少年の頼み
「お兄ちゃんたちあの洞窟にいきたいの?」
その子はいきなりそう言った。王子は不審そうな目でその子を見て、
「何で知ってるんだ?」
と尋ねた。男の子は罰が悪そうに少し目を伏せて、
「さっき、少し盗み聞きしてたんだ。」
と言う。
「もし行きたかったとして、俺らになんか用でもあるのか?」
と王子が問うとその男の子は怯えたようにうつむく。王子にそのつもりはないのだろうが、その子にとって彼の少し乱暴な言葉遣いは怖かったらしい。
しかし、王子はそれに気付かず、無視されたと思い、おい、と声を荒げると、その子は泣き出してしまった。王子はぎょっとした顔でその子を見て、何で泣いてるんだ?と俺に問うてきた。
俺は少しため息をついて王子に目をやってから、しゃがんでその子と同じに目線を合わせた。そして、その子の頭をやさしくなで、できるだけやさしく笑いかけてから、
「俺の名前はロイス。君の名前は何て言うだい?」
と尋ねた。すると、男の子は何度かまばたきをしてから、
「ル―べ…」
と答えた。
「いい名前だね。ル―べ、どうして俺たちに声をかけたの?」
そう問うと、ル―べはまだ少し怯えながらも泣き止んで、
「僕のお兄ちゃんを助けて欲しいんだ」
と告げた。
「どういうこと?」
俺がそう尋ねると、彼は事の次第を話し始めた。
「あれは三日前のことなんだけど…」
ル―べは兄と仲がよく、いつも遊んで貰っていて、その日もいつものように一緒に遊んで貰っていた。すると、遊んでいたボールが飛んでいってしまい、森の中へ探しにいった。ボールを探しているうちにル―べは洞窟を見つけこの中にボールがあるかもしれないと思い、兄を呼んだ。すると、兄は誰か人の声がする、と言って洞窟の中へ入ろうとした。その時の兄の様子は何かに取りつかれたようで、おかしいと思ったル―べは彼を止めようとしたが、兄はそれを振り払って中へ入ってしまった。すぐに村長たちに知らせに行ったが、解決するから大丈夫と言ってから三日がたち、不安に思って俺たちに声をかけた。
ル―べの話を要約すると、こういった内容であった。
「その洞窟に案内して貰えないかな?」
「お兄ちゃんを助けてくれるの?」
「うん、約束するよ」
そう言って自分の小指をル―べの小指に絡めた。すると、ル―べは不思議そうな顔をして、自分の小指を見た。
「約束を破らないためのおまじないだよ。」
俺がそう言うと、ル―べは嬉しそうに小指をぎゅっと小指を絡め返して、
「じゃあ明日の朝またここに来て?待ってるから!約束だよ?」
と目をキラキラさせて俺を見た。
「約束だ。」
そう言うと、安心したように俺たちに手を振り、王子にはお辞儀をして、自分の家へ帰って行った。俺も手をふって見送ると、カサンたちが感心したように俺を見て、
「意外と子供に優しいんだね!びっくりしたよー」
と失礼なことを言った。
「余計なお世話ですよ。」
そう鬱陶しそうにあしらうと、カサンが
「さっきまで優しく笑ってたのにー。ひどいっ!」
と言って泣き真似をしだした。それを無視して王子に
「そろそろ日も沈みますから、一旦船に戻りましょう。」
と言うと、王子は
「…ああ、そうだな。」
と言って船の方へと歩き出した。終始王子は考え事をしているように黙りこくっていたので、
「体調でも悪いんですか?」
と聞くと、彼は
「いいや、悪くねぇ。」
と言ってまた黙った。
「さっき泣かせたこと気にしてるんですか?」
そういうと、王子は図星だったようで、ぎょっとした顔でこちらを見た。
「そんなわけない。…別に気にしてる訳ではないが、俺ってそんなに怖いか?」
と言ったので、素直に頷き
「子供からしてみたら、大分怖いと思いますよ?笑顔に邪気があるというか…」
と言うと、彼は不機嫌そうに口をとがらせ、
「俺の笑顔はいつでも美しく完璧だ!それにお前の方がいつも笑わないだろう。」
俺はふんっと鼻をならし、そっぽを向くと、彼は拗ねるなと肩を叩いてきた。
その後、俺たちは船に戻り、明日に備えて早く寝床に入った。