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女神の祈り  作者: 水瀬はるか
ルワーネ王国 フラマルテにて
25/54

少年の頼み

「お兄ちゃんたちあの洞窟にいきたいの?」


その子はいきなりそう言った。王子は不審そうな目でその子を見て、


「何で知ってるんだ?」


と尋ねた。男の子は罰が悪そうに少し目を伏せて、


「さっき、少し盗み聞きしてたんだ。」


と言う。


「もし行きたかったとして、俺らになんか用でもあるのか?」


と王子が問うとその男の子は怯えたようにうつむく。王子にそのつもりはないのだろうが、その子にとって彼の少し乱暴な言葉遣いは怖かったらしい。

しかし、王子はそれに気付かず、無視されたと思い、おい、と声を荒げると、その子は泣き出してしまった。王子はぎょっとした顔でその子を見て、何で泣いてるんだ?と俺に問うてきた。

俺は少しため息をついて王子に目をやってから、しゃがんでその子と同じに目線を合わせた。そして、その子の頭をやさしくなで、できるだけやさしく笑いかけてから、


「俺の名前はロイス。君の名前は何て言うだい?」


と尋ねた。すると、男の子は何度かまばたきをしてから、


「ル―べ…」


と答えた。


「いい名前だね。ル―べ、どうして俺たちに声をかけたの?」


そう問うと、ル―べはまだ少し怯えながらも泣き止んで、


「僕のお兄ちゃんを助けて欲しいんだ」


と告げた。


「どういうこと?」


俺がそう尋ねると、彼は事の次第を話し始めた。


「あれは三日前のことなんだけど…」





ル―べは兄と仲がよく、いつも遊んで貰っていて、その日もいつものように一緒に遊んで貰っていた。すると、遊んでいたボールが飛んでいってしまい、森の中へ探しにいった。ボールを探しているうちにル―べは洞窟を見つけこの中にボールがあるかもしれないと思い、兄を呼んだ。すると、兄は誰か人の声がする、と言って洞窟の中へ入ろうとした。その時の兄の様子は何かに取りつかれたようで、おかしいと思ったル―べは彼を止めようとしたが、兄はそれを振り払って中へ入ってしまった。すぐに村長たちに知らせに行ったが、解決するから大丈夫と言ってから三日がたち、不安に思って俺たちに声をかけた。



ル―べの話を要約すると、こういった内容であった。


「その洞窟に案内して貰えないかな?」


「お兄ちゃんを助けてくれるの?」


「うん、約束するよ」


そう言って自分の小指をル―べの小指に絡めた。すると、ル―べは不思議そうな顔をして、自分の小指を見た。


「約束を破らないためのおまじないだよ。」


俺がそう言うと、ル―べは嬉しそうに小指をぎゅっと小指を絡め返して、


「じゃあ明日の朝またここに来て?待ってるから!約束だよ?」


と目をキラキラさせて俺を見た。


「約束だ。」


そう言うと、安心したように俺たちに手を振り、王子にはお辞儀をして、自分の家へ帰って行った。俺も手をふって見送ると、カサンたちが感心したように俺を見て、


「意外と子供に優しいんだね!びっくりしたよー」


と失礼なことを言った。


「余計なお世話ですよ。」


そう鬱陶しそうにあしらうと、カサンが


「さっきまで優しく笑ってたのにー。ひどいっ!」


と言って泣き真似をしだした。それを無視して王子に


「そろそろ日も沈みますから、一旦船に戻りましょう。」


と言うと、王子は


「…ああ、そうだな。」


と言って船の方へと歩き出した。終始王子は考え事をしているように黙りこくっていたので、


「体調でも悪いんですか?」


と聞くと、彼は


「いいや、悪くねぇ。」


と言ってまた黙った。


「さっき泣かせたこと気にしてるんですか?」


そういうと、王子は図星だったようで、ぎょっとした顔でこちらを見た。


「そんなわけない。…別に気にしてる訳ではないが、俺ってそんなに怖いか?」


と言ったので、素直に頷き


「子供からしてみたら、大分怖いと思いますよ?笑顔に邪気があるというか…」


と言うと、彼は不機嫌そうに口をとがらせ、


「俺の笑顔はいつでも美しく完璧だ!それにお前の方がいつも笑わないだろう。」


俺はふんっと鼻をならし、そっぽを向くと、彼は拗ねるなと肩を叩いてきた。

その後、俺たちは船に戻り、明日に備えて早く寝床に入った。

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