親子団欒
スタント公爵家の屋敷のとある一室では、ティニアとエリザがソファに座って向かい合っていた。
「本当に心配をかける子ね」
エリザはため息交じりに言った。
「ごめんなさい」
「まあ、いいわ。それも必要なことだったんでしょ?」
「はい。必要なことでした。まさか、死にかけるとは思いませんでしたけど」
ティニアは舌を出して茶目っ気たっぷりに言う。
そう。
これは必要なことだったのだ。
ティニアにはある能力があった。
いわゆるトランサーだ。
ティニアの能力は《予知》。
しかし、すべてを予知することができるほど万能なものではなかった。
《予知》と言っても感覚的なもので、衝動に駆られる感じに似ており、静華の《超直感》と類似する部分もある。
だが、《予知》は分岐点となる場所やタイミングで必ずと言っていいほど、選択を迫ってくる。
ティニアがスタント領の都市から王都に向かうとき、護衛を連れていくべきではないという衝動に駆られた。
普通の貴族なら、そんなことは考えないだろう。
自分の能力を信じていたティニアはそれに従った。
その結果、琉海と出会うことになったのだが、一歩間違えば、死んでいた可能性もあった。
いや、むしろ護衛がいたら、ティニアは生きていたかわからない。
集団になることで進行が遅くなり、琉海と出会うことなく、馬車も破壊され、死んでいたかもしれない。
結果論でしかないが、《予知》を信じたことで、事が好転しているとティニアは思っていた。
そして、親であるエリザもティニアの能力を無視できないものだと考えている。
「それで、私に話したいことって何かしら?」
「騎士武闘大会のことで」
「そういえば、まだ誰を代表にするか決めていなかったわね」
「ええ、ですので彼に出てもらおうかと思います」
「彼?」
「ルイ様です」
ティニアの提案にエリザは神妙な顔をする。
「それも必要なことなの?」
「いえ、これはついでです」
「ついで?」
エリザはなんのついでなのかと問いたい顔をしていた。
そこは親子だからなのか、ティニアは汲み取って、話しを続ける。
「はい。ルイ様の本当の実力がどの程度のものなのかを知りたくて」
「そんなのメイリが確認してるはずでしょ?」
エリザが部屋の隅に立つメイリに視線を向ける。
しかし、メイリは左右に首を振った。
「私の能力で確認した限りでは、魔力は低く、ベアウルフの群れを一掃できるほど強いようには感じませんでした。むしろ、シズカ様の方が強いと思われます」
エリザは静華の顔を思い出す。
「へえ、あの女の子がねえ」
「お母様、話しが脱線しそうなので戻しますね。つまり、メイリが判断できない強さをルイ様は、持っていると思われます。それを調べるために、スタント公爵家の代表として参加させたいんです」
「なるほどね。でも、勝算はあるんでしょうね」
エリザが心配しているのは、無様に負けてしまうことだった。
スタント公爵家が失墜することは許されないのだ。
「どうでしょうね」
ティニアも豪語できるほどではなかった。
琉海はベアウルフの群れを倒したとはいえ、肝心の戦っている姿をティニアは見ることはできなかったのだから。
「大丈夫だと思います。少なくとも、私が出るよりかは勝算があると思います」
ここで、援護射撃をしたのは、アンジュだった。
「「へえ、アンジュがねえ」」
親子揃ってアンジュに含み笑いをする。
「な、なんですか!?」
その視線に耐えかねたアンジュが顔を赤くしつつ、狼狽えた。
「「なんでもないわ」」
再び揃って言う二人の息はぴったりで、表情も似た笑みをしていた。
そんな和やかな空気になった一室でメイリは思う。
(仲の良い親子よね。アンジュも赤くなっちゃって。さて、明日はどうなることかしら)




