女神の涙(2)
「あなた誰ですか?」
そんな質問は無意味だということは分かっていた。でも、聞かずにはいられなかった。その女は、
「わらわは死の神、アリマテスじゃ。よろしゅう。ロイスよ。」
と俺に微笑んだ。俺は彼女の姿になぜか懐かしさを覚えた。呆然とする俺をくすりと笑い、
「わらわの顔に見覚えでもあるかえ?」
と心を見透かしたように問うてきた。
「わかりません、でも…」
「でも?」
「あなたはその理由を知っているんでしょう?」
女神は大きな目を更に見開いた。そして、さもおかしいというように随分笑ったあと、
「そなたはなかなか骨のある男のようじゃな。」
と言った。王子は全く話が見えないといった様子で暫く黙って話を聞いていたが、耐えきれなくなったのか、
「さっきからお前らの話はさっぱりわからねぇ。どういうわけか説明してくれ。」
と嘆いた。女神は仕方がないとため息をつき、
「一つそなたたちに昔話をしてやろう」
と言って語り始めた。
時はこの地が創造されたときに遡る。この世界にはクレイテスという創造の神がおり、その花嫁候補には死の神、生命の神、美の神、炎の神の四人があげられておった。
わらわは元から創造の神とは親しかったゆえ、そういったことに興味のなかったあやつはきが置けるわらわに婚儀の際に必要であった首飾りを授け、わらわとあやつは契りをかわした。
しかし、残りの三人は納得しなかった。なぜおまえのような醜い者があの神に選ばれたのかとどんな手を使ったのかと罵られたが、わらわは気にしまいと努めた。だが、ついにその中の一人がわらわの首飾りを地上へと落としたのだ。
その刹那、創造の神の父が怒り、その三人の女神を堕天させ、地上へと送った。それでもなお創造の神の父の怒りは収まらず、首飾りを落としたという不祥事に創造の神までもが力を奪われ眠りについた。
しかし、わらわの中にはあやつの子が宿っていた。ほどなくして、娘が生まれた。その娘の名はローラン。娘は、父を助けるためだ、といって私が止めるのも聞かず地上に降りたった。そうして人間たちと接触を続けるうちに一人の男と恋に落ち、子供までもうけた。
しかし、男はローランの元を去った。その様子を見ていたわらわは娘を天界に連れ戻そうと試みたが天界には戻らないとローランは強情に言い続けた。その後ローランは神の子ではあったが、若いときに長く人間界にいたせいで神としての力は失われ、呆気なく人間どもに殺されてしまった。
その娘というのがおまえの母親だ。
女神は話終わると、視線をこちらに向けた。