桃太郎転生〜だがおばあさんはきびだんごを知らない〜
むかしむかしあるところに……で始まる昔話、その中でも有名な桃太郎はみんな知っていることでしょう。
これはそんなとある桃太郎の世界に転生した男とそんな男に振り回される世界の住人のお話……
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むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは山にしばかりに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんが川で洗濯をしていると一つの桃が流れてるきました。
どんぶらこ どんぶらこ、ってほどでもなく普通に、つーと流れていたのが偶々おばあさんに手元に流れてきただけです。大きさも桃としては大ぶりでしたが常識的な大きさであり、とうてい赤子が1人入るような大きさではありません。
じゃあ桃太郎始まらないじゃないと思うかもしれませんが、まだ見守っていてください。
おばあさんはその桃が腐っていないことを確認すると、久々のご馳走としてお夕飯におじいさんと食べることにしました。
日が暮れておじいさんが帰ってきて、おばあさんが桃のことを話すと大いに喜びました。
お夕飯を食べ終わり、おばあさんは切り分けた桃を仲良くわけて食べました。
そして全て食べ終わったとき、2人の体に変化が訪れます。
体が熱い、体が熱いと2人が転がりまわり、体を搔きむしり垢を撒き散らし血反吐を吐き始めます。
そしてしばらくのたうち回った二人は、変化が終わったのか落ち着くと、体が気持ち悪いととりあえず服を脱ぎ、水瓶から水をくみ口をすすぎ、体の垢を落とします。
ようやく落ち着いた2人は体に違和感を感じつつ、濡れた体を乾かすのと何が起きたのか確認するために火のそばへ戻ります。
そして火の明かり照らされたお互いを見て、2人は驚きました。
なんと長年連れ添った相手が昔知り合った頃のように若返っているのです。
おじいさんは体の引き締まった美丈夫に、おばあさんは町で評判であった美人になっていました。
おじいさんとおばあさんが食べた桃、それは3000年に一度実ると言われている、食べれば不老不死に至る伝説の桃でした。2人が半分ずつ食べたことにより、その効果が不老不死から若返りに変わったことによって2人はたちまち全盛期の体へと戻ったのでした。
そしてその若返りは枯れていた2人のアノ欲も蘇らせていました。そして今2人はお互いに裸です。
そうなるとこれから起こることはお察しですね。
翌朝、昨晩はお楽しみだった2人が若返ったことで起こったあれこれの問題に頭を悩まされますが割愛させていただきます。
若い頃、どうしても子どもができなかった2人ですが、さすが伝説の桃なのか2人の間にはすんなりと子どもができ、2人は生まれた元気な男の子にあの桃にあやかって桃太郎と名付けました。
よかった、ちゃんと桃太郎が生まれましたね。
そしてその桃太郎に異世界からやってきた魂が宿っていたのは桃太郎以外には私だけしか知らないことでした。
そして時は流れ、すくすく育った桃太郎は立派な美丈夫へと育ち、ハッスルし過ぎた元おじいさん元おばあさんは桃太郎の弟妹である桃次郎、桃三郎、桃子を生みました。頑張り過ぎですね。
さて、転生した桃太郎、彼はどう見ても日本人な両親と魔法のない世界に落胆したのち、自身の名前と若い両親に別に桃から生まれてない普通の出自、それと3人の弟妹たちの存在からここが昔話の桃太郎の世界という可能性はありえないという結論を下していました。
まあ桃太郎なんですがね。
そんなある日近隣の村々で鬼が暴れ回っているという噂が桃太郎の耳に入ります。
一応異世界だということで体を鍛えていた桃太郎、自分はやはり桃太郎なのかと思い直して前世の記憶の桃太郎のエピローグを思い浮かべます。
生活に余裕のない今の生活を鬼たちから略奪した財宝で潤そう!そう決意しました。人々のために鬼を退治しようではないあたり、今の生活への不満が出ているのでしょう。
「俺、鬼退治行ってくるわ」
元おじいさんと元おばあさんと桃次郎と桃三郎と桃子は……って長いですね、次からは桃太郎の家族一同とでもまとめましょう。
桃太郎の家族一同は驚きました。
けれど桃太郎が武芸の腕を磨いているのを知っているのですぐに納得しました。
元おじいさんと元おばあさんは旅立つ息子に餞別を送ってやりたいと桃太郎に聞きます。
「桃太郎や、何か欲しいものはあるかい?」
桃太郎は一考します。そして答えました。
「立派な剣が欲しいです」
元おじいさんはそうかそうかと笑い、少し遠く村でいい剣を探すことに決めました。
一方で元おばあさんは少しむくれます。そして少し拗ねたように言いました。
「桃太郎や、私には何も頼みごとはないのかい?」
桃太郎は待ってましたとばかりに答えます。
「きびだんごをお願いします」
しかしながら元おばあさんは困りました。何故ならキビダンゴなるものは知らないからです。
実は桃太郎、時代は古事記に記された神代の時代なのです。餅という言葉はありましたが団子という言葉はありませんでした。
元おばあさんは頭を回します、キビダンゴはわからないが桃太郎が当たり前のように何気なく言ったのだ、常識なのかもしれない。親である私が知らない、という恥じを見せたくはない以上聞き返すのはよくない。
そう考えたおばあさんは桃太郎にこう聞きました。
「桃太郎や、そのキビダンゴは何に使うんだい?」
普通に考えればただの兵糧ですが、桃太郎は当然犬と猿と雉を手なづけるのに使うつもりでした。
しかしながら鬼退治に獣畜生を部下として連れて行くなんていうのは頭がおかしいと発言なのではと考えた桃太郎。なのでこう答えました。
「優れた仲間を雇うのに使うんだ」
おばあさんはなるほどと納得し、明日から行う、キビダンゴなるものの作成に頭を悩ましつつ話題を終えました。
さてさて元おばあさん、キビダンゴ作成に頭を悩ませます。元おじいさんが剣を買って帰ってくるのは早いと3日です。それまでにキビダンゴを仕上げたいところ。
(キビダンゴ、キビといえば穀物のきびが思い浮かぶけれどダンゴがわからないわ。それに優れた仲間を雇うのに使うのに、そのような貧相なものは違うはず。かといって宝玉のようなものを期待しているわけではないのは明白よね。桃太郎はうちがそれほど裕福でないのはよくわかっていますからね。)
元おばあさんの思考は加速する。
(桃太郎は私に頼んだ、そしてうちでも手が届くもの……消えものかしら。となると相手に渡して失礼でないものであればキビダンゴでなくてもいいはずよね。桃太郎は特にキビダンゴにこだわっている様子もなかったし。……さて、となると高価なものといえば甘味かしらね。そして旅に持っていくのだ日持ちするものとなると自ずと限られてくる。うちにそれと換えるものはないけど、麓の村の村長は確か……よし!)
なんだか最後が不穏でしたがおばあさんはなんとか桃太郎に持たせるものの算段はついたようです。
しかしながら、きびだんごではなさそうですね。さてさてこれがどんな影響を与えるのか……
3日後、立派な鉄で出来た片刃の直剣を腰に携えこれまた立派な羽織りを羽織った桃太郎が堂々たる出で立ちで旅だとうとしていました。鉄自体は青銅より前から使われていたのではと言われるくらい割と昔から使われていましたがこの時代には刀はないのです。
そこに元おばあさんが桃太郎に少し奮発したであろう高価な布を使った巾着を渡します。
「桃太郎や、キビダンゴではないけれど、きっと役に立つよ」
桃太郎はきびだんごではないという言葉に僅かに不安を感じましたが、すぐに考え直し、母である元おばあさんに「ありがとう」と感謝の言葉を伝えました。
「ありがとう。俺、必ず鬼を退治して帰ってくるから!」
「頑張るんだぞ」
「無理はしないでね」
「おにーちゃ、ぜったいかえってきてね!」
「兄貴、帰ってきたら面白い話聞かせて」
「兄さんお土産よろしく」
こうしてようやく桃太郎の鬼退治の旅が始まりました。
さてさて桃太郎、2つ先の村まで来て周りを確認すると腰の巾着の中を確かめます。どうやら気になっていたようです。
巾着の中から出てきたのは黄金色の宝玉のようなものでした。巾着からは甘い香りがし、その宝玉は少しベトつきます。
桃太郎はすぐにその正体に検討がつきました。
そう元おばあさんが用意したのは蜂蜜100%の大粒の飴玉です。元おばあさんは桃のおかげか未だ若々しい自身の容姿を生かして、自分に気のある麓の村の村長から蜂蜜を揺すったのです。そしてそれを加工して出来た玉のような蜂蜜飴を桃太郎の選別の品として用意したのです。なかなか無茶をします。
桃太郎はこの時代の蜂蜜の価値は大いに知っています。そして改めて元おばあさんに感謝しました。
しかしながら、桃太郎の鬼退治。犬、猿、雉の家来は物語の要です。
桃太郎はどう思っているのかといえば、旅立つまでの3日間でしっかりと自分の中で整理をつけていました。実は桃太郎、転生してからファンタジーなことを感じたことがないため鬼の存在を疑ってかかっていました、神代の世界なのに……。実は桃の効果で桃太郎の身体能力が人外の域にあったりするのですが、昔の人はすごいなぁくらいにしか思っていません。
桃太郎は犬、猿、雉の家来たちも比喩なのではと思っています。どっかのカッコいいCMみたいなのですかね?
そんなこんなで進む桃太郎。その道中、道でうなだれている老人(といっても実際は40くらいでしょうが)いました。その体は鍛えられており、腰には立派な両刃の鉄剣を携えています。恐らくは立派な武人なのでしょうが今は主人に捨てられた犬のようです。
桃太郎は思わず声をかけました。
「どうしたのですか」
「……あ、申し訳ありませぬ、旅の方。その、少々気落ちすることがあったのです」
「そうですか……、失礼ながら何があったか聞いてもいいですか?」
「いえ、むしろ聞いてもらえると私も気が晴れるでしょう。私は見た通り武人でした……しかし先代から仕えていた家から追い出されてしまいまして、今はただの爺いでございます。今代のお方は非常に癇癪持ちで忠言したところ気に障ったのか追い出されてしまいましてね。私は独り身で、頼るあてもありません。もうどうしていいやら……」
桃太郎はそれを聞いて閃きました。
「あの、よければ俺と一緒に鬼退治に行って頂けないでしょうか?」
「鬼退治……ですか?」
「ええ、そうです。きっと鬼退治で名を上げればどこからかお声がかかるはずです。俺から出せるお礼はこれくらいしかありませんが……」
「……玉!? いや、蜂蜜か。これはこれで中々高価だと思うがなぁ。……そうだな、今更この命惜しくもあるまい。人生の最後に武勇を轟かせようではないか! 私の名は戌威だ」
「俺は桃太郎です」
「よろしく頼む、桃太郎殿」
こうして桃太郎は犬(推定)をお供にしました。
いやぁ長い、家来1人仲間にするだけで長い。「も〜もたろさん、ももたろさん。お腰に付けたきびだんご〜、1つ私にくださいな〜♪」で済む昔話桃太郎の優秀さが分かります。
なのであと2人は私のナレーションのダイジェストで説明いたしましょう。
2人目は食い詰めた青年、門吉です。推定猿ですね。道中寄った町で盗みを繰り返していました。ですがそれは幼い弟の為でした。戌威が成敗しかけたのを桃太郎が止めたのがきっかけに話すことに。鬼退治に同行するのも鬼たちの財宝が目的です。
3人目、推定雉は自分の弓の腕に鼻をかけた自称弓の名手の青年の時次郎。村を飛び出したのはいいが路頭に迷っていたところに通りかかりました。鬼退治で名を上げる話は渡りに舟とあっと言う間に仲間となりました。
さあ、いよいよ鬼退治です。実際に被害が出ている村々や町で情報を集め、陸から少し離れた島を根城にしている山賊が噂の鬼だということがわかった桃太郎、最初の読み通りでした。
しかしながら噂には噂が立った原因があるものです。桃太郎はそれを思い知らされることでしょう。
鬼ヶ島(桃太郎命名)に乗り込んだ桃太郎一行。そこは山賊たちが攫った娘たちを娶り、子を成して村となっていました。山賊たちは略奪したであろう酒を攫った娘たちに酌をさせて騒いでおります。
攫われた娘たちも生きるためなら山賊たちの嫁となるでしょう。そして生まれた子どもは新たな山賊となる。これは由々しき事態です。
桃太郎一行は奇襲をかけることにしました。
しかし桃太郎は知ることになるのです。どうして彼らが鬼と呼ばれていたのかを。
桃太郎たちはすぐに奇襲をかけるのではなく、酒を呑んでいる男たちにしっかり酔いがまわるのを待ちました。その際、どうせならと結局大して役立てなかった元おばあさん特製蜂蜜飴でエネルギーを補充と士気の向上を行なった桃太郎。当時貴重な甘味であり薬とまでされた栄養を含んだ蜂蜜です。恐らくは桃太郎が思っているよりも効果があったでしょう。
そのかいあってか桃太郎たちの奇襲はあっさりと成功しました。ほとんどの山賊たちは倒れ伏します。しかし、無理矢理攫われてきたはずの娘たちは喜ばず、かといって怒りもしませんでした。何故か酷く怯えるのです。
そしてその理由を桃太郎は知りました。
山賊のお頭は外に略奪しに出ていたのです。そして丁度帰ってきたのです。
「何があったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
そして山賊のお頭は山を2つは越えるであろう大声で叫びました。
慌てて出てきた桃太郎一行。
そしてそれを見た山賊のお頭は、
「お前らかぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
悪鬼羅刹の如く怒り狂った姿で殴りかかってきます。
間一髪避けた桃太郎たち、その拳は桃太郎たちが出てきた家に当たると家の一部を吹き飛ばしてしまいます。
まさしく怪物。人外地味ています。
3人の仲間(家来)は絶望しました。こんなのは人が相手していいものではありません。
ですが桃太郎は同じ人外の力を持つ男、ビビりこそしましたが自身もそれくらいのことができる自信があります。
「みんなは手下を討ってくれ、それまで俺がコイツの相手をする。皆で力を合わせれば倒せない相手じゃない」
桃太郎から感じる確固たる自信、それが仲間たちの気持ちを落ち着けます。
「「「おう!」」」
3人は散っていきました。残されたのは桃太郎と山賊のお頭です。
「ガキが粋がりおってからに」
山賊のお頭はさっきまでの怒りを抑えたのか、酷く落ち着いた様子で重厚な声で桃太郎を威圧します。
山賊のお頭は改めて見れば見る程鬼のようでした。身長は2メートルはゆうに越え、目つきは鋭くゴツゴツとした体はまるで岩山のようです。
山賊のお頭、いえ鬼は崩れた家から柱に使われていたであろう折れた丸太を抜きました。折れて短いといってもそこそこの長さがあります。それを軽々と持ち上げた姿に流石の桃太郎も冷や汗を流します。
「さて狩の時間だ。一瞬で潰してやる」
鬼が口を不気味に歪めました。
まさに嵐、そう表現せざるを得ない鬼の力の暴風。桃太郎は攻められ続けるばかり……恐らく一つでもまともに食らえば致命傷だ。桃太郎は一太刀入れられればと思わずにはいられない。
しかしながら桃太郎も負けてはいないのだ。かれこれ1時間ずっと一つとして掠りもしていない。そのことが鬼に焦り生む。
そして突如鬼の右目に矢が刺さり、何かを引っ掛けたのか足をもつれさせる。続けとばかりに何者かが背中に一太刀入れた。
その傷は浅かったが鬼の気は十分に逸れる。桃太郎は一気に間合いを詰め腹から肩にかけて切り裂いた。
そして返す刃で鬼の首も裂く。
鮮血が桃太郎を紅く染めた。鬼は崩れ落ちる。
これにて鬼退治は終わったのだ。
3人の仲間は皆、傷を受け満身創痍だった。桃太郎のために急いだのだろう。桃太郎もまた、一度たりとも当たるわけにはいかない緊張感に晒されていた反動か膝から崩れ落ちてしまった。
しかし4人の顔は晴れやかであった。
こうして桃太郎の鬼退治の旅は終わり、桃太郎は山賊の財宝を被害にあった村々や町に少しずつばら撒き、むしろ帰ってお礼の品をもらいつつ故郷へ帰ったとさ。
めでたしめでたし。
しばらくしてから桃太郎が自身が躊躇いなく人を斬ったことを少し思い悩んだてたり、鬼退治の凱旋の後に鬼が攫ってきたばかりであった豪族の娘の家に桃太郎が婿入りしたり、3人の仲間がその家に仕えたりして幸せに暮らしましたとさ、というのは蛇足でしょうか?
うーんこれは大丈夫なのだろうか……