最初の町
エアリスの予想では三〇日ぐらいは精霊術の習得に費やすと思っていたが、それを一日で終わらせた琉海。
翌日には、村を出た。
廃村となった村を後にして、琉海たちが向かったのは、アンリから聞いていた西にある町だった。
あの男たちがどこへ行ったのか手掛かりがない。
だが、奴らの情報を早急に掴む必要があった。
大きな町なら何かをわかるかもしれないと考えた。
アンリの話では、三日か四日ぐらいかかると言っていたが、琉海は精霊術で強化し、全速力で西へ駆ける。
力技で三日かかる道程を一日で走破してしまった。
「はあはあ、さすがに飛ばしすぎたかな……」
汗を拭って息を整える。
エアリスは実体化していると魔力を消費してしまため、琉海の中でお休み中だ。
夕日が大地を赤く染めるころ、次第に町が見えて来た。
町を守るように防壁が周囲を囲っていた。
そして、劇的な変化に気づいた。
その町には、植物が存在した。
草や木が青々と茂っている。
自然力も村より多く感じる。
「エアリス、出てきていいぞ」
琉海はエアリスに呼びかける。
「ふあぁ、もう着いたの?」
あくびをしながら、姿を現したエアリス。
「エアリス、精霊の目から見て、この町ってどう思う?」
琉海の質問にエアリスは町を注意深く視る。
「妙ね。あの村とは別世界のようだわ」
「やっぱりか。木や草が生えてるもんな」
「うーん、それもなんだけど、それよりもこれだけ自然力があるのに、微精霊すらいないのが気になるわね」
「なんだか、きな臭い感じだな」
「変なことに巻き込まれたら、目的から遠ざかるわよ」
「ああ、わかっているよ」
琉海は頷いて、町の中に入っていく。
町中は活気があり、映画やアニメで見る異世界がそのまま現実になったかのような風景だった。
夕方だからか、酒場も開店しはじめている。
道には露店が並び、馬車も通っている。
仕事終わりの男たちが酒を飲んでもいた。
琉海の想像していた異世界がそこにはあった。
「まずは、宿かな」
夜を野宿で過ごせるほど、まだ琉海はこの世界に順応していなかった。
読み書きは、アンリに教わったので、看板の文字は多少読める。
看板に宿と書かれている場所を探した。
入り口付近は酒場が多い。
通りを歩き続けていると――
「ねえ、そこのお兄さん。宿は決まってる?」
琉海に話しかけてきた少女がいた。
年齢は同じか少し下だろうか。
長い茶髪を三つ編みにした少女だった。
「まだなら、うちに泊まっていかない? 安くするわよ」
客引きのようだ。
ちょうど、宿を探しているところだったし、安くするということだったので琉海は、少女に案内を頼んだ。
「じゃあ、案内するわ。こっちよ」
少女と一緒に向かったのは、中央に近い宿だった。
店内は、丸テーブルとイスが数個置かれている。
奥にはカウンター席もあり、さらに奥からはいい匂いがしてくる。
おそらくキッチンがあるのだろう。
今は仕込み中なのかもしれない。
まだ開店前なのか、お客さんはいなかった。
「お母さん。お客さん案内してきたよ」
宿に入ると少女は大きな声で言う。
「無理矢理じゃないでしょうね?」
キッチンの方から姿を現した少女の母親。
髪は少女と同じく三つ編み。スレンダーでエプロンを着けていた。
「お客さん、すみません。この子が無茶を言ったんじゃありませんか?」
少女の母親がそう言ってくる。
「いえ、ちょうど宿を探していたので、声をかけてもらって助かりました」
「そうですか。では、あちらでお名前の記入と金額の説明をします」
「お母さん。それは私がやるから、お母さんは料理のほう、お願い」
「わかったわ。じゃあ、ミリアお願いね」
「任せて!」
ミリアと呼ばれた少女は、帳簿の置いてある机に向かう。
受付のようで、帳簿を開くミリア。
「ここに名前を書いてね。一人朝夕食事付き一泊銀貨二枚よ」
一泊の相場がわからない琉海。
ヤンばあに一食は銅貨五枚と聞いていたので、妥当なのだろうか。
とりあえず、琉海は懐から銀貨二枚を出す。
この金は、アンリと村を脱出するためにヤンばあが用意した金だ。
二人分入っていたようである程度は入っている。
しかし、どこかで金策を行わないと、金欠に陥ってしまうだろう。
「はい。ルイっていうのね。じゃあ、カギね。二階の一番奥の部屋だからね」
ミリアは、鍵を琉海に渡す。
「夕ご飯はいつ食べる? すぐ食べるなら用意できるけど」
琉海は少し考えてから答える。
「そうだな。部屋に行って少し休んでから食べようかな」
「そう。なら、下に降りてきたときに声をかけてね」
笑顔を向けてくるミリア。
「わかった」
琉海はミリアから渡された部屋の鍵を持って二階に上がった。
部屋の扉は四つある。
その中の一番奥が琉海の部屋らしい。
鍵を開けるとベッドと机と椅子のある簡素な部屋だった。
「さて、これからどうするかな」
琉海はベッドの縁に座り、嘆息する。
「あの娘を探すんでしょ?」
「そうなんだけど、手掛かりが鎧を着た男ぐらいなんだよな」
琉海がため息を吐きながら言う。
この町に来てわかったことは、意外に鎧を着た男はいるということだ。
町を巡回する兵士だけではなく、魔物のような見たことのない動物を運んでいる鎧を着た男たちもいた。
ただ、琉海を刺したあの男は見当たらない。
この町には着ていないのだろうか。
「あの男を探すのも大事なんだが、先立つ物も心許ないんだよな」
琉海はそう言って巾着袋を振る。
中には金が入っている。
銀貨数十枚。
まだ、金には余裕があるが、どこに行くにも金は必要だ。
そして、金の力は絶大であることも理解していた。
「金策も考えないとな」
「そうね。それなら、あの娘に聞いたら? この町に住んでいるんだし、聞いたら何か教えてくれるかもしれないわよ」
エアリスが言っているのは、ミリアのことだろう。
「確かに、それが一番か」
琉海はエアリスの案を採用することにした。
「それじゃ、情報収集しに飯でも食ってくるかな」
ベッドから立ち上がる琉海。
「じゃあ、私は休んでいるわね」
エアリスはそう言って、消えてしまった。
「了解」
誰もいない部屋で琉海は呟き、部屋を後にした。




