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河童 14

お久しぶりです。


実は・・・・・・というか、今更ですが、当初この物語は小学校高学年から中学生くらいまでの男子も読めるようにという意識で文体とかを考えていたのですが、そこまで手が回らなくなっちゃいました。


自分が書きやすい文体で書いちゃったのでいつもより読みにくかったらすいません。

「ちょっ、何やってんのよ? 花子。」


 車座になってケンとミコトと談笑しているヤスにアリッサの声が降りかかる。振り向くと教室の扉が開かれそこにアリッサとミコトの二人が立っていた。アリッサは自分の発言を取り繕うように笑顔を作って舌を出す。作られた浮いた空気が室内に漂い始めた。


「ま、バレちゃったんならしょうがないよね。うちの切り札だったんだけどな。」


「へえ・・・・・・」


ケンは微笑みを浮かべた。


「お前もできるのか? トランプ。」


「え? ええ、まあ。誰でもやるでしょ? 」


 虚を突かれたように答えるアリッサにケンは無邪気に伝えた。


「そっか。見た目もそうだがハイカラなんだな。お前。俺がガキの頃なんざ、将棋や囲碁みてえに頭と口だけでできるもんぐらいしか遊べるもんがなかったぜ」


「ま、地元によるんじゃない? あたしたちの村は遺物屋が持ち込んだトランプがたまたまあってさ。」


「へえ、この辺じゃねえよな。どこの村なんだい?」


「旧ヨコハマの方。流れ流れてここに行き着いたってわけ」


「そっか。垢抜けてるわけだ。」


 アリッサはケンの地名に対する反応を見て、安堵した。ケンの運び屋としての能力が信頼に足ると判断した。少なくとも、旧東京23区を迂回して往来できる能力があると言えた。


 アリッサは旧東京23区を迂回したときの苦労を思い返した。放置された乗り物を整備したり、調達しつつ、武装した者たちと時に戦い、時にやり過ごし、時に交渉してきた。二十名ほどいた仲間たちとも散り散りになり、尊敬と思慕の念を抱いていた青年とも生き別れになってしまった。


 ケンの話を信じれば。見た目の違いから余所者扱いされ、最初から各地の有力者たちとの摩擦が起きやすい自分たちとは立場が違う。とは言え、その能力を疑う理由にはならなかった。


 そして、ケンはケンで自分の苦労を思い出し、自分より乗り越えるべき壁が多かったであろうアリッサの苦労を想像した。

 

「大したもんだな。」


「別に・・・・・・。連れてきてくれた人がいたし・・・・・・」


「そっか。なあ、いつかポーカー教えてくれよ。負かしてニヤケ面を泣き顔に変えてやりたい奴がいる」


「いいわよ。ここから抜け出せたらね。それより、そっちも他に隠してる人なんていないでしょうね。」


「いや、実はいる。というか、相棒なんだがはぐれちまってな。無線っていう機械で連絡を取り合ってたんだが連絡が取れねえ。ま、あいつならほっといてもどうにかするから心配はしてないんだがな」


「そ。ま、あたしたちは無事に逃げられればそれでいいから。で、どうするの?」


 親しげに話し始めるケンとアリッサとは対照的にミコトはうつむき加減で力なく座っていた。その様子を見て心配になったヤスはミコトに尋ねることにした。ただ、まだ女の振りは続ける。アリッサが花子と自分を呼んだことは気がついていた。


「花子的には体育館の人たちを助けたいんだけど。ミコトも逃がしてもらうのに賛成なの?」


 自分が戦う性であるという自覚がヤスにはあった。そして、ミコトが戦いたがらないことも予想していた。ただ、このまま逃げることに罪の意識を感じているのであればそれを和らげてやりたいと思っていた。


 ケンがまだ信用しきれないなかでの保険でもあり、また、まんまとケンの策略に乗せられて透明スーツを着ていたにも関わらず存在を見破られたことへの対抗心もあった。


 ヤスにはこの中で最年少の十歳であるとはいえ、自分は男であるという自覚がある。ヤスは文章や動画などの媒体で、西暦2010年代と呼ばれた時代、ヤスの時代からしたら数百年前の多数の物語に触れていた。大抵の物語で戦いは男の役目であった。そしてヤスは物語の男たちと父を日常的に比較していた。


 父は小作人の傍ら周囲の人間からゴミ漁りと揶揄される遺物屋と呼ばれる生業であった。他者からあからさまに蔑まれたときでさえも、息子である自分を喰わせていくためだと理解していたとは言え、他者に媚びへつらう父に物足りなさを感じていた。


 一生懸命育ててくれる父に対してそんなことを感じてしまう自分に罪の意識を感じることがあったヤスは度々こう思った。


『もし、俺が他の奴らみたいに古代の物語を読むことがなかったらこれも当たり前として気にしないでいられたのかな・・・・・・』


 そう思うことがしばしば起きていた頃合いに父からの告白。母は死んだ振りをして村から抜け出し他の男と暮らしていたという。母を取り戻しに武器を手に家を出た父は半年過ぎても音沙汰がない。


『俺はお父さんみたいにはならない。欲しい物は何でも手に入れるんだ。物語の英雄たちみたいに。』


 「どうしたの?」


 顔を向けると真剣な顔つきでミコトが顔をのぞき込んできた。想いを隠して笑顔で答える。


「別に。なんでもないよ。それよりごめんね。見つかっちゃて。この人すごいよ。将棋みたいに考えて、あたし詰んだんだもん」


 言外にケンに警戒しろと言う意味を含ませた。ミコトは顔を和らげた。そして、ヤスに告げた。


「なに、気にしてるの? 君はまだ子供なんだから大人に負けたって、逃げたっていいんだゾ?」


 『あ、これ、最後のゾはカタカナにしてる奴だ。なんだよ、年上ぶっちゃって』


 そんな軽い反発心を覚えたヤス。だが、ミコトは言葉を続ける。


「所詮、この世は弱肉強食なんだしさ・・・・・・。しょうがなくね? それにうちらみたいな夢見ることしかしてこなかった子供にできることなんかないって」


 ヤスが言葉を発することをまたずにミコトはヤスの目を見つめながら続けた。


「それにさ」


「なに?」


 「夢見てる人はずっと夢見てた方が幸せなんだよ。つらい現実なんか知らなくたっていいじゃん」


「じゃあ、なんで・・・・・・」


「だって、あたしは勝手に目が覚めちゃったんだもん。しょうがないでしょ?」


「じゃあ、あの人たちがお婆ちゃんになって体がまともに動かないときに目が覚めちゃったら? っていうか、まともに動けなくなったら棄てられるに決まってるじゃん。っていうか、それがわかってたからさっきまで一緒に助けようとしてたんだろ?」


 語尾が女らしくなくなっていることには気がついた。だが、もうケンにどう思われようとも気にならなかった。つかの間にらみ合ったあと、ミコトが言った。静かだだ怒気を孕んでいた。


「じゃあ、聞くけど」


「何だよ?」

 

「目が覚めてなんかいいことあるの?」


「あるよ」


「じゃあ、何? 言って」 


ヤスは口ごもる。


「そんなこと急に言われても」


ミコトは叫んだ。


「ほら、ないじゃないっ! っていうか、自分だって、あの人たちとみたいにさ、あんないいところで一人でずっとなんかのお話とかに夢中になって夢見てればよかったんじゃないのっ!」


 ヤスはミコトの瞳に映る己の姿を見ながら思い出した。ミコトが生命維持装置で何年も眠り続けてきたことをを。そして、自分のこの半年の間行ってきたことも。


 父が残した保存食のおかげで食料確保の心配もせず、かつて大学と呼ばれた快適で清潔な建造物とそれを隠す、すでに森林と呼べるような自然に溢れた広大な土地を隠れ家とし、文献漁りと称して古代の内容問わず大量の書物を読みふけり、それに飽きると自転車で発電しながら動画を見ていた。運動などそれくらいだった。


 暴力が溢れた時代、地域において、過酷な現実から護られ、ただ時間を浪費していただけとも言えた。しかし、結果から考えれば知識を蓄えつつ、体を鍛えていたともいえる。


 だが、それはヤスが望んだことではなかった。ただ、外の世界に出て危険を冒してでも成し遂げたい目的も希望もなく、地域社会とかけ離れた場所で孤独と恐怖を紛らわせていただけだと認識していた。


 そんなヤスが外の世界に出たのはそれなりに理由があった。第一に保存食が底を突くことが明らかであったこと。


 そして、ずっとこのまま人生が終わってしまうのではないかという焦燥、何か面白いことがあるのではないかという期待、自分には何か成し遂げられるのではないかという予感、そして、散々見聞きしてきた物語のように誰かと心通わせたい、という青くて甘くて切実な想い、そういったないまぜになった感情を春風に煽られ、血液が沸き出し冒険に出たのだった。


 それをミコトから「夢を見ていた」と言われれば、ヤスの脳裏に否定の言葉は思い浮かぶ物はなかった。


「あとね。この際だから言っておく」


「なに?」


「バレエ見せて上げたけど、あそこまでイメージ通りにできるようになるまですごい大変だったんだから」


「うん」


「歩くことだって最初はちゃんとできなかった」


「うん」


「それを面倒見られるの?100人はいるよ?」


『あ、それは、大丈夫だろ? あれだけ自転車漕いでんだから。』


とは言わないでおいたヤスは自分が冷静さを取り戻したことを自覚した。そして、物語から学んだことをひとつ試すことにした。


「誰か甘いもの持ってない?」


 二人が顔を見渡したとき。


 教室には誰もいなくなっていた。代わりにメモとリュックが置かれていた。


メモには三人の筆跡でこうあった。


『時間切れだ。呼んでも埒あかないから置いていく。代わりに道具や情報をやる」


『ごめんね。生きて帰ってきて』


『なかの干しいも食べていいよ』


 二人は絶句した。ミコトはぺたんと尻をつき惚けたような顔をした。ヤスはリュックにとりついて壊すような勢いでその入り口を広げていた。


 ヤスに不安げな瞳を向けるミコト。ふるえながら声を発した。


「どうしよう? 運び屋のケンさんがいるからあたし安心しきってた。」


ヤスはリュックの中にあった手帳をぱらぱらとめくりながら情報を漁りながら笑顔を浮かべた。


そして、力強く言った。


「安心しなよ」


「どうして? できるわけない」


「大丈夫。俺はもっとすごいケンさんを知っている。その人のやり方を真似る」


「は? なにそれ? まあ、一応聞いて上げるけど。何屋さんなの? その人」


「洗濯屋さ。もちろん。洗濯屋のケンさんさ」


そう言うヤスの顔は揺るぎない自信に溢れていた。

いつも読んでくれてありがとうございます。


少しずつですが書くことができるよになりつつあります。


肩の力を抜いて楽しみながら続けていきたいと思います。

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