表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/21

遺物ナンバー2 河童伝説に隠された幻の調味料を追え 3

ミコトとヤスが少しキャンプ的なことをする描写を入れて、ミコトが自然のなかでいきる活力を取り戻そうとしている姿と新キャラの登場を絡めて書いてみました。また、話題の中に河童伝説を入れて河童を探す新キャラとヤスの駆け引きと次話以降へのつなぎを書きました。

「なんだか、星空に吸い込まれちゃいそう」


 ミコトは立ち上っていく湯気の筋を覆うように広がる星空に目を奪われていた。ミコトの言葉に返すヤスの言葉には皮肉が込められていた。


「はいはい、それはよかったね」


(くっそ。っていうか、いつまで風呂に入ってるんだよ。こっちはとっくに腹ぺこだし汗だくだっての)


 心の中で罵りながらもヤスは履き慣れない赤いスカートをたなびかせ、発電用の自転車のペダルをこぎ続けている。この発電機はヤスの労力を電力に変えてラジカセを動かしてCDに記録された音楽が鳴り響いている。かつては大学と呼ばれた教育機関の敷地の中の比較的木々がまばらなスペースに二人はいた。


 ラジカセから流れているのはヤスも気に入っている疾走感のあるメロディに透明感のある女性の歌声が乗った、規則的に配列された点光源が照らす道を雑音も頬を打つ風も感じることのない快適な乗り物でどこまでも駆け抜けていけるような感覚を持たせる曲だった。


(どうしてこうなった?)


 元はといえばミコトが暗闇のトイレでお化けの振りをしてヤスを脅かそうとしたことだ。とはいえ年頃の娘の顔に汚物を投げつけてしまった。さんざん詫びながら脱いだ自分の衣服でミコトの顔を拭い、気を引こうとあらゆる言葉を並べ立た。ミコトが興味を示したのは。星空の下のドラム缶風呂。ノリのいいBGM。そしてバーベキュー。


「うそ、信じないもん。こんな時代にそんなことできないでしょ? 魔法があるわけでもあるまいし」


 そう言うミコトの涙目を揺れるランタンの灯火が照らした。思わず行ってしまった。思い出しても赤面する。瞳を見つめ行ってしまった。


「俺の魔法を信じてみない?」


 そして、今に至る。


 しかも、着ている服は白いブラウスに細かいひだのついた赤いスカート。ミコトについた汚物を自分の衣服で取り除いた。汚れた衣服は捨てた。上半身裸のまま、ミコトのご機嫌をとるこ準備に追われた。準備が整いミコトのために用意したいくつかの衣服を並べて見せたときにミコトは行った。


「あ、このビキニかわいい。サイズあうかな?」


「ああ、大丈夫だよ。俺、お父さんおの手伝いでサイズの見立てとかやってたから」


「へー、すごいね。見ただけでわかっちゃうんだぁ」


「まあね」


 ミコトは水着のタグを見て、サイズを確認すると物陰に隠れて着替えをすませた。驚いたことにサイズはあっていた。ヤスの元に戻ると尋ねられた。


「どう?」


「うん、ぴったりでびっくり」


「でしょー。俺、絶対ミコトはシンデレラサイズだって思ったんだあ。寝転がってるときと立ってるときも形が変わんないみたいだし」


 得意げに鼻の下をこするヤスに言ってみることにした。


「あれ? ヤス君、服着ていないじゃない?」


「え? ズボン履いてるけど」


「あたし水着なんだよ?」


「え? だから?」


「変でしょ、二人ともそんな格好じゃ」


「え? そうかな」


「わかんないの? 変だって」


 ミコトはわずかの間、唇を尖らしヤスから顔を背けた。その横顔の表情が明るくなった。ヤスが並べた服の一部を手にとるとほほえみながら言った。


「これ着てみて。絶対ヤスくんに似合うよ。絶対だよ」


「なに言ってんの? これ女物でしょ?」


「えー、着てくれないのお? 似合うって。ヤス君、なにげに女の子みたいにキレイな顔してるし。お母さん、美人でしょ?」


「いや、よくわかんないけど」


 ヤスは村で美しいと評判だった母の顔を知らない。自分が髪を長口伸ばしたときの顔を思い浮かべた。違和感しかなかった。


「ふーん。まあ、とりあえず着てみたら? 今はある意味自由な時代なんだからさ。着た服を堂々と着ればいいんだよ」


「うん、じゃあ、着てみようかな?・・・・・・ って、成るかっ! 着ないからね。俺。女のかっこなんかしたくないもん。虫除けのお香は焚いてるしこのままで平気だよ」


「そっか・・・・・・」


「な、なんだよ」


「どうせあたしはウンコでうす汚ねえシンデレラ。誰もあたしののお願いなんて聞いてくれないんだよね」


 ミコトの瞳は潤んでいた。


 そして、ヤスはだまってミコトから服を受け取った。ミコト向けだからサイズが大きくずいぶんとだぶついていたが着替えてミコトの前に立つ。


ミコトは一目見るとうつむき、肩を振るわせ始めた。


「ぷっ。マジ花子さん」


ミコトの言葉を聞こえない振りをして発電機用の自転車にまたがった。


そして、冒頭のミコトのロマンチックな言葉に戻る。


「ねー、そろそろ出るよ。音楽も止めていいからそろそろバーベキュー始めよう?」


「わかった」


 ヤスは古代の遺物のバーベキュー台に罠を仕掛けて手に入れておいたウサギの肉を並べ始めた。たちどころにいい匂いが香り立つ。


「うわー。おいしそう」


「だろう? あ、そうだ、いつかミコトに伝説の調味料取ってきてあげるよ。今は塩しかないけど」


「伝説の調味料?」


「うん。伝説があるんだ。それを食べると、どんな局面ターンでもハッピーな局面ターンに変えてしまうという魔法の粉の伝説があるんだ」


「あ、いい。たぶん食べたことある」


「え? マジで。どこで、手に入れたの」


「スーパー。あたしの時代のね。それよりさ、なにげにさっきUMA都下言ってたけどさ、馬じゃなくて未確認な生き物ってことだよね」


「うん。古代でいろんな動物が品種改良されたんだって。ここらへんだとメガミン沼の河童とかが割と目撃例が多いんだ」


「その話、詳しく聞かせてくれないかしら」


聞き慣れない女の声。ヤスをミコトは一斉に声のした方に顔を向けた。そこには迷彩服を着た長身、金髪、碧眼のミコトと同世代に思える少女がいた。肩越しに弓矢を背負っているのがわかる。そしてヘッドホンとマイクが一体型となったヘッドセットを装着していた。


ヤスは拳銃を手元に用意していなかったことに軽く後悔をしながらも肉のために用意したナイフとフォークを手に取りナイフを女を観察した。


(くそ、すっかり油断した。でも、それなりに警報用のトラップはしかけておいたのに。やばいな。この女の人もプロの探索者だ。いい人か悪い人かわかんないけど、これだけのことしてるんだ。奪いに来るかも。それに、あのヘッドセット。仲間がいるのか。遠距離攻撃できる奴が囲んでる? 第一、今でも使えるバッテリーを用意できるってだけでソロじゃないはず。例のパターンで追い払うか)


ヤスは言った。


「すいません。すぐ帰ってくるんですけど、今は大人の人たちがいないんでわかりません。お金もお米もありません」


(普通じゃあり得ない贅沢を子供だけでやってるからな。すごい集団が存在すると思ってるはず。大人たちがすぐに帰ってくると思ったらそう簡単に悪さできないはず)


「なに言ってるの。花子。うちには大人の人なんていないじゃない。それにお米も倉庫にいっぱいあったよ?」


(あっ!)


 そう思ったときには遅かった。ヤスは少女の反応を見た。ほほえむとヘッドセットのマイクに向けて告げた。


「あせらないの。ここは私にまかせて、みんなはそのまま待機してて」


 少女はヘッドホンを手で押さえ一つ頷くとテーブルやバーベキュー用のグリルをのぞき込んだ。


「うわあ、おいしそう。いいなあ、これからバーベキューか」


「よかったら、一緒にどうですか。お仲間の分も妹が用意させますよ」


 目を見開きミコトを見た。ミコトはちらりと一別をくれると女に笑顔を見せて続けた。


「ありがとう。でも、仲間は休ませてるから。それにしてもあなたたちの親御さんはすごいのね。こんなに古代の道具を買い揃えて。つないであった白馬も君たちのおうちのなんでしょ? ねえ。本当はいっぱい人がいるんでしょ? たまたま出払ってるだけですぐに帰ってくるんじゃないの?」


「いいえ、あたしたち二人ですよ。っていうか、うちの妹すごいんですよ。そう言うの拾ってくるの得意なんです。ときどきウンコみたいなのも拾って来ちゃうんですけど」


女と目があった。女は力を抜くと体につけている弓を降ろし、腰のナイフをテーブルに置いた。


「確かに花子ちゃんはすごそうね、わたしはアリッサ。よろしくね」


 その目線が手元もナイフをフォークを見ているのはわかった。いざとなったら人質にとり周囲に潜んでいるアリッサの仲間と交渉も想定していたがミコトを危険にさらす今は従うしかないと判断した。


「どうぞ」


そう言ってナイフとフォークを女に預けた。


「花子ちゃんは頭もいいのね」


アリッサは言うとヘッドセットに向けていった。


「協力してくれるそうよ。武装を解除して」


指示を出すとヤスを見て微笑んだ。


「これでよし」


ヤスも頷いた。


「あれ? あのー」


ミコトが恐る恐るといった風に言った。


「このヘッドホン、コードが挿さってないですよ。ほら。荷物おいたときに」


ミコトはコードの先端部分を女に突きつけた。


「え? ああ、これ。そういうの必要ない奴だから。っていうか挿すってどこに?」


ヤスとアリッサは見つめあった。しばしの沈黙ののち、アリッサは言った。


「アリッサより緊急連絡。武器を用意して待機してください」


ヤスはほほえみながらアリッサに尋ねた。


「あのー」


「な、なによ? 言っておくけど私になにかあったら仲間が黙ってないからね」


「なんで、ここまで一人で来たんですか? っていうか、最低でも二人組で来るのがプロってもんじゃないですか?」


しばらく見つめ合うとアリッサは崩れ落ちた。


「う、うわーん、もうやだー。こんな髪と目の色だから子供の頃から仲間外れだったし、親だっていっつも夫婦喧嘩してるし、戦争が始まってからだって一人で生きてきたんだもーん。それなのにこんな子供の嗤われてー」


子供のようにしゃくりあげ泣き始めた。


「ちょっと、ひどーい。花子。また女の人、泣かせたー」


ミコトは女の肩を抱き慰め始めた。


 肩をすくめてその場を離れた。そして気がついた。いくつかのたいまつ。その炎が浮かび上がらせる男たちの姿。昼間、廃墟となった病院で見た男たちと同じ格好をしていた。見る見る間に近づいてきていた。





読んでくださってありがとうございます。


話を転がすために新キャラの候補をいくつか考えていたのですが、今日初めて思いついたキャラクターを採用することにしました。


キャラの候補としては


1 前話のエピローグで殺された者たちに関わりのある者

2 外国から日本の古代文明、とくに乗り物を集める者

3 射撃が得意な者

4 小野田、森野を追う者


などを考えていたのですが、どれもハードでシリアスな路線になってしまうと考えていました。明るい話に持っていけるキャラクターを考えたときに一生懸命だし、理論派なんだけど、どこか抜けてるアリッサというキャラを思いつきました。


感覚的なミコトと対比させるということと、この世界でひとりぼっちで生きなきゃいけないということにおいては共通しているというキャラにしようと目論見をもっていますがどうなるでしょうか。


それでは次回でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ