ティニアの知り合い
「それにしても、どこの貴族がこのようなことをしたのでしょう」
アンジュが組み合わせ表を見ながら、呟く。
「さあね。私たちも敵が少ないとは言えないから」
いくら考えても答えは出ないと思ったのか、ティニアはこの話をやめることにした。
「それじゃ、私たちも王宮へ行きましょう」
ティニアがそう言って立ち上がると、メイリが扉を開ける。
ティニア、アンジュ、琉海、静華、エアリスの順で部屋から出た。
すると――
「あら、ここで会うなんて、珍しいわね」
ティニアに話しかけてきた少女がいた。
見た目と雰囲気からティニアと同じぐらいの歳だろうか。
赤毛を伸ばした小柄の少女。
ドレスを着ているということは、これから王宮で開かれる前夜祭に出るのだろう。
つまり、彼女も貴族ということだ。
その後ろには、黒服を着た執事のような男がいた。
「何が、珍しいわねよ。リオナのことだから、どうせ、待っていたんでしょ」
「ち、違うわよ!」
ティニアの言葉に顔を赤くして言うリオナ。
人柄を知らない琉海でも「ああ、待ってたんだ」と思ってしまうほどのわかりやすさだった。
リオナは一度咳払いをしてから口を開く。
「そ、それよりも、ティニアは武闘騎士大会にアンジュは出さないのね」
リオナがアンジュに視線を向けた。
「私にはティニア様をお守りする使命がありますので」
「相変わらず、硬いのね」
リオナはため息混じりに言う。
「じゃあ、あのルイっていう出場者は、アンジュの部下かしら」
「違うわよ。彼はそうね、私を助けてくれた旅人よ。ちょうどいいわ。紹介するわ」
ティニアは琉海に手で示し、
「こちらにいるのが、私とアンジュの命の恩人であるルイ様よ」
「はじめまして。琉海と申します」
琉海は一礼する。
「ご丁寧にありがとう。私はエスカレッド公爵家当主の娘、リオナ・エスカレッド。こっちにいるのが、イブラスよ。ちなみに、イブラスは、騎士武闘大会に出場するわ」
後半はティニアに言ったようで、自慢話をする子供のようだ。
「そうみたいね。そっちの組み合わせだと、予選決勝で王族直属の騎士と当たるようだしね」
王族直属の騎士――王家に仕える騎士たち。
今回の騎士武闘大会でも、王家に仕える騎士たちは多く参加していた。
この大会は、祭りであり、人材発掘であるのが表向きだが、結局は王族の権力と武力を見せ付けるためのものでもあるらしい。
そのため、公爵家以下の貴族たちは一人か二人ほどしか参加させないのに対し、王族は数十人の数を参加させてくるのだ。
「なに言ってるのよ。それは、こっちのセリフよ。あんたの所の相手は王族お抱え騎士団の筆頭騎士じゃない――ああ、そういうことね。ティニアが代役を立てたから、こんな組み合わせになったということなのね」
リオナの思考の中で点と点が繋がったようだ。
「ご愁傷様ね。代役を立ててまで、参加して予選敗退になった後どうなるかは知らなかったのかしら」
「リオナこそ知らないのかしら。代役を立てて、本選で活躍した後の見返りを」
リオナの言葉にティニアも応戦する。
見返り。
これも、ティニアから馬車の中で聞いていた。
代役とはいえ、何かしらの縁がなければ、出場するなんてことはない。
琉海もその一人だ。
そして、強い者との繋がりは、この国では高く評価されるようだ。
優勝でもすれば、その家系に様々な貴族たちが、何かしらの縁を結ぼうと躍起になるぐらいのようだ。
それをリオナが知らないわけがない。
「ふん、まあ精々頑張ってみなさい。その妄想が破綻したときの顔を見てあげるわ」
リオナはそう言い残して去って行った。
リオナたちの姿が見えなくなると、アンジュが口を開いた。
「これで、エスカレッド公爵家が裏工作した可能性はほとんどなくなりましたね」
「そうね。まあ、エスカレッド家とスタント家はまだ仲良しと言えるぐらいには、お互いのことを知っているから、可能性はもともと低かったわ。それに、ルイ様が本選に出場して活躍して頂ければ、なんの問題もないわ」
後半は琉海に向けて言っているようで、ティニアの視線が琉海に向く。
「頑張ります」
プレッシャーをかけ続けてくるティニアに琉海は内心で苦笑いをした。




