銀狼の心境
すいません。
何故か新しいストーリーを書くとき以外は、とても面倒に思えてくるんです。
もっと早く投稿できるように努力します。
◇【零華】◇
薄暗く、汚い檻の中、私はそこにいた。
数ヵ月前にとある戦闘で足を失い、そこから色々あって迷宮都市モンダスの奴隷商人に買われた。
そこから欲にまみれた目をした男達(おそらく貴族)に買われたが、主として相応しい実力の持ち主はいなかった。
私の主に相応しければ、私は全てを受け入れる覚悟もある。
男達を見極め、相応しくないと判断すれば間接的に傷を負わせ、魔物をけしかけたりもした。
気付かれずに呪いが掛かっていると言われたこともあるが、それでもまだ買う人はいて、奴隷商館を行ったり来たりしていた。
しかしあるときヘマをして、全ての元凶が私だと知られてしまい、私を買う人は現れなくなってしまった。
流石に私も買ってくれなければ主を探すことも出来ない。
失意の中、檻の中でジッと座って時間が経つのをただ感じていた。
そんなときにまた新しい気配を感じた。
その気配は妙に静まり返っていたが、その奥には収まりきれないような、計り知れない、そんな感じがした。
だが、ここに来ると言うことは、何かを必要としていると言うことだ。
その目的が私に適していなければ、この気配の主に会うことさえないだろう。
私にあるものと言ったら、この身体と、昔勉強して溜めた知識と経験だけだ。
性奴隷として買われることは、流石に私がやってきたことから考えると無いだろう。
しかし予想は良い意味で外れて、その気配の人物は店の主人と共に現れた。
その気配の主はこの辺りでは結構珍しい黒髪で、服装のせいか見た目からはあまり強そうに見えないが、歩き方、重心の配置、何よりも溢れでる濃密で研ぎ澄まされたような気配が彼を強者と分かる。
「此方が戦闘力を度外視して、選んだ奴隷です。
何だか分かりませんが、特殊なスキルを持っているらしく、豊富な知識で戦闘を困難にさせたとされています。
そして戦闘の際に足を失い、私のところまで回ってきたのです。」
店主が恭しく説明する。
そこで、その青年の目に魔力が宿った。
魔力を目に宿らせることで、視力を強化したり、暗闇でも昼間と同じように見えるようになったりするが、今それをやる意味が無い。
と言うことは何か‥‥‥鑑定スキルのような特殊な能力だろうと考えた。
そんな考察をしている間にも店主が私の売り込みながら会話をしている。
「よし買った。幾らだ?」
この人は悩むことなく即答した。
その言葉を聞いた途端、心臓の動きが早まり、バクバクと音をたてた。
「よ、よろしいのですか!?」
店主が要らないことを言う。
私は殺意に似た感情を抱きながらも、それを悟られないよう抑えながら店主を睨み付けた。
そして、そのまま店主を睨み付けながら、私は彼の方に向いた。
その時、自分が鋭い視線で睨み付けていたことに気づいて、フイッと視線を横にする。
「これで契約完了です。お買い上げありがとうございました。」
私は店の奥に戻っていく店主を眺めながら、ふと思った疑問を問いつめた。
「何故私を買ったのですか?」
「ん?」
「何故私を買ったのか聞いているのです!」
これは主として認めるために重要な要素だ。
目的が人道に反するようなものならば全力で抵抗する。
「聞いてないのか?俺は知識が豊富なやつが欲しかったんだよ。
それも戦闘に使えるやつがな。
それに俺の戦闘は見られたら駄目なやつがあるから他言しないやつが必要だったんだよ。」
成る程、主が私に求めているのは基本的には知識で、それに加えて多少の戦闘力。
正直言って、脚がなくともそこら辺の雑兵に負けない自信がある。
もし脚が何ともなくとも、主に勝てる気はしないので、主の性格と精神性を認めるかどうかとなる。
取り敢えずはその二つを見極めようと方針を固めたところで、少しの時間、主を無視していることに気付いた。
その途端、反応する暇もなくいきなり身体が宙に浮いた。
そして二つの腕の上に私の身体がすっぽりとおさまった。
「ひゃっ!ひゃあぁぁぁ!?ちょっ!この体勢は‼??」
俗に言うお姫様だっこをやられて、かなり取り乱す。
私は真っ赤になる頬を押さえて出来るだけ見ないように頑張った。
今見ると、色んな意味で戦闘不能に陥る気がしたから。
この後、抱えられながら色んな場所を回った。
服屋でみすぼらしい私の服を買った。
青い刺繍の入った肌触りの良い綺麗な服だ。
これでも、そこら辺を歩いている平民や、ましてや下級貴族が着ている服と同程度の価値があると思われる。
そして、適当にふらつきながら、普通の人が簡単に買えない上級ポーションをまるで小物を買うかのように、手軽に買っていた。
そして主様の視線が武器屋や鍛冶屋に向いているのが分かった。
そしてキョロキョロしていたが、満足するものが無かったのか、ハァ~と溜め息をついて「あ、やっぱり買わないで自分で造るか。」と言った。
この方は、貴族を上回る程の金額を持ち、戦闘力も高く、その上、鍛冶をすることもできるのですか。
私の心は驚愕に染まっていた、一体主様は、何者なのでしょうか‥‥‥と。
しかし私の予想は更に外れていた。
何と主様はミスリルとオリハルコンとアダマンタイトを私のために使うとおっしゃり、実際にどこからか出した。
場に沈黙が覆い、ドワーフ達の視線が金属に集まる。
希少金属を軽々と使えるほど持っているか、持て余しているのか、分からないが、その程度の余裕はあるらしい。
貴族の息子、富豪の息子、もしくは高ランク冒険者の息子でしょうか?
様々な思惑を巡らせてみるが、推測の域を出ない。
使っていた魔法も希少金属を加工するのであれば納得だ。
3つ全て融点が違うので、融点で維持したまま溶かし合わせる方法や、部品ごとに分けて作り、それを組み合わせる等の多くの方法があるが、やはり全てかなりの熱を使う。
先程口にした下手したら死ぬと言った言葉も嘘では無いようだ。
「何でそんなもん持ってんだよ。マジで何者だ?兄ちゃん。」
無意識に漏れたであろう誰かの言葉は私の疑問とも一致していた。
それに対して主様は「自由な旅人だ。」と返した。
その言葉の中に真実が入っているのか、完全な嘘なのか、私に判断する材料は無いが、長い時間を掛けてでも判断しようと思った。
そしてどういう方法をとったのか分からないが、本来数十時間掛かる筈の作業をたった30分で終わらせた主様は、私に出来上がったばかりの籠手を渡してきた。
その出来は、すごく軽くて硬かった。
大国の国宝に匹敵するであろう出来だ。
そして恐らく知的好奇心からだと思うが、ドワーフ達に質問攻めとコメディーに合いながら抜けた。
最後に纏め役のドワーフが主様の名前を聞いてきた。
そう言えば私も主様の名前をちゃんと聞いていなかったな。と思い、耳を傾けた。
「あー?俺の名前はユウ。それじゃあな。行くぞ。」
ユウ‥‥‥ユウですか。
と心にその名を刻んでいると、急にユウ様が話し掛けてきた。
「んー君には一応の名前を決めとこう。
ときどき何て呼べばいいか迷う時があるし。」
確かに名前が無いと不便だから、やっぱりあった方が良いのだろう。
横暴に無理矢理名前を付けるなんて事をしない‥‥‥それだけでもかなりプラスだ。
「べ、別にいいですよ。貴方が私に主と認めさせれば良いのですから。」
この時私は柄にも無くワクワクしていた。
銀狼族にとっての名付けとは、主と認めた者に必ず仕えると言う誓いのようなもので、仮初でも誰かから名前を貰うのは拒否するのだ。
あまり自覚はしていないが、どうやら私は思った以上に主様に心を奪われていたようだ。
これから、よろしくお願いしますね!ユウ様!