朝の一幕
朝食を食べようと一階下りた琉海は、エアリスとミリアが対面している場面に居合わせた。
「綺麗な人……」
ミリアが小さく呟いた。
エプロンを着けて、お盆を持っているところを見るに、もう宿の手伝いをしているようだ。
「もう、体のほうは平気?」
琉海はミリアに話しかけた。
昨日、攫われたことは、意識を失っていて覚えていないだろう。
女将さんにも心配させないように、誘拐されていたことは教えていなかった。
道に倒れていたのを助けたことにしている。
「お母さんには、休むように言われたんだけど、別に疲れているわけでもないから、無理を言って手伝ってるの」
「大丈夫そうで良かったよ」
「助けてくれたみたいで、ありがとうございます」
ミリアは頭を下げて礼を言う。
「たまたま通りかかっただけだから、そんなにかしこまらなくていいよ」
「そうよ。ルイはたまたま気分が良くて、探していたら運よく見つけただけだから、気にしなくていいのよ」
「いや、そこまでは言ってないけど……」
琉海とミリアの会話にエアリスが割り込んできた。
琉海にとってはいつものことだが、それは琉海にしか見えないときのことだ。
今は、はっきりとミリアにも見えていた。
「えっと……どちら様でしょうか?」
ミリアの質問にエアリスは口元に人差し指を添え、考える素振りをした。
「うーん……苦楽を共にするルイの愛人かしらね」
「あ、愛人……ですか!?」
一瞬、ミリアが琉海に視線を向けてきた。
その顔には驚きが刻まれていた。
「いや、なに本気にしてんの? 嘘だから。エアリス、誤解を生むことを言うなよ」
「別に誤解ではないでしょ? 私たちは一緒にいないと存在していられないんだから」
くすくすと、笑うエアリス。
他の人間と会話できるのが嬉しいのか、エアリスは楽しそうだった。
「あ、でも大丈夫よ。正妻はまだ決まっていないみたいだから」
「え、正妻ですか……?」
「ええ、私は愛人だもの」
ミリアは神妙に考えはじめる。
「なに吹き込んでんだよ」
「恋する乙女に助言をしてあげたのよ」
エアリスはそう言ってテーブルのある席のほうへ行ってしまった。
「恋する乙女って……」
琉海は自然とミリアに視線を向けた。
そのタイミングでミリアも顔を上げ、琉海と視線が交わる。
ミリアは徐々に顔を赤くさせ、
「な、なんのことでしょう。……えっと、朝食をお持ちしますね。席で待っててください!」
ミリアは逃げるように厨房へ駆けて行った。
琉海は先に席に座っていたエアリスの向かい側に腰を下ろす。
「なにがしたかったんだよ」
「ふふ、ちょっと楽しくなっちゃって。ルイとの会話も面白いんだけど、他の人間とも話せるのはやっぱりいいものね」
その物憂げな顔を見て、琉海は口を開く。
「マナならいくらでも作れるから、今後は好きなときに出てくればいいだろ」
別に今回だけしかできないことじゃないと伝えたかった琉海。
その心を察したのかエアリスは笑顔で頷いた。
「ええ、そうするわ」
今日の朝食は夕食に引き続きいつもより多かった。
サービスでエアリスの分も用意してもらい、朝食を食べることになった。




