詐欺師と三人の勇者
俺はゴブリンにあとのことを任せ、一度ダンジョンから宿の部屋へと戻ってきた。
ゴブリンの話だと、ダンジョンの入口は俺が自由に決めることが出来るらしいのだが、設置場所に困る。
かと言って、設置しなければダンジョンランキングとかいう訳のわからないランキングが上がらない。
上がらなければ俺の命に関わってしまう。
正直、頭が混んがらがっている。
なんで俺だけこんなにすることが多いのだろう……?
ちょっと整理してみるか。
まず、俺の第一の目的は、家族の待つ元の世界に帰還すること。
きっと元の世界では集団失踪と銘打たれ、連日のようにニュースになっているに違いない。
それに何より、親が心配しているだろう。
今すぐに還れなかったとしても、無事を知らせることだけでも出来ればいいんだけど……今のところそんな手段はない。
次にしなくてはいけないこと、それは生活費を稼がにゃならんと言うこと。
その為にはこの街を出て、ギルドで稼がなくてはいけないのだが、ステータスがな……。
俺のどうしようもないステータスを補うためには、やはりMFポイントを貯めるしかない。
ただ、他人を不幸にするというのは……気が引ける。
が、やらなければ俺が死んでしまう。
そして、新たな問題。
ダンジョンランキングだ。
正直、これが一番の問題じゃなかろうか?
ゴブリンの話だと、ダンジョンを管理している人間などいない。
そんな中、この世界の人間に俺がダンジョンマスターだと知られてしまえば。
それすなわち、人類の敵と認識されてもおかしくない。
できる限り、ダンジョンのことは隠しながらなんとかするしかないだろう。
先のことを考えると、頭が痛い。
俺がベッドに腰掛け、頭を抱えていると。
どこかに出かけていたフィーネアが帰ってきたみたいだ。
「ユーリ。もうお体の方は平気なのですか?」
「ああ、心配かけて悪かったな」
「そんなことはありません。ユーリが居なければ、あの場にいた者は全員死んでいました。ユーリはとてもお強いのですね」
フィーネアも俺のステータスを知っているはずだ。
お世辞でも強いは言い過ぎだろう。
気を遣わせてしまったかな。
「それよりも、フィーネアは一体どこに行っていたんだ?」
「はい。宿に泊まる資金を調達するため、露店で働かせて頂いてたんですよ」
「えっ!? そんなことしてくれてたの? 一泊くらいならまだあったのに」
「いえ、ユーリは二日間眠って居られたので、所持金では足りなかったので」
「……そりゃーすまなかったな」
二日も寝ていたとは予想外だ。
フィーネアに働かせて自分は寝ていたなんて、情けない。
自己嫌悪に陥りそうだ。
それから、今後の方針をフィーネアと話していると、来客が来た。
真夜ちゃんと明智だ。
「おお! ユーリ殿っ! 気が付いたでござ――」
「邪魔っ! 遊理くんっ!!」
部屋に入って来るや否や、明智を突き飛ばして真夜ちゃんが抱きついてきた。
突然の抱擁にベッドへ背から倒れ込み、真夜ちゃんに押し倒される形となってしまった。
「遊理くん、もう大丈夫なの? どこも痛くない? 私全部聞いたの、遊理くんが私の為に命懸けで助けに来てくれたって。私、私凄く嬉しくてっ!」
俺の上に乗っかり、興奮気味に話しているが、ここはベッドの上だよ。
それに、何故か、若干……フィーネアの顔が怖い。
俺は真夜ちゃんに一旦落ち着くよう言い。
久しぶりに真夜ちゃんと、ついでに明智とも話をした。
すると、思い出したように明智が口にする。
「あっ! 重要な事を伝え忘れていたでござるよ」
「ん? 重要なこと?」
「あのね遊理くん。生き残った私たちがダンジョン内でのことを王様に報告したの、そしたら――」
「一度、ユーリ殿を城に連れてくるようにと言いつかったでござるよ。褒美か何か貰えるのではござらんか?」
肝心なところを明智に先に言われてしまった真夜ちゃんは、若干膨れている。
「ダンジョンマスターを倒した報酬ってやつかな?」
これは有り難い。
丁度資金に困っていたところなんだ。
運が向いてきたんじゃないのか?
と、いうことで。
俺は早速報酬を受け取りに、明智たちの案内で城へとやって来た。
この城に来るのも、あの日の屈辱以来だな。
俺は城の兵に誘導されて、謁見の間へと足を踏み入れた。
見るからに強そうな男達が壁際に整列し、威圧感たっぷりに俺を見てきやがる。
レッドカーペッドが続く部屋の奥には、玉座にどっしりと腰掛ける王様と、その傍らに大臣らしき男の姿もある。
さらに、その近くには見覚えのある奴が気怠そうに佇み、こちらを見ている。
少し赤みがかった茶髪に整った端正な顔立ち、所謂イケメンと言われる人種。
同じクラスの神代朝陽。
そのすぐ側に、もう二人いる。
長身で真っ黒なベリーショートヘアーに、鋭い目つきの男。
京都出身の三年でバスケ部のエース、瓜生禅。
ちなみに運動部じゃない俺でも知っているくらい、有名人だ。
噂では、既に大学からバスケの推薦を受けているとか、プロバスケ選手としてスカウトされているとか……色々と言われている。
もう一人は小柄で金髪マッシュルームヘアーの美少年。
こいつのことは全く知らないが、おそらく見た感じから一年だろう。
三人共、見るからに高価そうな衣服を身にまっとっている。
その見た目はまるで、絵本に登場する王子様のようだ。
間違いなく。
こいつらが召喚されたという勇者だろう。
つまり、毎晩酒池肉林という訳だ。
非常に羨ましい。
しかし、一緒にやって来ていた明智は、三人を目の前にして明らかに挙動不審な態度を取っている。
また、真夜ちゃんも神代を睨みつけるように、目を細めているのだ。
「よくぞ参られた。月影遊理だったな」
「はい、そうですけど」
と、俺が普通に答えると。
突然、大臣が怒鳴り声を上げた。
「陛下の御前で在らせられるぞっ! 跪かれっ!」
なんだよこいつ!
呼び出したのはそっちだろうがっ!
俺は客人だぞ!!
言い返してやりたいが、明智も真夜ちゃんも跪いているみたいだし、俺もフィーネアに目で跪くよう促して、その場に膝を突いた。
「よい、顔を上げよ」
めんどくさいしきたりだな。
それにしても、勇者の三人は俺たちに目を向けて、クスクスと馬鹿にしたように笑っていやがる。
なんなんだよ。この嫌味な勇者共はっ!
「ところで、そなたがあのダンジョンに住み着く魔物を討伐したというのは事実か? 調査から戻ってきた13人の兵が皆、口々にそなたに助けられたと言っておる」
「ええ、まぁそうですけど」
ま、俺というよりフィーネアなのだが。
細かいことはいいか。
「そなたのことはよく覚えている。なにせ前代未聞の全Fだったからな。そんなそなたが魔物を討伐し、13人の兵を救ったという話、にわかに信じられん」
「……言っている意味がよくわかりません。なにが仰りたいのでしょうか? お……私は報酬を頂けると聞いてやって来たのですが?」
「黙れっ! 何が報酬だ。いいか? 貴様が倒したと豪語するダンジョンの主は、これまでにも多くの兵の命を奪ってきた化物だ! 貴様のような弱小者では到底討伐出来ぬことくらい、容易にわかることなのだ」
大臣が突っかかって来るのだが、何言ってんだ?
報酬をくれるんじゃないのか?
意味がわからない。
「つまり……どういうことでしょうか?」
「貴様は13人の兵とぐるになり、報奨金をせしめようとしているのではないか? 兵が討伐したとなれば報奨金を支払う義務がない。しかしっ! 兵ではない貴様が倒したとなれば、国としては報奨金を支払わざるおえない。つまり! 貴様は偽証し、詐欺行為を働こうとしたのだ」
はぁ?
何バカなこと言ってんだよっ!
ふざけんじゃねぇーぞ!!
「ちょっと待ってくれよ! 俺はそんなことしないっ!」
「つってもよぉ。お前が雑魚なのは本当のことだろ? 月影」
突然、口を挟んできたのは神代朝陽。
神代は見下すような目で俺を見たあと、真夜ちゃんへと視線を向けた。
「今ならまだ間に合うぞ、真夜。俺の女に加わるなら、詐欺行為を働こうとしたお前の罪は、俺が不問にしてやる。どうする?」
俺は咄嗟に真夜ちゃんへと顔を向けると。
真夜ちゃんは下唇を噛み締めて、俯いている。
「明智くんだっけ~? 君は本当にそこに居るオールFに助けられたのかい? 今本当のことを言えば、君たち下っ端の罪は免除してもらえるよ~」
「……」
なんだこいつ?
俺が視線を向けると、悪戯っぽく口の端を吊り上げた。
「あっ! え~と、月影先輩でしたっけ? 自己紹介が遅れました。僕、千金楽凛と言いま~す。先輩と違って~最強の勇者で~す。で、どうなの~明智くん?」
明智は黙り込み。
そして、俺にだけ聞こえるように小さく呟いた。
「すまないでござる、ユーリ殿。それがし……こんなことになるなんて思っていなかったでござるよ」
「ねぇ~そこでコソコソと話すのやめてくれないかな? 同罪でいいのかな?」
千金楽凛とか言うクソガキが、愉快そうに笑いながら脅しのような言葉を掛けてきやがる。
「君が嘘でしたと、そこに居る月影先輩に脅されて仕方なく言ったと言うんなら、みんなも助かるのにな~。そこの志乃森先輩が、神代先輩の玩具になることもないんだよ~」
「あまり調子に乗るんじゃねぇーぞ、ガキ」
千金楽の言葉に眉根を寄せて睨み付け、静かに怒りを口にする神代。
「やだ、怖~い。僕も神代先輩と同じ勇者なんですから。その辺り忘れないでくださいよ~? なんなら志乃森先輩を僕の玩具にしてあげてもいいんですから」
「ぶち殺すぞ、ガキ」
真夜ちゃんにエロいことをしようとしてたのは、神代の野郎だったのか。
許せんな!
そのまま仲間割れでもして、殺し合えばいいのに……。
「で、どうなのだ? 勇者様が仰ったように、そこの男に騙されたのか?」
偉そうな大臣の言葉に、俯き小刻みに震える明智。
「大丈夫でござる。ユーリ殿。それがしはユーリ殿を裏切ったりはしないでござるよ」
震える明智の声を聞き。
俺は仕方ないと、小さく囁いた。
「明智、俺に言わされたと言え」
「……」
いつもならすぐに切り替える癖に、変なところで意地を張るんだよな、明智は。
ま、だから嫌いになれないんだけどな。
「そうだよ。俺がこいつらに言わせたんだよ。それでいいんだろ?」
「ユーリ殿っ!」
「遊理くん!?」
俺の言葉を聞いた大臣は、悪代官みたく薄ら笑いを浮かべた。
端から俺を嵌めたかったのだろう。
「その者を引っ捕えよ!」
大臣が声を張り上げると、部屋の両脇で待機していた兵たちが、一斉に俺を取り囲む。
「ちょっと待って欲しいでござる! それがし達は本当にユーリ殿に助けてもらったでござるよっ!」
「そうよっ! 遊理くんは傷だらけになりながら私たちを助けてくれたんですっ! 嘘じゃありません」
明智と真夜ちゃんは俺を守ろうと、声を張り上げてくれている。
それだけで俺は嬉しかった。
フィーネアは無言で臨戦態勢に入っているのだが、流石に止めておいた方が賢明だ。
なので、俺はフィーネアに大丈夫だと声を掛けた。
「その者を地下牢に連れて行けっ!」
「ユーリ!」
兵に腕を捕まれて連行されていく中、俺は顔面蒼白の二人と、眉間に皺を寄せるフィーネアに、微笑んだ。
「大丈夫だよ、フィーネア。明智も真夜ちゃんも気にするな。すぐに出られるよ」
謁見の間には、二人の糞勇者が俺を嘲笑う声が木霊していた。
その後、俺はカビ臭い地下牢に幽閉されてしまったのだが。
俺は意外と落ち着いている。
というか、いざとなったらダンジョンに逃げ込んでやろうと考えていたから、別に問題ない。
そんな俺がボケっと地下牢で寝そべていると。
どこからともなく足音が近付いて来る。
「月影遊理……やっけ?」
鉄格子の前、俺を見下ろして微笑んでいるのは、瓜生禅。
先ほど一言も発することのなかった、勇者の一人だ。
「なぁ、俺と手ぇ組まへん?」
瓜生禅は真剣な眼差しで、突然俺に突拍子もないことを言ってきたのだ。
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