安堵
「はあ……」
琉海のまさかの登場にエリザは大きく息を吐いていた。
落ち着いているように装っていたが、さすがに痛手は大きいと見積もっていた。
とりあえず、不戦敗は免れたことにエリザはほっとしていた。
「間に合ったようで良かったです」
隣に立つアルディもエリザの心労を慮ってくれた。
「ええ、ひとまずは良かったわ」
エリザとアルディがそんなやり取りをしていると、部屋に近づいてくる足音が聞こえてきた。
早足の足音は部屋の扉の前で止まった。
エリザは琉海に抱えられていた娘の姿も見ているので、部屋の扉の前にいるのが誰なのかもわかった。
「私がお開けしてきます」
アルディがそう言って、扉を開けるとティニアの姿があった。
額に汗が浮かび、息も少し弾んでいる。
ここまで急いできたのだろう。
「開始ギリギリなんて、何があったのかしら」
「道中で襲撃されました。御者が一名亡くなりました」
ティニアは琉海に抱えられてここまでくる間に、エアリスたちのほうも無事戦闘を終了したと琉海から聞かされていた。
「そう。その襲撃者で捕らえた者はいるの?」
「いえ、生きている者はいないそうです」
これはティニアが琉海に質問済みだった。
生きていれば、情報を吐かせることも可能だったのだが、強い相手を捕らえるのは難しい。
「そうなると、襲撃者の黒幕が誰なのかわからないわね」
「アンジュやメイリもこちらに向かっていると思うので、何か手掛かりになるようなものを見つけているかもしれません」
「そう。アルディ、一応襲われた場所周辺を調べてちょうだい」
「はい。畏まりました」
執事のアルディは一礼して部屋を退出した。
「何はともあれ、無事でよかったわ」
「ルイ様に助けてもらいました」
ティニアが顔を赤くして言うその表情にエリザは「なるほど」と思う。
一度や二度ならず、三度も助けてもらっては、意識しないほうが難しい。
貴族であるため、普通の恋はできないのが、当たり前。
できたとしても、実ることはほとんどない。
でも、エリザは母親として、ティニアを応援したいと思っていた。
(この試合で彼が勝てたら、少し後押ししましょうかね)
この試合。
つまり、本選に出場するということは、王国内とはいえ、最強の12人の騎士に数えられるということだ。
貴族出身でなくても注目されるのは間違いない。
王国では強い人間が重要視される。
権力もあるが、第一はどれだけ強いかが、物差しとなる。
本選に出場すれば、エリザも応援しやすくなるのだ。
「それなら、この試合が終わったあとにお礼を言わないといけないわね」
「はい」
「じゃあ、ティニアの王子様の試合を一緒に見守りましょう」
エリザに隣を勧められ、母娘二人で琉海の試合を観戦することになった。




