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女神の祈り  作者: 水瀬はるか
ルワーネ王国 王都にて
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少年の出発

あの人のためなら、何をなくしても怖くなかった

そう思えるくらいあの人が大切だった。


ピッ…ピッ

小鳥が控えめな声で鳴いている。でも、それは俺の目を覚まさせるには十分なくらいであった。ベッドから起き上がり、窓を開ける。冬になりかけの少し冷たい、それでいて心地よい風が俺の顔をなでた。


今日は少し出かけてみよう


そう思い少し厚手のコートをひっかけて、あの人が選んでくれた靴を履く。

あてもなくぶらぶらと外を歩くと、いつの間にかあの広場にたどり着いた。

何気なく腰かけに座ると、あの人との思い出がよみがえってきた。俺はたまらなくなり、腰かけの木目を指でたどると、ささくれが指に刺さった、そう言えばあの人もこのささくれにゆびを傷つけられてたっけ?あなたも気をつけてね、と言って控えめに笑うあの人が大好きだった。


あの人を亡くしてから一年。俺はまだあのころのままでいる。

そんな感傷に浸りながら遠くを眺めていると向こうから黒いコートを羽織った男がやって来た。


金髪碧眼で上品な身のこなし。加えて男から見ても美しいと思える顔立ちである。そんな男がこんな僻地の村にいったい何をしに来たのだろうか。しかも、つい一年前に敵国から攻められたこの荒れ果てた村落に。不思議に思いながら、その男が近づいてくるのを見ていると、その男は微笑みながら俺の隣に腰かけてきた。


「君はここの人?」


そう言って彼が首をかしげると、ふわりと甘い香水の匂いが漂ってきた。


「はい。そうですけど…ここに何をしに来たんですか?」


多分俺が疑るような顔をしていたのだろう。その人は困ったように笑って、


「ちょっと人を探していてね…ローランという銀髪の女性を知らないかい?」


その名に僕が目を見開くと、彼は僕の肩を掴み揺さぶりながら、


「彼女はどこにいるの?」


と食いぎみで聞いてきた。


「その人は…俺の母さんです…母さんは一年前敵国のルワーネ王国が攻めこんできたときに…殺されました。母さんを知ってるんですか?」


その人は悲しそうな顔で親戚だったんだ…とつぶやくと、俺の頭をつらかったねといいながら、くしゃりとなでた。久しぶりのその感覚に母を思い出し、俺は溢れそうになった涙をなんとかこらえた。

それから一週間の間、彼は毎日この村にやって来ては色々な話をしていった。外の世界の話、昨日あった面白かったこと、たまに母さんの話。彼と話すと、自分がどれだけ外のことを知らないかがよくわかった。

一週間たったその日、彼は唐突にここへはもうこられないと告げた。俺はそうですか、とだけ返事をした。本当は少し寂しかった。彼はこれからどうするのか、と俺に聞いてきた。答えはもちろん決まっている。母の復讐をするために軍人になると言った。彼は出会ったときと同様に困ったように笑っていた。


それから五年の月日が流れ、17才になった俺は真面目にやって来たおかげか37個の部隊のうちの4番隊隊長の地位を任され、ついにルワーネ王国へと出兵することとなった。

俺は出兵の朝、いつもより早く起きて、支度を済ませ、仕上げにこの国の軍服に袖を通した。この軍服の白が俺は自分の心も真っ白に洗い流されるような気がして気に入っていた。

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