村の住人
村の周りには石の壁ができているが、琉海の腰ぐらいの高さだ。
壁として意味を成しているのか疑問だ。
琉海とエアリスは、その石の壁の外周を回り、入り口と思われる場所から入った。
入るとすぐ、村の住人から視線を向けられる。
「えっと……道に迷いまして……」
痛い視線から逃げるように、琉海は小声で聞いてみる。
村人たちからの敵意の視線が痛い。
あまり歓迎されている雰囲気ではなさそうだ。
そんな雰囲気の中、杖を突いた一人の老婆が琉海の前に出てくる。
「なんじゃ、お前さん。こんな田舎の村に何のようじゃ」
「あの……道に迷いまして……」
いい言い訳が思いつかず、もう一度言ってみる。
隣ではエアリスがため息を吐いて、やれやれと首を左右に振っているのが視界に入った。
エアリスに言いたいことはあるが、村の人たちには見えていないのを思い出し、ぐっと我慢する。
「ほう、道に迷ったか。それで、どこから来たのじゃ?」
開いているのかつぶっているのかわからない細い目が微かに開かれて、鋭い視線を向けてくる。
琉海はその眼力に負けず、ゆっくり指をさした。
「あっちの森から来ました」
「ん? それは誠か?」
食い気味に言ってくる老人に琉海は頷く。
「タルア。祠の様子を見て来るのじゃ!」
「は、はい。わかりました」
老婆に言われ、タルアと呼ばれた若い男は、琉海が示した方へ走って行ってしまった。
「それで、この少年はどういたしますか?」
三十代半ばほどの男が老婆の近くに寄り、話しかける。
「ふむ、この少年が真実を言っている可能性もある。とりあえず、儂の家に招こう」
「村長の家にですか?」
男の会話から、この老婆は村長のようだ。
「別に問題なかろう。嘘だったとしても、悪さをするようには見えないからの」
老婆はそう言うと、琉海に顎でこっちに来いと示す。
周りにいた村人たちはため息を吐いて、散らばっていく。
「あの、村長さん。俺はどうなるんですか?」
「別にどうもしないさ。ただ、お前さんの言っていたことが本当なのかを確認するだけさね。付いてきな」
老婆は反転して村の中心あたりに向かっていく。
「面倒なことにならなければいいんだけどな……」