表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/195

C級冒険者

「おかえりなさい」


 宿に戻るとミリアが出迎えてくれた。


「ただいま」


「町の散策はどうだった? ギルドはすごかったでしょ」


「ギルドは色々とすごかったかな」


 特に職員の人が。

 琉海は口には出さず、会話を続ける。


「町の人はいい人で助かったよ」


「そうなんだ。よかった。この後は、どうする? 夕ご飯ならもうできると思うけど」


「じゃあ、食べようかな」


「ここの席に座って待ってて」


 ミリアは空いている席に琉海を案内し、キッチンの方へ行く。

 少しすると、料理を持ってやってきた。


「今日も美味しそうだね」


「そうでしょ。私も少し手伝ったんだよ」


 ミリアはそう言って、琉海の前に料理を並べる。

 献立は肉野菜炒めと大皿に乗った魚。

 それとスープが付いてきた。

 白米が欲しくなる献立だが、残念ながら白米はない。


「いただきます」


 琉海は木製のスプーンでスープを口に入れる。

 優しい味わいが広がり、さまざまな材料から取り出した出汁が味に深みを生んでいた。


「うん、美味しい」


 琉海はその後も食べ進めていく。

 それをミリアは嬉しそうに眺めていた。

 すると、扉が開く音が聞こえてくる。

 お客だろうか。


「いらっしゃいませ」


 ミリアがすぐに入り口に出迎えにいく。


「ここでいいんじゃないか……」


「ははは、俺は飯と酒が飲めればどこでもいいぜ」


「俺は女が欲しい――おっ、いい女がいるじゃねえか」


 青い髪の男、黄色の髪の男、緑の髪の男と頭髪が特徴的な男たちが来店した。

 その中の緑の髪をした男が下卑た顔でミリアの全身を視線で舐め回す。


「おい、どけ」


 そんな三人を割って入ってきたのは、赤髪の男。

 この男も三人と仲間なのか、乱暴な言葉を放ったわりに剣呑な空気にはなっていなかった。


「さっさと飯にすっぞ!」


 赤髪の男が先陣を歩きドカッと席に座る。

 他の三人の男たちもミリアを無視して空いている席に腰を下ろした。

 雰囲気から赤髪の男がリーダーなのかもしれない。

 座った後も緑の男はずっとミリアに視線を向けていた。


「えっと、ご注文は何にしますか?」


 ミリアが仕事を全うするために声をかける。


「俺は君が欲しいな」


「うちはそういうお店ではないので、すみません」


 ミリアが丁重に断るが、緑の男の顔から笑みは消えない。


「なるほど、君はそういう風に断わるタイプか」


 意味深なことを言うが、目線はミリアから外そうとしなかった。


「酒だ。それと、飯は肉を出せ! 金ならある! どんどん持ってこい!」


 赤髪の男が適当に注文する。


「かしこまりました」


 ミリアは一礼してその席から離れて、キッチンに注文を伝えに行った。

 この柄の悪そうな四人組が来てから、他のお客は居心地が悪くなったのか、徐々に引いて行ってしまう。

 閑散としはじめる食堂。

 逃げ遅れ、食べている者は端の席で食事をしている。

 その席から小さい声で話声が聞こえてきた。

 琉海はそちらに耳を傾ける。

 精霊術を使って聴覚を強化して、会話を盗み聞きする。


「あいつら、例の冒険者グループだよな」


「ああ、隣町でC級グループだからって威張り散らしている冒険者だろ」


「下手に力があるせいか、冒険者ギルドもあまり強く言えないらしいからな」


「他にも悪い噂は山ほどあるけど、こいつらなんでこの町に来やがったんだ」


「さあな、俺たちも目を付けられる前にこの町から離れた方がいいかもな」


 小さな声で会話をしている二人は席を離れるタイミングを伺っているようだ。


(なるほど、あの四人組は柄の悪い不良冒険者か)


 面倒なことになったなと琉海は嘆息する。

 そういえば、中学のとき、不良集団と乱闘になったことがあったなと、現状とは全く関係ないことを思い出す。


「おい、まだかよ!」


 待ちきれなくなったのか、大声で叫ぶ四人組の一人。

 黄色の髪でツリ目。


「は、はい。只今お持ちします!」


 ミリアが急ぎ足でお酒や料理を運ぶ。

 大きめの丸テーブルに料理が並べられた。

 所狭しと並ぶ料理。


「ご注文は以上でよろしいでしょうか」


 ミリアの言葉など聞かず、料理と酒を貪りはじめる男たち。


「ご、ごゆっくりどうぞ」


 一言残して、ミリアは席から離れる。

 少しの間は、静かだったが料理を食べ終えるとどんどん酒を注文し飲んでいく。

 そして――


「おい、酒持ってこい!」


 赤髪の男が空のジョッキを振ってミリアを呼ぶ。


「はい、只今!」


 ミリアが急いで持って行き、赤髪の男の前にジョッキを置いたとき――

 ミリアの腕を緑髪の男が掴んだ。

 その男はさっきよりも口角を吊り上げた笑みを零す。


「なあ、俺とあっちに行こうか。もう、我慢の限界だ」


「は、離してください!」


 有無を言わせない力があるのか、ミリアが抵抗しても腕を離そうとしない。


「すぐ気持ちよくなるから、大丈夫」


 緑髪の男は立ち上がって、奥の扉の方へ向かう。

 ミリアは必至に抵抗しているが、腕を引っ張られてどうすることもできないでいる。


「はあ、やれやれ、あまり過激にやるんじゃねえぞ。やりすぎるとギルドから呼び出しくらって面倒だからな」


 赤髪の男が忠告する。


「大丈夫だよ。この娘は可愛がるから」


「ははははッ、それがダメだって言ってるんだろ」


 青髪の男は笑っている。


「人の話を聞かない奴だ」


 黄髪の男も緑髪の男に呆れたような声で言う。


「楽しみなんてこれぐらいしかないんだから、いいだろ」


 緑髪はどんどん奥へ行ってしまう。


「い、いや、やめて!」


 ミリアは涙声で叫ぶ。


「な、なにしてるんですか!?」


 ミリアの声で母親がキッチンから飛び出してきた。


「ほう、あの女もいいな。あとで食べよう」


 緑の男はそう言って再び奥の扉に歩を進める。


「は、離しなさい!」


 母親が緑の男に詰め寄ろうとしたが、赤髪の男がテーブルに立てかけてあった剣を抜いて切っ先を母親に向ける。


「あいつの邪魔をするな。こっちは冒険者だ。力の差は歴然。命が惜しかったら、戻れ」


 赤髪の男は剣を片手に酒を飲み、椅子に座った状態で母親を威圧する。


「や、やだ! やめて!」


 ミリアが叫ぶが誰も動けないでいた。

 不良冒険者の他にも数人客はいるが、誰も助けない。

 それだけ、C級冒険者は強いということなのかもしれない。

 だが、それを見て見ぬふりをすることができない男がいた。

 ミリアが踏ん張っても緑の男の歩みを止められない中、緑髪の男の腕を掴んだ者がいた。

 緑髪の男は、足を止めて後ろを振り返る。

 そこには、黒髪黒目の少年の姿があった。


「おい、小僧その手を離せ。今なら一発殴って済ませてやる」


 緑髪の男は、煩わしそうに琉海へ視線を向ける。


「それはこっちのセリフだ」


 琉海が睨みを利かせてみるが、何の効果もなかった。


「そうか。なら、力尽くでやるしかないか」


 琉海は小さく呟き、精霊術で強化する。

 そして、掴んでいる腕を強く握った。


「ぐッ!?」


 緑髪の男から苦悶の声が聞こえてくる。

 だが、琉海はやめようとしない。

 さらに握る力を強めていき、男の手からミリアの腕が解放されるのを待つ。


「く、クソガキ!」


 緑の男は危険を察したのか、もう片方の手で殴ってきた。

 その瞬間、ミリアの腕を掴んでいた手が緩んだのがわかり、琉海は一気にその腕を捻った。


「がああぁッ!」


 骨が折れる音が聞こえたが、琉海は気にしない。


「ぐあぁッ!」


 腕を折られて殴るどころではなくなった男。

 腕を庇って冷や汗をかいている緑髪の男との距離を一瞬で封殺し、蹴りを脇腹に食らわせる。吹っ飛んだ緑髪の男は、動かなくなった。

 ちょっと加減を間違えただろうか。

 琉海は死んだかと思って様子を見ようとしたが、他の三人がそれを良しとしない。

 仲間をコケにされて黙っている不良ではないだろう。


「やりやがったな。クソガキ!」


「はは、覚悟したほうがいい」


「殺す」


 赤髪、青紙、黄髪と三人に殺気を放たれる。

 そんな殺気を琉海はそよ風のように受け流す。

 あの時の鎧の男より、威圧感を感じない。


「チッ!」


 微動だにしない琉海に苛立ったのだろうか、舌打ちが三人の中から聞こえた。

 瞬間――三人がバラバラに動き出す。

 一気に琉海を殺す算段のようだ。

 左右と前から取り囲むような布陣を作ろうとする。

 だが、その陣形が完成することはなかった。

 琉海が一瞬で左にいた黄髪の男に近づき、腹を殴って沈黙させる。


「くそ――ッ!」


 言い切る前にいつの間か顔の横を回し蹴りされて、地に伏す青髪の男。


「て、てめえ……」


 一瞬で二人を潰した琉海に赤髪の男も異常さを感じたのか、若干声が震えているように感じる。

 だが、恐怖よりプライドが勝ったのか、


「はあああ!」


 雄叫びを上げて剣を上段から振り下ろす。

 それを琉海は剣の持ち手に裏拳を入れ、剣が手から離れたと同時に、背負い投げで地面に叩きつける。

 精霊術で強化した状態で地面に全力で叩きつけられたのだ。

 背骨を折っているだろう。

 だが、そんなことは自業自得だと切り捨て、琉海は男たちを見下ろす。

 四人が倒れた食堂には、静寂に包まれていた。

 そして――


「す、すげえ……」


 誰かの一言を皮切りに歓声が木霊した。


「まじかよ」


「C級冒険者四人を一人で倒しちまったぞ」


「動き早すぎて見えなかった……」


「あいつ何者なんだ?」


 各々が琉海を絶賛する。

 そんな琉海にミリアが近づいてきた。


「あ、あの……ありがとうございました」


 一礼するミリア。

 あれ? なんで敬語?

 顔を上げて琉海と視線が合うと、顔を赤くするミリア。


「あ、私、ギルドに連絡してきますね」


 ミリアはそう言って出ていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ