恋心
その後の王宮でのパーティーは何事もなく終わった。
ただ、ステイン公爵家と代役として出場する琉海に関して会話が増えていた。
ティニアたちは屋敷に戻り、各々が部屋で休む。
ティニアも今日は疲れたのか、ドレスを脱ぎ去ると下着のまま、ベッドに突っ伏した。
「ティニア様、大丈夫ですか?」
アンジュが心配そうに言う。
メイリは脱ぎ捨てられたドレスを拾い、クローゼットに仕舞った。
枕に顔をうずめているティニア。
「大丈夫、ちょっと顔が熱いだけ」
枕のせいでもごもごと曇った声だが、アンジュには伝わったようだ。
「顔ですか。何か冷たいものでも持ってきましょうか」
「大丈夫よ」
ティニアは首を左右に振って断る。
枕に顔を埋めているため、小刻みな動きになっていた。
「本当に大丈夫ですか? 馬車の中でもいつもと違うように感じたのですが……」
「…………」
反応を返さないティニア。
アンジュは助けを求めるようにメイリに視線を向ける。
メイリはため息を吐きつつ、
「仕方ないですね」
と言ってベッドの近くに寄った。
「気分が悪いのですか?」
「多分、違うと思うわ。私もこんな感覚は初めてだから、どう言えばいいのかわからないのよ」
「どんな感じですか?」
「胸がきゅっとして苦しいけど、嫌じゃない感じかしら」
「そうですか」
ティニアの言葉で何かを察したメイリは微笑み、引き続き話しかける。
「では、私の質問に答えてみてください。それで、その症状がなんなのかわかるかもしれません」
メイリの提案に無言で頷くティニア。
「では、最初に。そのような状態になったのは、いつからですか?」
「王宮のパーティー会場からかしら」
「それは、ルイ様が庇ってくれた時ですか?」
「…………」
ティニアは無言になってしまうが、コクリと頷いた。
「馬車の中でルイ様の顔を見ると、胸がどきどきして顔が熱くなりますか」
「…………(コクリ)」
再び頷くだけのティニア。
「そうですか。ティニア様、それは恋ですね」
メイリの言葉にティニアが枕から顔を上げ――
「「恋ッ!?」」
ティニアとなぜかアンジュも声に出して驚いていた。
「まあ、最初の言動からして、そうだろうなとは思っていたんですが、ティニア様はルイ様に恋をしているんだと思いますよ。なんせ、あのときのルイ様は格好よく見えましたからね」
メイリの説明で、ティニアはあの時の光景を思い出す。
この歳になるまで、守られたことは何度もあった。
魔物からや野盗からなど、護衛の者たちに守られてきた。
そのどれもが、ティニアにとって当たり前のものだった。
しかし、貴族の集う場においては、権力という力が作用するため、権力の弱い者は、強い者に逆らうことは難しい。
いや、できないと言っても過言ではない。
特に守る家が大きいと尚更だ。
それはティニアにも当てはまるものだった。
同じ公爵家とはいえ、ディバル家とスタント家の権力の差は大きい。
何も言い返すことのできなかったティニア。
そんな時にティニアを守るかのように、颯爽と現れたのは、権力を持たない琉海だった。
ティニアの前に出てきたときの琉海の後ろ姿は、ティニアから見て、おとぎ話に出てくるような騎士に見えた。
だが、手を心配したときに向けてきた琉海の微笑みは、物語の中の王子様のようだった。
ティニアがその時のことを思い出し、また顔を熱くさせる。
「これが……恋……」
少し息が荒くなるティニア。
鼓動が速くなっているのが自分でわかるほど。
「ティニア様が恋……。それも平民と……」
アンジュはまだ驚きの尾を引いているようで、独り言のように喋っている。
「別に不思議なことではないと思いますよ。十七歳の女性が恋をするなんて普通ですよ。まあ、貴族社会ですと、恋をする前に婚約していたりするので、初恋をしないままになってします人も多いかもしれませんけど」
平民に近い感性を持つメイリは、何でもないことだと言う。
「じゃ、じゃあ、メイリも初恋をしたことあるのか?」
アンジュは恐る恐る幼馴染のメイリに聞く。
「うーん、そうね」
メイリは顎に指を添え、考える。
「初恋はまだだけど、ルイ様は『いいな』と思ってますよ」
「「なッ!?」」
ある部分を強調して発言するメイリにティニアとアンジュは驚いてしまう。
「お、お、お前はあの少年と、け、け、け、結婚したいというのか!?」
アンジュの驚きよう可笑しく、メイリはクスっと笑ってしまう。
「結婚って、話が飛び過ぎているわよアンジュ。それに、ルイ様に恋心を抱いているのは、ティニア様でしょ。私の意見はルイ様がそれだけ魅力的に見えているというだけのものよ」
「そ、そうか……」
アンジュは謎の安堵から、大きく息を吐いた。
「ティニア様、心の整理が必要かもしれませんが、それは悪いことではないと思います」
メイリの真剣な目にティニアは頷いた。
「今日は色々あって疲れていると思いますので、休んでください」
メイリはそう言って、ティニアに布団をかけてあげる。
そして、視線でアンジュに退出するように促し、二人はティニアの部屋から出た。
布団に顔を埋めて頭の中で琉海が助けてくれたときのことが再び蘇る。
「――――」
声にならない叫び声を上げて悶えるティニア。
その後もごろごろと落ち着きなく、転がるティニアだった。




