勘違い
「おい」
振り向くと、王子が腕組みをしながらこちらを見ていた。
「なんですか?」
そう問うと、彼は顔をしかめて、
「それはこっちの台詞だ。そろそろ説明しろ。一体どうしたんだ?」
と返してきた。
「さっきこちらから洞窟の入口で聞こえた声が聞こえてきたんです。なんかちょっと嫌な予感がしたので、ル―べを彼らに預けました。」
「それで?一番頼りになる俺を供に選んだってわけか?」
「いえ。何かあったら生け贄にして逃げようと思って。」
「……おい、いい度胸してんじゃねーか。……まあいい。声って誰の声だ?」
「多分、女神のうちの一人でしょうね。」
そう言うと、彼は望むところだな、と言って歩く足を速めた。しばらくすると、祭壇のようなものの隣に男の子が座っているのが見えた。できるだけ足音を立てないように気をつけながら近づき、様子を見ると、その男の子は眠っているようだった。近くで見ると、肌が青白く死んでいるようにも見えた。
「おい、大丈夫か?」
そう言って王子がパシパシとその子の頬を叩いた。
「ちょっと!!何やってんですか!」
「あぁ?ただ起こしてるだけだろ?」
「まったく……起こしてもし襲いかかってきたらどうするんですか。ちゃんと考えてください」
「そんなもん起こしてみなきゃわかんないだろ?」
「あんたねぇ……」
そう言い合いをしているうちに、その少年の長いまつげが揺れ、ゆっくりと瞼が持ち上がった。
「ん……、あれ?……ここはどこだ?あなたたちは?」
「俺たちは君を助けに来たんですよ。」
そう言うと、彼ははっと目を見開き、
「小さな男の子を見ませんでしたか?」
と問うてきた。
「ル―べのことか?」
と王子が言うと、彼は驚いて、
「知ってるんですか?」
と王子の袖を掴んだ。
「知ってるぜ?あいつに頼まれてお前を探しに来たんだ。」
少年はよかった、と息をついた。
「あいつ、一人で出られたんだ。」
「どういう意味だ?」
その言葉にひっかかり問うと、
「ル―べと俺は一緒にこの洞窟に入ったんです。そしたら、ル―べを見つけてそっから多分倒れたと思うんですけど、記憶がなくて……」
「俺たちはお前が一人で洞窟に入ったって聞いたんだけど?」
「いや、違いますけど……」
そう言って彼は訝しげな目を向けてきた。
「詳しく話せ。」
そう王子が言うと、彼は詳しく事情を話し始めた。
「ル―べがこの洞窟から何か聞こえると言って最初に中に入っていったんです。何かル―べの様子が変だなと思って後を追ったんですけど、全然追い付けなくて……。やっと見つけたと思ったら、ル―べが倒れていて。とりあえず大人を呼んでこなきゃと思って洞窟を出ようとしたら、ル―べが『お兄ちゃん』って呼ぶ声が聞こえたので、振り向いたらル―べが目を覚ましてたんです。よかったとほっとして一緒に洞窟を出ようと思い、ル―べを抱き上げようとしたら、ル―べの目の色がいつもの色と違ったんです。その目を見たら、何だか急に眠くなって……。目を覚ましたら、あなたたちがいました。」
俺たちは目を見合わせた。
「王子、これって……。」
「俺たちはまったくの勘違いをしていたようだな……。」
「早くル―べの所に行かないと、カサンさんたちが……。」
俺がそう言うと、王子は、
「少年。ちょっと我慢してろ。」
と言って少年を抱き上げ走り出した。