第五話 オナラの魔法使い、ドラゴンと遭遇する
「たしかに、騎士団長殿の言う通りだ……」
「選考会を勝ち抜いた魔法使いの言う案だしな……一考の価値はあるかもしれん」
「なんとも頼もしい女子じゃな……」
ざわざわと、いたるところからわたしを評価しはじめる声が聞こえてくる。
わたしはちらりとイケメン騎士団長様を見た。
彼は、じっとわたしを見つめ返していた。「覚悟はできているのか」と問われているようだった。
王様が軽く目を伏せながら言う。
「わ、わかった……。では総合的に判断し、各魔法使いたちをどうするか決めよう。結果はまたあとで各自に告げる。それでよいか? 前城専属魔法使いの娘、リップよ」
「…………はい。もったいないお言葉です」
そう返事をするリップの目は、涙に濡れていた。
「次期城専属魔法使い最有力候補、プーコよ。そういうことになったが、これで満足したか?」
わたしにも訊かれたので、素直にうなづく。
「あー、はい……。ありがとう……ございます……」
すると、王様は急に顔をほころばせ笑い出した。
「ほっほっほっ。にしても……勝ち上がったのが、あの『オナラの魔法使い』とはのう」
「えっ? なな、なっ!?」
わたしは一気に顔が熱くなった。
まわりにいたオーディエンスが、目の前にいたリップが、また他の魔法使いの人たちが、その言葉に驚く。
あ、あああっ、穴があったら入りたい!!!
笑われるっ、絶対笑われるぅぅ……。
ザヘル団長はすでに知っていたけど、まさかこんなところで、よりにもよって王様にわたしが「オナラを原動力にしている魔法使い」だったとみんなにネタバレされるとはっ!
「うっ。殺すなら一気に殺せぇぇっ……って、あれ?」
恥ずかしさのあまり目をぎゅっとつぶっていたが、いつまでたっても笑い声が聞こえてこないので、わたしはそっと目を開けてみた。
皆は、相変わらず驚いた顔のままだった。
各所で「動揺」のオナラの音が鳴りつづけている。
どうも、妙だな。
「え? な、何……」
首をかしげていると、リップがぼそりとつぶやいた。
「あなたが『オナラの魔法使い』だなんて。そんな……。それ、本当なの?」
「え、えっと……まあ……一応?」
リップの顔は若干青ざめているような気がする。え、でもなんで?
まったく意味がわからない。
何をそんなに「恐怖」することがあるのだろうか。だって、ただのオナラだよ? いや、むしろ笑って?
「オナラを集めて、それを魔力に変換してますが……それが何か? あっ、この魔法そんなに変? ……あ、変か。そうだった……」
自分で言ってて落ち込む。
こっちに来てからつい忘れがちになっていたが、あくまでオナラはオナラだ。その認識がいつの間にかズレていっていたことに、我ながら驚く。
「いや、変とかそういうことじゃなくてね? なんていうか、もっとその……」
なんだか歯切れが悪い。
リップは、まるで言うのがはばかられているかのようだった。
わたしは痺れを切らして叫ぶ。
「ねえ、もう何なの? はっきり言って!」
「あ、あのね。母様が……言ってたの」
「え? あなたのお母さんって、たしか前の城専属魔法使いだった人……?」
「そう。母様は、いつも言ってた。オナラを魔力に変える魔法使いが世に現れ出でし時、伝説の魔竜が蘇る……って」
「は? なにそれ。魔竜?」
意外なワードを耳にして、わたしは固まった。
「そう。闇から現れる『シャドードラゴン』。この国の者なら誰でも知ってる竜の名前よ。でも、母様が言っていたのは古くからある言い伝え……これは王様や、一部の城関係者しか知らない」
「へ、へえ……」
それ以上言葉が出ない。
なんだそれ。わたしは、そのドラゴンが現れる予兆だったとでもいうのか?
「あなたがその、ひそかに噂になってた魔法使いだったようね。だったら、やっぱりあなたが城専属の魔法使いにならないとダメなのかも……。そのドラゴンを倒せるのは、そのオナラの魔法使いだけだっていうしね」
「え? い、いやいやいや。ちょい待ち! そんな。ただの言い伝えでしょ? ほんとにそのドラゴンが現れるかどうかもわかんないし。わたしは絶対そんな特別な人間じゃないって……」
「…………」
微妙な沈黙がまたもや流れる。
え? もしかして……これって冗談で笑い飛ばせないやつ?
「ま、マジか……」
みんなはその言い伝えを信じこんでいるようだった。
わたしはどうコメントすべきか……悩む。
けれども、そんな凍った空気を無視して、杖が嬉々として話しかけてきた。
『ぐふふふふっ! ねっねっ、だから言ったでしょ~? 君には世界を救う使命があるって! やっぱり私の言う通りにしていれば間違いなかったんですよ~!』
「って、わたしがそう思うと思った? ちょっと……いいから黙ってろ!」
そう言って、わたしは勢いよく裏拳で杖をはたく。
『ああああーっ!?』
杖は奇声をあげて一気に壁の方へ吹っ飛んでいった。
はっ、ついイラッときて。
わたしにそんな世界を救う気は一切ない。だから、いい加減それはあきらめてほしいんだけどなあ……。
しかし……まさか杖のこの言葉が壮大なフラグになっていたとは。
単にあいつが願望を言ってるだけかと思ってた。でも、ちゃんとした根拠があったんだな。
そんな運命を背負わされるとか……冗談じゃない。
思えばザヘル団長も、やけにわたしに関わってこようとしてたのは……これが理由だったのかもしれないな。
あの人も、どうにかしてわたしをこの城の専属魔法使いにしたかったんだろう。
わたしが「オナラの魔法使い」……だから。
そうか……そうだったのか。
ちらとザヘル団長を見ると、こっちを意味深に見つめていた。
いや、意味深って……べ、別にいつも通りだ。うん。よく見たら。でもわたしには一瞬そう見えた気がしたんだ……。
その後、わたしたちは王様に「ひとまずの解散」を命じられた。
これから、王様と有識者たちだけで特別会議が開かれるという。
それまでは例の来客用の館で待機していてくれ、とのことだった。
わたしが「オナラの魔法使い」だってことは、王様や一部の偉い人しか知らなかったらしい。
さらにこんな結果になっちゃって……この後揉めるのは確実だった。
とりあえず、わたしは部屋に戻ることにする。
玉座の間を出ようとすると、イケメン騎士団長様がスッとまた近づいてきた。
「おう、オナラの魔法使い」
「うわっ、出た!」
「出た、とはなんだ。きちんと見届けていたぞ。結果はどうあれ、いい方向に向かうようで良かったな」
「いや、まあ……それは……。あの時あなたがフォローしてくれたからであって……って、いや、ええと、そうじゃなくて。助かりました、ありがとう」
「ん? それはいいが、フォローとはなんだ?」
あ、この世界で英語は通じないんだったか。
わたしは急に恥ずかしくなってごまかす。
「い、いや、別になんでもないデス。それより、わたしをその名で呼ばないでって言ったでしょっ!」
「そう言われてもな……。俺はあえてその名で呼んでいたのだ。さっきの話の流れで、その意味がわかっただろう?」
「うーん……まあ……でも、やっぱり嫌なものは嫌なの! さっきみたいに名前の方で呼んでよ」
「プーコ、か?」
「あ……や、うん……。それでいい」
呼び捨てされると、なんかドキッとしてしまった。
い、一瞬、一瞬だけね!
そのあと何かもう一言言おうとしたんだけど、なぜか言葉が出てこなかった。
おかしい。
もやもやしていると、ザヘル団長が神妙な顔をして訊いてきた。
「で? 覚悟は……決まったのか?」
わたしがぽかんとして団長を見上げと、フッと笑われた。
「会議の結果、やはりお前に決まるかもしれん。そうなったらどうするか、いま聞いておきたい」
「さ、さあ……選ばれないかもしれませんよ? あんな生意気なこと言っちゃったし。適性ないって言われますよ、絶対。今も……やる気ないし。でももし、王様に命じられたらその時は……ちゃんと考えます。その、つもり」
「そうか……」
わたしは団長に背を向けるとさっさと部屋を後にした。
城の庭に出て、杖の青いボタンを押す。
さっきの戦いでけっこうエネルギーを使いきってしまったからね。
一応念のため補充しておくことにする。
ふわりと風が巻き起こって、紫色の気体が集まってくる。
別にこういうのはあえて溜めなくてもいいし、溜めるとしてもいつだっていいんだけど、なんか今は何かしていないと気持ちが落ち着かなくなっていた。
「…………」
街中のオナラが、集まってくる。
強い風と共に、紫色の気体が杖の先端の輪っかに消えていく。
集め終わると、わたしはまた来客用の館へと向かった。
その途中、空から箒に乗った美少女が下りてくる。リップだ。
リップが、ふわりとわたしの目の前で着地した。
「あ……さっきはどうも」
そう言って先にぺこりとお辞儀する。
ツインテ美少女はわたしの態度に、ぷうっと頬をふくらませてきた。
「べ、別に……お礼とか、いらないからっ!」
「あっそう」
面倒くさ。
あのイケメン騎士様以上に面倒くさそうなやつだよ、こいつ。
「わたしは……あなたに負けたの! だから、あなたが城専属魔法使いになればいいの。なのに……わたしのワガママをいちいち真に受けて。ほんとバッカみたい」
「な、なんだ。バカとはなんだよ! そんな喧嘩ふっかけてくるならもう一度やるか? ん?」
「ひ、ひいっ!」
そう言って拳を振り上げてみせると、リップはとっさに腕で顔を防御した。
あ。やば。
これ、トラウマになっちゃってるよー、絶対……。かなり反省。
「いや……ごめん……。さっきも言ったけど、わたしそんなに執着してないんだよ。だから……その、地位とか、リップの方がそこまで思い入れがあるんだったら別にあなたがやっても……」
「いいよ。そんなもう、お情けは止めて」
とか言いつつ、リップはすっごくニヤニヤしていた。
はあ? 何だコイツ。変だぞ?
「なっ、せ、セリフと表情が一致してないぞ?」
「あ、バレた~? 実はね、母様の後を継ぎたいって気持ちもあったんだけど……その……」
「え、なに?」
「わたし、ザヘル様をお慕いしていてね」
「へっ? ザヘル?」
ってあのイケメン騎士団長様のこと?
「そう、王立騎士団団長ザヘル様! あの方と、できるだけ一緒にいることが、わたしの小さなころからの夢だったの! だから……同じ職場にもなる母様の職位に就きたくて……」
「あーそう、アホくさ」
こんなやつに一瞬でも同情していたかと思うと、わたしは一気にアホらしくなった。
わたしはスタスタと歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってよ! あなたもあの人の事狙ってるんじゃないでしょ? そうじゃないなら、かまわないわよ。譲ってくれるんなら、もっと嬉しいけど!」
「あのねえ、バカ言わないで! わたしはあっちにも興味はないから!」
「え、そうなの? またまた~。あんなカッコイイ人、好きにならないわけないでしょ! ちょっと年上だけど。嘘ついて独り占めしようなんてしたら、許さないんだからね!」
「あー、はいはい」
前言撤回。
こいつはあの団長どころか、杖と同じレベルで「ウザい」やつだ!
わたしはもう一切無視することにした。
そうして、来客用の建物の入り口まで来たころである。
「ギャオオオオオッ!!」
どこからともなく、恐ろしい獣の方向が聞こえてきた。
それは、全身に鳥肌が立つような禍々しい雄たけびだった。
「え? な、なにっ?」
不安が胸を満たしていく。
だが、周囲を見回してもどこにもその声の主はいなかった。
「どこ? いったいどこから……」
「あ、ねえ、あれ!」
リップがそう言って、空の一角を指し示す。
そこには……。
「ど、ドラゴン?!」
それは真っ黒な鱗で覆われた、巨大なドラゴンだった。
大きな翼を広げて、悠々と空を旋回している。
「そっ、そんな……もうあいつが現れるなんて……!」
リップがそんなことを言って、唇をわなわなと震わせている。まさかあれが伝説のシャドードラゴンだとでもいうのか?
「え、ちょっと冗談でしょー? さっきの今で、現れるなんて……」
「ギャオオオオッ!!」
だがドラゴンはまたも鳴き声をあげると、猛スピードで空を移動しはじめた。
「ま、まずい……。もし、あいつが街に下りてきたりでもしたら……」
たくさんの人が死ぬ。
わたしはそう想像してしまってゾッとした。
「あ、あのドラゴンやっつけなくちゃ! 杖、とりあえず、あいつを空から降りてこないようにするわよ!」
『そ、そうっすね! じゃあ命令お願いします!』
「うん。魔法の杖よ! あのドラゴンを空中で動けないようにして!!」
『了解! 「空間固定の力」発動!!』
赤いボタンを押して叫ぶと、杖から強靭な風がドラゴンに向かって吹いていった。
「ギャオオオオッ!!!」
風に包まれたドラゴンは突然ぴたりと動きを止める。
羽さえも動かせずに、それはしっかりと空中で固定されていた。
「よし、このまま動きを止め続けれていれば……。あ、でも、これこの後どうしたらいいだろう? 全くわかんないよ……。とりあえずリップ、誰か応援呼んできてくれる?」
「あ……」
「早く! さっきの他の魔法使いさんたちでもいいし。とにかく応援を! 城の人にも伝えて!」
「わ、わかったわ!!」
そう言って、リップが箒に乗って飛んでいく。
はるか後ろを歩いていたであろう他の魔法使いたちは、上空を通りかかったリップに言われて立ち止まっていた。わたしは急いでそこへ合流する。
「風の精霊よ……寄り集まりて疾風の刃とならん! ハアッ!」
「銀剣百花の舞っ!」
「私の光に惑わされ、屈するがいい! シャドードラゴン!」
各自、それぞれの呪文を唱えはじめていた。
リップはそれを確認するとまた城の方へと飛んでいく。
「ああっ、もうなんでこんなことに……」
ため息をつきながら、わたしもまた杖を握りしめる。
みんなの魔法はほぼ効果が無いようだった。標的が遠すぎるということと、なにより相手の鱗が固いのがよくないらしい。
何度も技を繰り出していたが、だんだんみな疲れてきた。
「おっ、お待たせ! 城の人たちに伝えてきたよ~。もうすぐ応援が来ると思う。で、どう? やつの様子は」
リップがしばらくして戻ってくる。
わたしは力なく首を振った。
「ダメ。強すぎる。てか空だと遠いし……ドラゴンをこの辺りに下ろさないと……。それならまだ地上にいる人が物理攻撃しやすくなるかもしれないし」
「いえ、それは危険すぎるわ。わたしが近くまで行ってどうにかしてみる」
「いやそれはあなたも、ってちょっと……!」
言うなり、唯一空を飛べるリップがドラゴンの元へ行ってしまった。
うーん……大丈夫かなあ?
意外と魔力の消費量が激しくて、わたしそろそろ魔力切れしそうなんですけど……。
「このままだと……まずいよ、リップ……」
そう。村でも、かつて同じようなことがあった。
お願い事をたくさん叶えていたら、ある時突然赤いボタンが点滅しはじめたのだ。
杖に訊くと、これはそろそろ使える魔力がなくなる、という警告らしい。
ふと見ると、ちょうどその状態になっていた。
うわっ、ままっ、まずい!
「リップ! ちょっと! 一旦戻ってきて~! そ、そのままじゃ、危ないよ-っ!」
わたしは声の限りにそう叫んだ。
けれど、ドラゴンがギャアギャアわめくので、リップの耳にはまるで聞こえていない。
やがてリップは、ドラゴンの前で箒に乗りながら赤いツインテールをざわざわさせはじめた。
そして何か唱えると、ドラゴンのまわりでいくつもの大きな爆発をさせる。
「ギャオオオオオッ!!」
おおっ、すごい。
効いてるっぽい。
でも、爆煙が収まってくると、ドラゴンは目つきをさらに鋭くしてまた威嚇の声を上げはじめた。
「ギャオオオッ!!」
ぐぐぐっと肩が震え、かと思うとしっぽが大きくしなった。
え? あ、わたしの魔力は切れてるし……。
しっぽの先がぶんとリップに迫り、リップはとっさに自分の髪を前面に出して防いだ。
「ああっ!」
けど、ものすごい衝撃だったらしく、リップが猛スピードで飛ばされてくる。
あ……。
ど、どうしよう。魔法を使って早く助けなきゃ!
といってももう……次のオナラはまだ集まってないし……。
今から集める? でも、もうそんな時間もないじゃ。どうしよう!
そう思っている間にも、リップは箒ごと向かってくる。
わたしたち魔法使いの元に……!
「うわああっ!」
みんなは悲鳴をあげながらも、ここからとっさに逃げようとしていた。わたしもそうしようとしてみたんだけど、足が動かない。呆然と見つめながら、もうダメだ……と思ったその時。
「ふんっ!!」
あの長い金髪が目の前に現れた。
彼はリップを抱きとめると、そのまま横の方向に吹っ飛んでいく。
「うおおおおっ!」
たぶんあれは、衝撃を受け流すためにやったことだろう。
ごろごろと二十メートルほど転がって、止まる。
「ちょっと、大丈夫!?」
みんなはオナラをぷうぷう出しながら駆け寄っていった。
それは、恐怖と不安の表れだった。
わたしはすぐさま杖の青いボタンを押す。
みんなのオナラと、街に漂っているオナラを急いで集めた。だって、リップもザヘル団長も、ものすごい怪我をしていたのだ。
「な、なんで……なんでこんなことに……!」
涙目になりながらも、わたしは目一杯オナラを集め、溜まるとすぐに赤いボタンを押した。
「魔法の杖よ! リップとザヘル団長の怪我を治して! 早く!」
『了解! 「自然治癒の力」発動!!』
すると杖の先端から風が吹き、リップとザヘル団長を包みこんだ。
「うっ……わ、わたしはいったい……」
「リップ!」
しばらくすると、リップはうっすらと目を開けた。わたしは急いで彼女に駆け寄る。
「ご、ごめんなさい、リップ! 途中でドラゴンを動けなくしていたわたしの魔力が切れちゃって。それで、あなたに怪我を……」
「ああ、いいのよ、わたしも……ちょっと油断しちゃってたし」
リップはそう言うと、フッと余裕のある笑みを見せてくれた。
わたしはホッと胸を撫で下ろす。
「……無事、だったようだな」
「ザヘル団長!」
むくりと起き上がったと思うと、団長がそう言ってゆっくりと周囲を見渡した。
リップはすぐ近くに団長がいることに、赤面しはじめる。
「え? えええっ?」
わたしは親切に説明してあげた。
「さっきね、リップ……ザヘル団長に助けられてたんだよ」
「ええっ?」
「捨て身でキャッチするとか……無謀過ぎるよなあ」
「キャッチ……? よくわからんが、受け身をとれば平気だと判断した。まあ結果は、予想以上の衝撃だったのだがな……。皆、無事で良かった」
そう言って、団長は爽やかなイケメンスマイルをする。
「ざ、ザヘル様ぁぁぁ……!」
そしてそれにメロメロにされた者が一人。
わたしはそんなリップを差し置いて、現実的な話をすることにした。
「とっさに治療に当たれたから良かったですけど……ホント、次からは絶対あんな無茶しないでくださいね。あと例のドラゴンですが……強すぎです。わたしたちじゃ到底勝てない」
見上げると、シャドードラゴンはもやもやとした黒い煙のようなものに覆われはじめていた。
「ん? あれ、どうなってるんだ? なんだか様子がおかしいような……」
「あれは……」
リップが眉根を寄せる。
「一旦姿を消すんだと思う……。たぶん、ここに目的の物がないってわかったから……」
「ん? 目的の物?」
「そう」
しばらくすると、ドラゴンは黒い煙と共に完全に姿を消してしまった……。
いったいどうなっているんだ?
「とりあえず、次の襲撃に備えて作戦会議といきましょうか。このままでは、この国は最悪なことになってしまうわ」
リップがそう言うと、そこにいた面々はみな神妙な顔つきでうなづいた。