有翅亜綱の彼女
とある部屋に
彼氏が一人
住んでいる
窓を開けて
風を通して
花に水などあげる
ありふれた休日
もしかしたら
ジョウロを手にする
そんなタイプでは
なかったのかもしれない
今は
彼女の住環境を整えるために
せっせと
毎日
世話をしている
彼女……
とある彼氏に
彼女が一人
ついている
窓辺に寄って
風に遊ばせる
髪と羽根
クサカゲロウのような
半透明の緑色
彼女は
にこにこと笑いながら
よく
彼氏にくっ付く
ぺたり
軌跡の上に
幾つものハートマーク
部屋の空気に
浮かんで融ける
すきー
余分なものを
すべて削ぎ落とした
中核だけ
ぽんと言葉に出して
気が済むと
ふわふわと離れていく
同じ部屋の中
好意の残留が
そこここに漂って
あまったる過ぎないように
風がしきりに入れ替わる
彼女は
動物界
脊椎動物門
哺乳綱
有翅真獣亜綱
アミメカゲロウ目
クサカゲロウ科の
いきもの
彼女は
時々
成長期に入る
抱き枕かと
見紛うような
それはそれは
立派なサナギ
抱き枕は
部屋の隅っこで
大人しくしてるのかと
思いきや
時に
不思議な動きで
彼氏の方に寄っていき
ハートマークだけ飛ばして
また去っていく
時々
彼氏の友人が
部屋へ遊びにくる
サナギ
なんとなく
勝手に想像中
友人の頭の中
よく考えると
昆虫と同じ生態なら
あの中身って
液体なんだぜ
普通は気持ちが持たないだろ
よくやるよな
一人で勝手に想像して
一人で勝手にショックを受ける
サナギのそばで
彼氏は
気にしていない様子
それが
うれしいのと
ありがたいのとで
また
色とりどりの
ハートマークが浮かんでいく
ぴり
ぺりぺり
よいしょ
羽化はいつも
背中から
出てきたばかりのお肌に
粘液が
あちこち糸を引いている
だいすきー
ぺたり
ぬたり
かけられる言葉は
短いけれど
毎日毎日
せっせと心を注いでくれる
それがうれしくて
こたえたいのです
一応
最初の頃に比べると
人間らしい形状の割合が
増えてきてはいる
らしい




