遺物漁りの探索者 河童伝説に隠された幻の調味料を探せ7
お待たせしました。
前半はギャグ、後半はシリアス、でオチをつける、という普段俺が苦手な構成を考えて書くと言うことに挑戦しました。
特にコミニュケーションのなかで生まれる喜劇や悲劇を盛り込もうとしてみました。そこらへんを中心におもしろさをお伝えできたら嬉しいです。
それではどうぞ。
「さて、ヤスちゃんといったね」
三人でアリッサの待つ幌馬車に向かって歩き始めると男はヤスに言った。腰を抜かしてうまく歩けないミコトを背負っていたヤス。思わず言ってしまった。背中に当たるミコトの胸の感触と両手から伝わるミコトの腿の肉の手触りに意識を持って行かれていた。
「だから?」
「いや、そのままじゃ男の名前だろ? ホントの名前はヤスコとかヤスエとか」
ヤスは己のミスに気づいた。持って行かれていた意識が舞い戻り、脳味噌が危機管理のために使われ始めた。
『やっべ、このおっさんがアリッサさんの前で俺のことヤスとか呼んだらどうしよう?男だって事隠して裸のアリッサさんと一緒に寝てたことがバレたらちんちん切り落とされちゃうよっ! ・・・・・・あ、そうだ』
「違います。名字が安田だからヤスって」
誤魔化そうとしたヤス。だがミコトと連携がとれていなかった。そして、古代の常識で考えるミコト。ヤスに名字がないという発想は生まれなかった。
「え? ヤスって安田君っていうの? 下の名前は?」
思わず顔をしかめたヤス。ぶっきらぼうに言った。
「花子。花子だよ。知ってるでしょ? これからは花子って読んでね。ヤスっていわれるとイヤなこと思い出しちゃう」
ミコトもヤスの男にヤスを女の子と思いこませるという意図に気がついた。
『やばっ! そうだよ。ヤスが女の子と思わせてた方がこのおじさんを油断させられるから逃げやすいはずだもん!』
だが男はそれを見逃さなかった。
「君? ・・・・・・だと? 男なのか? 貴様」
焦るヤス。だが脳味噌はお父さんのエッチな本のことばかりが浮かんでしまう。男イコールエロ。この方程式を古代の書物からたたき込まれていた。
『くそ、こんなときに俺は・・・・・・』
自分がイヤになってしまった。だがその直後、お父さんのエッチな本のとあるページが脳内で大写しになった。写真と文字がそこにはあった。健康的なお色気が放射されるその写真。隅の方にあるのはこの文章。
『今日モデルになってくれたのは、花の女子大生、都内のお嬢様大学に通う順子クンだっ!』
この知識に賭けた。
「え、ええ。モ、モデルなので。絵師とか造形師とかのゲージュツ家の先生にはそう呼ばれてるんです。あ、あの、せ、先生たちはみんな女の子専門の人です。それで、うちらそのつながりで会ったんですけど、男の人たちに変なことされそうになって・・・・・・」
ミコトはヤスの真意には気がついていない。ヤスはおちんちんを切られたくないのだ。そしてパフパフは気持ちいいことを知ってしまった少年なのだ!
そのことを知らずにミコトは一生懸命に言葉を紡いだ。
「え、ええ、うちら大変だったんですよ。鉄砲でバンバン撃たれながらも必死で逃げ出したんです。それでなんだかんんだで今ここにいるんですよ。もちろんこの子は女子ですよ? っていうか、男子がこんなに可愛いわけないじゃないですか」
その言葉にかぶせるように男は言った。
「ゲージツ家の先生たちに君がされていることを詳しくっ」
不自然に前のめりだった。ヤスは思った。
『あーあ、男ってエロが絡むとホントにバカなんだな。俺も男だし。そっか、お父さんが言ってたことって、こんな大人になるなってことか・・・・・・』
男の質問を適当にあしらっていると幌馬車についた。アリッサが幌から腕だけだして手招きする。ヤスは周囲を警戒しながら男とミコトを先に乗り込ませた。
そしてり乗り込むと薄暗い幌の中で、アリッサは膝をつき両手を頭の後ろに回した男に拳銃を突きつけていた。ミコトはアリッサの陰に隠れてその肩越しに男を見ていた。ヤスが乗り込んだことに気がつくと男はふるえる声でいった。
「お、おい。や、やめさせてくれ、花子クン。話が違うじゃないか」
ヤスはアリッサに微笑んだ。
「まずは報告です」
「ごめんね。そこにあるのこいつが背負ってたリュックなんだけど。それの中身確認してくれる?」
ヤスはリュックの口を広げた中にあったのは古代でトランシーバーと呼ばれていた通信機器だった。そしてなにやらコードが延びておりそこにはヤスの腕では一抱えもある黒くて大きな固まりがつながっていた。ヤスはアリッサに持ち上げて見せた。
「ふーん。なにそれ。わたし、わかんない」
そういいながらアリッサは口元に人差し指を当てた。ヤスは意味を理解した。
『これは古代のトランシーバーだ。離れたところでも話せるっていう奴。俺たちの通話は筒抜けだったんだ。でも、単3電池って奴がないと動かないはずだけど使えないなら持ち歩くわけがないし。電池なんて今じゃ作れないし古代の残りもないはずだけど・・・・・・ そっか。こいつら作れるんだ。でかくて重くて邪魔くさいけどこいつら電池を作れるんだっ。カッパーとかいう奴の力で』
そう考える頃にはミコトは言っていた。しかも嬉しげに。
「えー? 二人とも知らないの? それトランシーバーって言って遠くの人ともおしゃべりできるんだよ?」
アリッサとヤスは視線を交差させた。アリッサはヤスに微笑んで頷くと言った。
「ふーん。そんなのがあるんだ。でも使い方がわかんなーい。興味はあるけどこいつを人質にしてとっとと逃げよう。なんか、この辺妖怪カマイタチとかでそうだし」
「あ、それってスナイパーって言うんだって。あたし、変な本のことかと思って焦っちゃった」
「あ、そうだよね。スナイパーっていったら川のそばとか用水路のそばにある掘っ建て小屋でびしょびしょになっておいてある古代の雑誌だよね」
アリッサはそう言うと、うんうんと頷くミコトに言った。
「ちょっと花子ちゃんの話を聞いていいかなー?」
「あ、ごめんなさい。ほら、二人がわかんない感じだったから説明しなきゃと思って」
そういうとミコトは肩をすくめてアリッサから少し離れた。それを見たヤスは説明を始めた。
「ウェウコスのお姉さんにお知らせします」
アリッサは頷く。
このランドセルに入っていた古代の『実験セット5年生用』の毒を注射器でこの男に注入しました。針は使わないでお尻の穴に入れました」
アリッサは出発前にヤスがランドセルの中身を物色しているのを見ていた。敵に襲われたときに不意打ちするための水鉄砲として、そして、武器としての能力を高めるために古代のアルコール度数の高い酒を入れてヤスがスカートのポケットに入れていたことを思い出した。
ハッタリだけでここまでの状況を作ったヤスに感心した。ヤスの意図を読みとった。それからとってつけたように深刻な顔を作り芝居がかった声を出した。
「成るほど。それは大変ね。早く解毒剤を使わないと。五臓六腑に染み渡る前に」
「お、おい。どうなるんだ。さ、さ、さっきから体が熱なってきた。目が回る。たた、助けろ。でないと、ここをスナイパーに撃たせるぞ」
そういいながら男は床に横になった。
「アリッサは男の顔をのぞき込むと尋ねた。
「ウェウコス人をバカにしないでね。うちらがホントに三人だけで来てると思うの? スナイパーの位置は補足したわ。沼の縁にある櫓。でしょ? あれで沼で漁をしたり、こちらにボートで渡ってくる人たちを撃って資材や女、子供を奪っていたんでしょ。そりゃ、狙撃なんえ概念すらない人がほとんどだもん。簡単だったでしょうね。でもね、うちらウェスコス人がその気になれば対岸からあの櫓を吹き飛ばすくらいわけないの」
男は目を見開いて反論した。口調は心許ないが黙っている気はないようであった。
「嘘だ。そんな技術はまだ再建されてないはずだ。カッパー様に導かれた我々にだってまだできないのだからな」
「ま、あんたたちが何を信じるかなんてどうでもいいけどさ。自分たちの悪事を河童のせいだってデマを流してさ」
「ふん。こんな島国の奴らはもともと悪党なんだ。そいつらが信じる者を悪いとしてなにが悪い」
「ムカつくの。人を襲ってたことも許せないし、自分たちの悪事をなんの罪もない河童に押しつけるような嘘っぱちを広めて」
男はアリッサから視線をはずした。そこへミコトがアリッサに訴えた。
「それに女の子たちを捕まえて非道いことしてるみたいなんです。助けてあげなくっちゃっ」
「うん、こいつらのボスはカッパーとか言う奴でそいつの指示で人を襲い続けてきたんだって」
ヤスが補足した。無謀とはいえ助けに行きたかった。
『悪い奴に捕まって人たちだって会いたい人かいるはすだもん。絶対助けてあげなきゃ。それに奴隷みたいにされてる女子たちを助けたら、『なでぽ』とか『にこぽ』とかできるかもしれないし。小麦粉っぽい粉もたくさん持ってきてるんだ、粉塵爆発、決めてみたいし!』
ヤスは家にあった『小説家気分を味わおう系小説』を全て読破していた。
理由はどうあれ少女たちを助けたい気持ちに嘘はなかった。だからアリッサの反応が信じられなかった。
アリッサは視線を下げた。そして首を振った。横に。
「残念だけど今は無理。彼らの怒りを買う前にこの人に毒出しの方法を教えて帰ってもらうしかないわ」
「えっ?」
ヤスとミコトの声が重なった。
アリッサは続けた。
「しょうがないの。きわめて政治的な問題だから。私はウェスコス人なのよ。この群雄割拠する島国を統治する側の人間なの。だけど、ここの人間になりすましていてそれでいて高い技術力を持つ反乱分子がいる、という情報を元に調査するのが目的だったの。河童探しというのを隠れ蓑にして彼らに近づくのが目的だったの。本当は」
「そ、そんな」
ミコトは声を震わせていた。
ヤスは自分に言い聞かせていた。
『な、なんだよ。いい人だと思ってたのに最初から騙してたのかよっ。そりゃ武力的に今は無理ってのはわかるけどさ。俺にだって粉塵爆発があるんだっ』
二人を尻目にアリッサは片膝をつき男に謝罪した。
「ごめんなさい。これまでの無礼をお詫びします。いずれまた別の者がこちらに使わされるでしょうが、このことはここだけの話にしてくれれば毒を出す方法を教えます。あなただけに。そして毒もいくらか差し上げます」
男は朦朧とする頭で考えた。
『悪くない取引だ。ウェウコス人の毒の製法と解毒の方法、この知識を独占できれば組織内での主導権争いに勝利しやすい。そして、向こうは無事に帰ることを望んでいる。こいつらが無事に帰らなければウェウコスはもっと大規模でやってくるかもしれない。もし、そうなったら私の責任問題になりかねん。それならば・・・・・』
そこまで考えてから男はトランシーバーに向けて言った。
「ふん、ウェウコス人もたわいないぞ。狙撃するのは縦断の無駄遣いだ。もう狙わなくていい」
アリッサは微笑むと男に手を差し出す。二人は握手をした。アリッサは男に耳元で囁いた。
それから数分ののち、ありっさが駆る幌馬車は全力で走っていた。両脇にヤスとミコトは座っている。ヤスはスナイパーが潜んでいるという櫓に向けて男が残した防弾チョッキをかかげていた。双眼鏡をのぞいていたミコトが言った。
「あ、倒れた。かっこ悪ぅ」
「しかも、全裸だし」
「ねえ、アリッサちゃん。なんて言って騙したの」
「毒出し(デトックス)には汗をかくのが一番。あと日光が毒素を消してくれるから屋外で15分以上歩いてください、全裸で。って」
ヤスとミコトは顔を見合わせたそのあと声をあげて笑った。二人の笑いがやむとアリッサが言った。
「さーて、これから女の子たち助けてあげにいかなきゃだから気合い入れるわよ」
「うん」
ヤスとミコトは声を合わせて頷いた。
いかがでしたでしょうか。
スナイパーなんかを出しちゃったもんだから、作者的に納得のいく現実感のある切り抜けかたを考えるのに苦労しました。
あと、アリッサの駆け引き上手なところと本気で河童に会いたかったみたいな気持ちを伝えようとしました。
ミコトは違う時代を生きている孤独とその反面からくるヤスとアリッサに認めてほしい、という気持ち。
そんなコミニュケーションに力を入れている二人に対して俺のやりたいことをやりたいんじゃ、というヤス。
周囲と見た目が違い阻害されていたアリッサ。違う時代に放り込まれてしまい記憶喪失でもあるミコト。結果として父母に捨てられてしまったヤス。
そんな三人の個性というか孤独からくる行動原理みたいなものが少しずつ出せたのではないかと思ったのですがいかがでしたでしょうか。
まあ、とにかく楽しんでもらえたなら嬉しいです。
では、また。




