英雄武具!?
気が付くと、私達はダンジョンの周囲に散らばる様に倒れていた。
身体を起こすと、宝箱がすぐ側にあった。
同じ様に勇者の近くには寄り添うように一人一つずつ宝箱があった。
「う、うぅ‥‥‥。」
背後からうめき声が上がって誰かが起き上がって来る。
振り返って確認すると、確か優くんと美紅ちゃんのクラスメイトの一人でクラスをまとめていた理想主義の男の子だった。
「あっ、雪菜さん。」
「‥‥‥‥」
彼が私の名前を呼んでくるのを努めて無視する。
一先ず近くに居た美紅ちゃんの身体を揺さぶって起こす。
「美紅ちゃん、美紅ちゃん。起きて。」
「んぅ‥‥雪‥菜‥‥さん?」
「え‥‥?はっ!この私が美紅の寝顔を見損ねるなんて!」
ウトウトしながら美紅ちゃんが起きると、それに触発される様に近くで寝ていた結花ちゃんも飛び起きた。
「フフフッ。」
こんな状況でも変わらない結花ちゃんのマイペースに思わず笑ってしまう。
「あれれ?どうなったんだっけ?
確か私達はあのカラフル子供にチュートリアルがどうこう‥‥‥?」
「結花、覚えてないの?」
「え〜と、なるべく戦闘は避けて観察に徹してたから何が起こったのかはあんまり‥‥‥。」
う〜ん?と呻き声を上げながら首を傾げていたが、突然バッと擬音がつきそうな勢いで立ち上がり、好奇と興味の目で宝箱を見詰めていた。
「この宝箱は?」
端的な質問に美紅ちゃんが少し考えながら答える。
「チュートリアル報酬?ってあの子は言ってたけど‥‥‥何が入っているかは分からないから一応———————」
「報酬?報酬って本当に!!」
美紅ちゃんの言葉を遮り、俊敏な動作で一番近くにあった宝箱に飛びつくとなんの躊躇いもなく蓋を開けた。
パァァァッと宝箱の縁や装飾品が光り、私達は咄嗟に目を瞑る。
そして光がおさまると結花ちゃんが開けた宝箱にはなんの変哲も無い黒い手袋がポツンとおいてあるだけだった。
「こ、これは!‥‥‥何?」
結花ちゃんのふざけた言葉で周囲の緊張が緩む。
(結花ちゃんの行動は突拍子も無くて驚くけど、こういうところは安心するなぁ。)
ホッコリした気分になりながら、結花ちゃんがつけている手袋を見る。
雪菜は召喚するものが強大であればあるほど多量に魔力を使うというデメリットがある代わりに、召喚しようとした物の強大さが何となく分かる。
その感覚によると今の魔力量ではあの手袋を召喚する魔力が圧倒的に足りないほど強大な物だ。
「ホッ!」
手袋をつけ終えた結花ちゃんが軽く手を振るっただけで風が巻き起こる。
その風が周囲に転がっていたまだ起きていなかった勇者達を起こした。
「う‥‥‥頭がっ!」「ふぅ〜良く寝た。あれ?知らない天井だ?」「う腐腐腐腐腐腐良い夢見れたわ。」
「あれ?俺ってさっきまでダンジョンに居たはずじゃ?」
十人十色な寝起きの言葉を発しながら彼等はゾロゾロと起き上がり、近くの宝箱を競う様に開け始めた。
「わ〜!凄いね!これ!!」
そして結花ちゃんは手袋の凄さに感動してピョンピョン飛び跳ねながら喜びを表現していた。
「雪菜さんも!美紅も!宝箱を開けよう!さぁ!!早く早く!!」
「はいはい。興奮しすぎよ。分かったからもうちょっと落ち着きなさい。」
「美紅ちゃんは元気があり過ぎて、空回りしそうね。
それじゃあ私も開けてみようかしら?」
私はそう言って近くの宝箱の蓋を開ける。
中に入っていたのは指に乗るくらい小さい水晶玉が色違いで3つ入っていた。
結花ちゃんの手袋ほどではないけれど、水晶玉の1つ1つに多量の魔力が込められている。
「ヒャッハー!!これが俺の武器だぁ〜!!」
「あ‥‥適度に暗くて‥‥落ち着く。」
「我が【悪童】は我が手にあってこそ力を発揮する。」
「こ、これを使えば‥‥ハァハァ‥‥あらゆる男子はショタに‥‥イヒヒヒ。」
「ほほう。凄まじいまでの魔力量。たしかに我らに相応しい武具‥‥‥勇者の武器だから勇具‥‥いや、一般人でも使えるから、この武器達は英雄武具と名付けよう!!」
「勇具?英雄武具?ダ、ダセェな!!それよりもこっちが考えた名前の方が—————————」
と主に男子達が騒いでいた。
もう既にかなりの数、宝箱が開けられたのか手に何かを持ってワイワイ騒いでいる姿が見受けられる。
どれもかなりの魔力がこもっている。
あの子供が言った神に近い存在というのが、冗談では無い事が十分に実感出来る。
「雪菜さんの宝箱には何が入ってたんですか?」
「え〜と。この小さい水晶玉みたいなのが三つ‥‥‥。」
「なら私が髪留めにつけてあげましょうか?それだけだと持ち歩きにくそうですし。」
「え~とそうだね。じゃあお願いしようかな?」
水晶玉を美紅ちゃんに渡すとどこからか裁縫セットを取り出して、髪留めにあっという間につけてしまった。
ロングだった髪を後ろの方で髪留めで括る。
顔を左右に少し動かして、外れない事を確かめる。
「よしっ!!ありがとね美紅ちゃん。」
「どういたしましてっ。雪菜さん。」
水晶玉を触りながら立ち上がって、美紅ちゃんの方を見る。
ちょうど美紅ちゃんも自分の宝箱を開けるところだった。
結花ちゃんが宝箱ににじり寄って、ジッとしながらもワクワクが隠せない様子で待っていた。
「さて〜美紅の宝箱の中身はどんな物かな〜?」
「私のなんて、きっとそんな大層なものでも無いよ。」
そう言いながら美紅ちゃんが蓋を開けると、そこにはフワフワの可愛らしいパンダのぬいぐるみが布製の葉巻を咥えて、箱の中で偉そうな格好でくつろいでいた。
「えっと〜〜これはなかなか個性的な‥‥‥。」
結花ちゃんですらあまりにも予想と違ったのか、唖然としながらなんて言えばいいのか戸惑っている。
そこで美紅ちゃんがプルプル震えている事に気がついた。
「か、可愛い〜!!」
「可愛いっちゃ〜可愛いんだけど、何か最初の登場シーンのギャップのせいか素直にそう思えないんですけど‥‥‥。」
本当に珍しく結花ちゃんが困惑していた。
「パンダのヌイグルミって前から欲しかったんだ〜。」
「通学路とかでヌイグルミをチラチラ見てたから、欲しがってる事は知ってたけど‥‥そんなんでいいのかぁ〜〜。」
「いいのいいの!私にとってはとっても嬉しいしね!!」
美紅ちゃんが嬉しそうにヌイグルミを抱きしめて、頬ずりする。
とても嬉しそうで、見てるこっちも嬉しくなってしまうような笑顔を浮かべている。
「あ〜なら私はちょうど純金でできた延べ棒が欲しかったんだよね〜。
残った宝箱は無いかな〜?まだ誰か気絶したりして‥‥‥無いか〜。」
「こら。結花〜?そういうのは駄目よ?」
「は〜い。」
結花ちゃんは反省の欠片もなさそうな気の抜けた返事をしながらもキョロキョロと辺りを見回していた。
「あ!あそこに誰か気絶してる!!」
「ということは近くに宝箱が!?
ってあれ?あの人、誰だろう?」
「一旦近づいて、誰か確かめてみよっか。何か起きてたらあの子が危ない。」
私達が駆け寄ってみると、倒れているのは数日前に私達に能力を教えてくれたあの聖女と呼ばれる少女だった。
「大丈夫?」
「ほ〜ら。起きないとほっぺムニムニしちゃうよ〜?」
「んっ‥‥‥?んむむむ‥‥?」
結花ちゃんが頬を手で弄り始めると、艶めかしい声を上げながらゆっくりと起き上がる。
そして私達を直視した途端、彼女は訴えるように叫んだ!
「大変なんです!!王の隠し子と思われる子供を旗印に大勢の貴族が反乱を起こしました!
どうかお力をお貸し願います!!」
タイトルに関係した話を入れるの忘れてたので、追加しました。
それとダンジョン編終了です。
更新速度バリ遅ですが、見てくれている方ありがとうございます。




