町に到着なのだが……
馬車の中には五人が座っていた。
少し手狭だが、本来この馬車は六人乗りらしく、これが通常のようだ。
「そうなんですか。人を探して旅をしているんですか」
ティニアに琉海たちの旅の目的を聞かれ、細かい部分を省きながら、琉海は説明した。
もちろん、別の世界から転移したことも伏せて話した。
「それにしても、ルイ様はお強いですよね。どこかで騎士をやっていたのでしょうか?」
「いえ、騎士になったことはありません。ずっと流浪の旅人ですよ」
「旅人であれだけの魔物を倒してしまうなんてすごいですね」
「あはは、慣れですかね」
苦笑を浮かべて、琉海は濁すことにした。
「もっと色々と知りたいですわ」
ティニアは含みのありそうな笑顔で言った。
その後も雑談のような話が続いた。
琉海では、ぼろが出そうと感じたのか、ティニアの質問に静華が先に答えることが多く、琉海は聞くほうに徹した。
静華も他の人間に教えるわけにいかない部分はやんわりと躱すことで、ティニアが追及しようとする幾先を制していく。
その結果、どこの町から来たのか。や王都にどのぐらい滞在するのかなど、他愛のない会話に落ち着いていた。
そんな会話が続き、日が沈み始めたころに、町に到着した。
王都の近くには町がいくつか中継地点としてあるようで、ここはその町の一つらしい。
規模は大きく、周囲を囲む石造りの塀も高い。
王都に近づくとこんな町が増えてくるのだろうか。
琉海たちの馬車は門のあるほうへ進む。
「おい、そこの馬車。止まれ!」
一人の若い兵士が馬車の前に出る。
「なんでしょうか?」
御者がおどおどしながら、聞き返す。
「今日は、もう入れない。時間外だ」
若い兵士はそう言って、日の沈むほうを指差す。
日が完全に沈み、夕闇が支配し始めた。
「で、ですが……」
「わかったら、さっさとここから離れろ。警備の邪魔だ」
若い兵士がしっしと犬でも追い払うかのように手を振る。
その会話は馬車の中にいた琉海たちにも聞こえていた。
ティニアはすぐに立ち上がり、馬車の外に出た。
「ちょっと待ちなさい! まだ、私たちは間に合ってるはずよ」
ティニアの姿を見て、若い兵士は口角を上げた。
豪奢な服装と雰囲気からティニアが貴族であることはわかるだろう。
しかし、乗っていた馬車が足を引っ張っていた。
定期便の馬車に乗る貴族。
そこから連想されるのは、平民に毛が生えたような、格下の貴族だった。
それが若い兵士でも手が届くと感じさせたのかもしれない。
「そんなに通りたいなら、一晩楽しませてくれたら考えてもいいぞ」
下卑た笑みをする若い兵士。
その発言に我慢できなかった者がいた。
「調子に乗るな!」
「ひっ!?」
いつの間にか近くにいたアンジュが剣を抜き、剣先を兵士の首元にあてる。
微かに皮を切ったようで、血が首から一筋垂れる。
「き、貴様! これは反逆罪に値するぞ!」
「それはこっちのセリフだ」
兵士が剣に怯えながらも声を張る。
しかし、アンジュは頑として剣を下ろそうとはしなかった。
このやり取りを聞きつけて、他の兵士もやってくる。
剣に怯えていた兵士は仲間が来たことで、喜々とした顔をする。
「ど、どうしましたか?」
仲間の兵士に剣を突きつけられている状態に異常事態を感じたのか、口ごもってしまう中年の兵士。
「た、助けてください! この者たちが通せと脅すんです!」
さっきまでの口調はどこへいったのか、敬語で喋る若い兵士。
この変化を見るに中年の兵士は上司なのかもしれない。
「す、すみませんが、剣を下ろしてはいただけませんか?」
中年の兵士は丁寧に言う。
だが――
「こいつが、地面に頭を擦り付けて謝るのなら下ろそう」
アンジュはそれをよしとしない。
「えっと、部下が何をしたのでしょうか?」
アンジュは中年の兵士を睨む。
その威圧感に中年の兵士は一歩後ろに下がってしまった。
「何様のつもりか、こいつはティニア様の体を求めた! 万死に値する!」
「…………ッ!?」
中年の兵士は数舜呆けて、ティニアを見ていた。
しかし、次の瞬間――
何を思ったのか素早い動きで土下座をした。
「申し訳ございません!」
突然のことに若い兵士は唖然としてしまう。
「貴様に誤ってもらっても仕方がない」
「そういうわけにはいきません。これは私の教育不行届きでございます!」
「なら、こいつの処分は任せていいのか?」
「はい! 厳罰によって処させていただきます!」
「それと、町には入れるんでしょうか?」
ティニアが話しに加わった。
「はい。もちろんでございます!」
「そう。それは良かったわ。アンジュ、もういいわよ」
「はい」
アンジュは剣を下ろし鞘に納める。
二人は馬車に戻った。
首元の圧力が無くなったことで若い兵士が口を開いた。
「覚えていろよ! 貧乏貴族が!」
「馬鹿者がッ!!!」
大声で叫ぶ若い兵士をぶん殴って黙らせる中年の兵士。
「な、なにすんですか?」
「お前は俺を殺す気か?」
「は?」
「あの女性はティニア様だ。スタント公爵家の令嬢だ。お前が喋っていい相手じゃない」
中年の兵士に言われ、若い兵士の顔から血の気が失せる。
「お前はクビだ。さっさと荷物を持って出ていけ」
若い男に選択肢はない。
馬車が町に入るのを眺めていることしかできなかった。




