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別の観戦者

 別の個室でも会場を見下ろしながら、喋っている者がいた。


「ティニアの選んだあの男の子は逃げ出しちゃったのかしら」


 高笑いするかのように言うリオナ。


「リオナ様、おそらく道中を襲われたんだと思いますよ」


 隣に立つ執事のイブラスが訂正する。

 その言葉にリオナはむっとする。


「わかっているわよ。じょ、冗談に決まっているじゃない」


「差し出がましいことを言って申し訳ございません」


 イブラスは深く頭を下げる。


「べ、別にそこまで謝らなくていいわよ」


「そうですか。では、お言葉に甘えさせていただきます」


 さっきまでの殊勝な態度はどこへやら、何もなかったかのように隣に直立するイブラス。


「それにしても、イブラスの予想は外れたわね」


 騎士武闘大会の開会式後にティニアたちと会ったあと、二人で琉海の評価を話していたのを思い出す。


「はい。まさか、予選の決勝まで上がってくるとは思いませんでした。やはり、何か強力な能力を持っていたのでしょう」


「そうね。相手を直接害する魔法はルール上禁止されているから、トランサーなのは確定ね」


「ですが、それもここまでのようですね」


 この試合は時間切れで琉海の負けになりそうな流れになってきていた。

 そのうち、審判が琉海の敗戦を宣告するだろう。

 宣告されたら試合は終わる。


「わかっていると思いますが――」


 イブラスが最後まで言う前に、


「わかっているわよ。そんなに何度も言わなくても! 没落しかけても助けるなって言うんでしょ!」


 イブラスが念を押そうとしたら、被せるようにしてリオナは捲し立てた。


「一回言ってわかってくれるなら、何度も言いませんよ。これだけ言ってもそのときになったら、リオナ様がどう動くかわからないから、何度も言っているんです」


「はいはい。わかったわよ」


 この話は終わりたと言うかのようにリオナは手をひらひらとさせる。

 イブラスはその態度に大きくため息を吐いた。

 主従関係でこの行為は叱られてもおかしくないのだが、イブラスはわざとそうしていた。

 幼いころからの付き合いだからできる態度かもしれない。


「そんなことより、あなたはここにいていいの? 決勝戦に出るんでしょ?」


「ええ、私の試合は最後の方なので、まだ時間がありますから大丈夫です。それにリオナ様が何かしでかさないように見張っていなければなりませんので」


 イブラスの台詞に今度はリオナがため息を吐いた。


「何をやるっていうのよ。私は試合を楽しく観戦しているのよ」


「それでしたら、構いません」


 リオナは執事に監視されながら、試合の生末を見守る。


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