデタラメな数は?」
「ま、言うてもオークやから何とでもなる。問題は……」
「オークの王様か……」
「そう言うこっちゃ。付かず離れずしっかり付いて来いよ」
「……ああ」
それからほどなくして――
騎士団長とか言う奴が鬨の声を上げると、兵たちは一斉に森へと駆け込んだ。
俺達の死闘が始まったのだ。
が、速すぎる。
「えっ……!? 走っていくのっ? 馬とかじゃないのかよっ!?」
俺はてっきり瓜生の馬か何かの後ろに乗って行くのかと思っていたのだが……。
走るなんて聞いてないっ!?
俺は一人、置き去りにされてしまった。
「ふざけんなよっ!!」




