殺しのプロ
再び、膠着状態になる。
ウルバからは攻勢に出ようとする雰囲気を感じられなかった。
(だったら、これならどうだ?)
琉海は足に力を入れ、一気に駆け出す。
だが、観客たちに琉海の姿を視認できた者はいないだろう。
一瞬のことだった。
琉海はウルバの顔面を掴み、後頭部から地面に叩きつける。
(さっき殺されかけたんだ。少し痛い目を見てもらう)
「がッ!?」
ウルバも何が起きたのかわからなかったようだ。
いつの間にか視界が塞がり、地面に叩きつけられたのだから、それもしょうがないだろう。
琉海が手を離すと、視界が開けて、琉海の顔が見える。
地面に叩きつけられた衝撃でウルバの体は悲鳴をあげていたが、それを無視してナイフの切っ先を琉海に向けた。
琉海も何をしてくるのかと警戒する。
そして――
プスッ!
という音が聞こえ、琉海に向かって何かが飛ぶ。
顔に向かってきたものを琉海は首を傾けて躱した。
しかし、避けたように見えたが、掠っていたようで、琉海の頬から血が垂れる。
何を飛ばしたのかわからないが、ナイフの束に仕込んでいたようだ。
「く、くくく……」
突然、笑い出すウルバ。
琉海は何に笑っているのかわからなかった。
「ふ、勝負は俺の勝ちだ」
ウルバはそう言った瞬間、琉海の視界が歪む。
一瞬ふらつきを感じ、足元が覚束なくなる。
「効いてきたようだな」
ウルバは上半身だけ起こし、もう用済みであるのか、ナイフを放り投げる。
カランカランと虚しい音が鳴り、その音が威容に大きく聞こえる。
「お前の頬を切った針には、毒がたっぷり塗られていた。即効性のある毒だ。お前はすぐにあの世行きだ」
ウルバは一撃でボロボロになった体を起き上がらせて、服に付いた土を叩く。
「お前に恨みがあるわけじゃないが、これが俺の仕事なんでな」
ウルバが喋っている間、琉海は頭を押さえていた。
平衡感覚を狂わそうとしてくる毒。
気持ち悪くさせてくる。
車に酔ったときと同じような気分だ。
だが、それも次第に収まってくる。
「安らかに眠り――」
最後まで言い切る前に、琉海の拳がウルバを吹っ飛ばした。
土煙を上げながら地面を転がり、動かなくなる。
「俺に毒は効かない」
琉海の声がウルバに聞こえることはなかった。
吹っ飛んだウルバは意識を失っていた。
審判が確認する。
「勝者、ルイ」
審判の宣言で琉海の勝利が決まった。




