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魔法の存在。そして、脱出!?

 森の中を進んで行くと、大木の頂上近くに造られた木造の家が見えてきた。

 大木には階段のような溝が螺旋状になっており、そこを足がかかりにして登っていく。

 頂上に着くとエアリスは家の中に入っていく。

 中は簡素で机や椅子があるばかりで家具はない。他にも部屋があるようだが、この空間に生活感は感じない。

 あっという間にティーカップとポットを持ってくるエアリス。


「エアリスはここに住んでいるのか?」


「うーん、この家というより、この森に住んでいるって言った方がいいかしら」


「ん? どういうことだ?」


「その辺のことも話すから、そこに座って」


 テーブルの上にティーカップを置き、対面に座るエアリスと琉海。


「さて、最初に聞きたいことは何かしら?」


 ポットからお茶を注ぎながら言うエアリス。


「じゃあ、まずここはどこなんだ? 日本……なのか?」


 琉海は窓から見える外の景色に一瞬だけ視線を向けて問う。


「ルイの言う、ニホンという国は知らないけど、ここはグラント王国辺境の最奥にある大森林ね。……まあ、現在もグラント王国が存在すればの話だけど」


「ん? それはどういうことだ?」


 最初のグラント王国は聞いたことのない国名だ。

 だがエアリスの最後の言葉の方が琉海は気になった。


「そこの窓から見れば、今のあなたなら見えると思うわよ」


 エアリスにそう言われ、琉海は窓から外を覗く。

 そこから見える眺めは、地平線まで緑の広がる大自然。

 しかし、途中で透明な膜のようなものが光の反射で見えた気がした。

 透明なカーテンが時々、光の角度で反射してうっすらと見えるのだ。


「あの膜は……」


 膜は空や森全体を囲うようにドーム状に包み込んでいるようだ。


「その膜がここに私を閉じ込めている結界よ」


「結界?」


 琉海はファンタジー感のある言葉に聞き返した。


「私は300年前にここに閉じ込められて、今までこの森に住みついていたの。だから、私はこの森の外のことは何も知らない。それに、その結界は人を寄せ付けず、侵入不可。そして、出ることもできないのよ」


「なるほど、それが、最初に言っていたグラント王国が存在すればということになるのか」


「そう。私の外の知識は300年前のもの。だから、あまり現在の人間情勢には明るくないわね」


「それで俺を利用してこの森から出たいということか?」


「それは私だけの願望ではないわよ。あなたの願望でもあるはず。ここから出られないのはあなたも同じだからね」


 そう言い終わると、エアリスはカップに口をつける。


「だが、その話だとおかしな点があるだろ。誰もこの結界の中に入れないなら、俺はいったい……?」


「そこは私にもわからない。突然、空から降ってきて、地面に倒れていたのを見つけただけだから。ただ、死にそうではあったわね」


 琉海は自分の体に視線を向ける。


「俺に何をした? 結界なんて魔法が存在するということは、回復魔法とかで治したってことか?」


「回復魔法は存在するけど、私は回復魔法を使えないわ」


「じゃあ、どうやって……」


「そうね。それ教えるには、私が使える唯一の魔法を教えてからかしら」


「唯一の魔法……?」


「私が使える魔法は〝創造“。あらゆるものを作ることができる魔法。まあ、厳密には魔法ではないけど、それを教えるのは後々にしたほうがいいかもしれないわね」


「それで、その魔法がなんだというんだ?」


「簡単なことよ。創造の魔法で琉海、あなたの損傷した体に同じ物質を復元し接合させたの。つまり、作り物の皮膚や内臓をあなたの体に植え付けたということよ」


「なッ……!?」


 琉海は自分の体に異物が存在すると言われ、驚きと気持ち悪さを感じた。

 だが、それもつかの間、エアリスは続きを話す。


「ただ、この方法をとるには条件があって。私と契約することなのよ」


「契約……?」


「そういえば、私が何者かという問いには、まだ答えていなかったわね。私は精霊。人間と会話をするためにこの格好をしているけど、500年以上はこの世界に存在している精霊よ」


「せ、精霊……」


「まじまじ見てもわからないと思うわよ。私はこれでも、高位の精霊だからね。簡単に見破られるようにはしていないわ。精霊の瞳(エレメンタル・アイ)でも持っていれば話は別だけど」


 エアリスの話を整理するのに琉海は思考力を高めて話を聞いていた。

 漫画や小説では、こういうことはままある。しかし、実際に自分がなってみると、混乱は隠せない。

 琉海は額に手をあて、嘆息する。


「それで、契約とやらを俺としたのか」


「そう。あなたの意識の中に入り込んで契約の了承を取ったのよ。両者合意のもの。契約は無理強いできないからね」


 琉海は意識を失っていたときのことを思い出すが、何も思いだせない。


「でも、そのおかげで生きていられるのだから、よかったじゃない」


「ああ、そこは感謝する。ありがとう」


「礼には及ばないわ。私もやって欲しいことがあって助けた部分もあるからね」


「やって欲しいことだって?」


「あの結界を破壊して外に出ることよ」


 エアリスは窓の外に視線を向ける。

 琉海も同じように外の透明な膜を見る。


「あれを破壊できるのか?」


「私だけでは無理ね。でも、いまの私にはあなたがいるわ。ルイには、私の魔法を扱えるようになってもらうつもりよ。そして、あの結界を破壊してもらうわ」


「俺が魔法を使えるのか?」


 なんとなく、自分の手元を見て、閉じたり開いたりしてみる。


「使えるはずよ。魔力は十分あるし。むしろ、多いぐらいだと思うわ」


「なら、いいがどうやって使えるようになれるんだ?」


「ん? 私の契約者になったんだから、感覚で理解できるはずだけど」


 不思議なものを見るエアリス。

 琉海はエアリスのいう感覚とやらを思考の中で探ってみる。

 すると、ふわっと何かが思考の中に紛れて伝えてくる。

 だが、それを理解できる感覚を持ち合わせていないせいか理解できない。

 知らない外国語が頭の中をぐるぐるとリピート再生されているような感覚だ。


「なんか伝えている感じはあるんだが、無理だ。理解できない」


「理解できない?」


「ああ、たぶん俺が暮らしていた世界では、魔法は存在しなかったからなのかな。伝えようとしてくる意味がわからない」


「へえ、魔法のない世界から来たね~」


「なんだよ、その意味深な言い方。この世界じゃ珍しくないのか?」


「いえ、珍しいわよ。たまに別の世界から人間がやってくることは知られているけど」


 エアリスがまだこの結界の中に封じられる前は、魔力の高い人間はだいたいが別の世界からやってきた人間ではないかと思っているらしい。

 それほど、魔力に差があったようだ。


「話を戻すけど、琉海は魔法を理解できてないから、私の扱い方がわからないということね」


「たぶんそうだと思う。何かを伝えようとしているのは、わかるから」


「そう。さて、どうしたものかしら」


 エアリスは顎に親指と人差し指を添えて考える素振りをする。


「魔力はあるから、魔法が使えないわけではないはずよね。ただ、使い方を知らないだけ。なら、その感覚を無理やり体感させるのが、一番かしら……」


 エアリスは自分の思考を整理するかのように自問自答していた。


「わかったわ。ルイ、試したいことがあるから、こっちに頭を近づけて」


「頭を? なんで?」


「言葉で言うより、見たほうが早いでしょ。たしか、ことわざで百聞は一見にしかずというのが、あるでしょ」


(へえ、こっちの世界にも同じことわざがあるのか)


 琉海が関心していると、エアリスは待つのをやめて椅子から立ち上がり、机を回り込み琉海の隣に立つ。

 そして、頭に右手を置いた。左手には、掌サイズの小箱を持つ。


「何が起きても動かないでね。途中で止められると面倒だから」


「え? ちょ、ちょっとま――」


 エアリスは琉海の言葉を最後まで聞こうとせず、小箱を開いた。

 瞬間、琉海の視界に広がる風景が変化した。

 さっきまで木造の家にいた景色が一変、周囲一帯が燃え上がっていた。

 燃えているのは、家屋だ。

 焦げ臭い匂いも感じる気がする。


「ここは戦場よ」


「わっ!」


 後ろから姿を現したエアリスに驚き、琉海は声を出してしまう。


「何を驚いているの」


「いや、何でもない。それより戦場ってどういうこと?」


「いまにわかるわ」


 エアリスがそう言い終わると、誰かがこちらにやってくる足音が聞こえてくる。

 燃える家屋が両端を埋め尽くす一本道をゆっくり歩いてくる。

 とっさに身構えようとした琉海。

 しかし、琉海の体は言うことをきかなかった。

 自分の体ではないような感じだ。

 10メートル手前で立ち止まる人影。

 顔は見えない。

 何かを喋っているようだが、琉海の耳には音が届くことはなかった。

 琉海の口も動くが、音にはならない。

 おそらく、何度かの問答をした後、琉海の体は意志とは別に人影に右手を向ける。

 すると、心臓のあたりから何かをくみ上げ、体の中を巡って右手に集中していくのがわかる。

 琉海はその何かが魔力であることを理解する。

 魔力はエアリスの能力で形を成していく。

 魔力とエアリスから感じる別の何かが、混ざり豪奢な剣へと変貌する。

 琉海の体がその剣を軽く振ると周囲一帯に光が放たれ、琉海の視界を真っ白にした。

 ホワイトアウトして気づくと、木造家屋の中で椅子に座っていた。


「さっきのは……」


 琉海は自分の体が自由に動くのを確認する。


「ふう……」


 問題なく動くことにほっとしてため息を吐いた。


「どう? 理解できた? 魔力は感じられたかしら」


 エアリスは琉海の頭から手を放す。左手の小箱は塵となって消えていた。


「魔力……」


 琉海はさっき感じた心臓あたりに意識を集中する。

 そこにある泉から少し汲み取るイメージで魔力を右手に巡らせる。

 すると、微かに右手が煌めく。


「へえ、一発で魔力を自由に巡らせるようになったのね。何回かは繰り返すだろうと思ったんだけど、要領がいいわね」


「それより、さっきのはなんだったんだ?」


「さっきのは、記憶の出来事。契約者とは見えないパスが繋がっているの。それを利用すれば、記憶の共有もできる。そこで、魔力を使用する感覚を実感してもらおうと思って、前の契約者の記憶をルイに転写したというわけよ」


 つまり、記憶の追体験。

 エアリスの説明だと、夢の中と大差ないようだ。

 ただ、それがフィクションかノンフィクションかの違いだけらしい。


「記憶なら、あの人影はなんだったんだ」


「あれは、前の契約者が見せたくないものだったんでしょ」


「ちょっと待て。前の契約者ということは、エアリスも体験しているはずだろ。なんでその記憶を自分は体験していないみたいに言うんだ?」


「それは記憶がないからよ」


「記憶がない?」


「私が持っていた前の契約者に関係する記憶はほとんどなくなっているのよ。理由はわからないんだけど。ただ、前の契約者が魔道具に封じ込めた記憶は、何個か持っているからそれを今さっき使ったのよ」


「そんな大事なもの使ってもよかったのか?」


「うーん、なんでかしらね。ここで使うべきと思ったのよね」


 エアリスは理屈ではなく、勘に従って記憶を封じ込めた箱を使ったようだ。


「魔力が使えるようになったなら、さっさとあの結界を破壊してしまいましょう」


「破壊するっていってもどうやって……。魔力の扱い方はわかっても魔法はまだ全然わかんないぞ」


「問題ないわ。さっきみたいに魔力を右手に集中してくれれば、あとは私がサポートするから。後々は私のサポートなしでできるようになってもらいたいけど、今はいいわ。じゃあ、行きましょう」


 エアリスは、玄関へと歩いていってしまう。


「も、もう、いくのかよ」


 琉海は付いて行くしかなく、急いで立ち上がり、あとを追う。


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