騎士団によるチュートリアル
ガランドがそう宣言すると、騎士達は十人十色に喜悦の表情を浮かべて、身体から赤黒いオーラを放出した。
「全騎士!敵を殲滅せよ!!」
「はっ!!」
嬉々としてゴブリンを仕留める為に動き出す。
防御特化の、勇者達では文字通り刃が立たなかったゴブリンをただの殴打一撃で粉砕し、攻撃力特化との押し合いを力で捻じ伏せてすらいる。
「スゲェ‥‥‥‥。」
呆然と言った様子で誰かが呟いた言葉は、この場の勇者達全員の心情を表していた。
正直、彼等は騎士達のことをあまり評価していなかった。
力の強さや足の速さでは既に騎士達を超えていて、剣技や経験の差はあれど、それも時間が経てば埋める事が出来る。
その上、それぞれ彼等だけの秘められた力がある。
「まさか一つでここまで大幅な強化出来る物だったとはね。」
雪菜が感心しながら騎士達の無双劇を眺めている。
かつてガランドから奥の手について聞いた時から、彼等にも奥の手がある事は分かっていたが、これ程強力な物だったとは想像していなかった。
「それは駄目だよ?
これは勇者の為のチュートリアル。君達が手を出したら台無しじゃないか。」
少年がそう言うと、地面から鎖が飛び出し、騎士達に襲い掛かった。
一瞬で態勢を切り替えて応戦するも、数の多さに圧倒されて捕縛されていく。
「くっ!」
悔しそうにガランドが鎖から抜けようと身じろぎするが、鎖は壊れるどころか軋む事すらない。
「まぁ宣言通りゴブリンを殲滅させられたから、またゴブリンを出すのは僕的には負けたって事だから同じ相手を出すのは違うね。
よし!じゃあ次は不死者シリーズ行こうか。
亡霊、骨人腐肉人か。
っと、そろそろ全員召喚される頃合いかな?」
ゴブリンの血肉を生け贄に、ダンジョンに残っていた筈の勇者達が次々と召喚される。
丁度全員が召喚され終えたところで、パチンと少年が指を鳴らすと、召喚された順に目を覚ました。
「かはっ!?」
「ゲホッゲホッ!!」
咳き込みながら起き上がり、彼等は無傷の身体に困惑する。
————確か自分達は死んだはず??
蹴られ、胴体を穿かれ、潰されて死んだ事を覚えているが、夢でも見ていたかのように実感が無かった。
「おい!大丈夫か!?」
「え?‥‥‥ああ。すまない。」
目覚めた輝は頭に残る違和感を振り払った。
そこで目の前にあったせり上がった地面を見上げると、その頂上で楽しそうに笑う少年に酷く恐怖を覚えて、無意識に後ずさる。
そんな輝の様子を一瞥して少年が馬鹿にしたように笑った。
「さてと、じゃあチュートリアルの再開だ!
各々さっさと武器を構えて。3‥2‥1‥はい!スタート!!」
一瞬前の嘲笑の片鱗すら見せずに満面の笑みで不死者達を大量に出現する。
「これは一体どういう状況なんだ?」
直ぐに近くに落ちていた武器を取り、応戦しながら輝は骨人の腕を剣で斬り落とす。
骨がスパッと斬れるものの、骨の周りを覆うように漂う魔力が斬れた骨を強引に引きつけ、何事も無かったかのようにスケルトンは腕を振り回した。
「スケルトンは魔力による引力で身体を動かしている!しかしそれは小さい破片までは及ばない!
骨自体を粉々にするんだ!!」
ガランドがせめて足手まといにならないように移動しながら輝に戦闘指示する。
その戦闘指示に従って、輝は剣脊で骨を叩く。
「頭だ!基本的に頭を潰せば大抵の魔物は死ぬ。」
「はい!」
輝はスケルトンの頭に剣を叩き込んで、そのまま胴体を半分にした。
魔力が途切れたスケルトンは、ただの骨となって地面に音を立てて崩れる。
「やった!」
喜びの声を上げた輝の背後から、不意を打つ形で剣を持ったスケルトンが召喚された。
輝が気付いたときにはもう遅く、避けようとするが間に合いそうに無かった。
「オラッァ!!」
荒々しい雄叫びとともに横から飛び出して来た誰かが頭蓋骨を殴り壊した。
この声に覚えがあった輝は礼を言うために振り返ると、そこで困惑の声を上げた。
「達也?」
「おう!無事か?」
そこには鍛え上げられた肉体を惜しげも無く晒す親友の姿があった。
流れ落ちる汗が何故か光っているようにも思える。
「鎧はどうしたんだ?」
「壊れちまったから脱いだんだよ。」
達也は屈託無く笑いながら見せびらかすようにポージングをして、胸筋を動かす。
「それに‥‥‥」
「達也!後ろだ!!」
背後から飛び掛かってきたグールが、粗末な長剣が振り下ろし、達也の頭をかち割ろうと迫る。
それに反応して達也は腕を顔の前に滑り込ませる。
「っ!!」
達也の腕が斬られると思った瞬間、輝は5メートルも無い短い距離を本気で駆け抜ける。
それでも'届かない''間に合わない'
「しゃらくせえっ!!」
しかし達也は輝の焦りを他所に、反撃に出た。
叫ぶと同時に達也は腰を捻り、防御に回した腕を強引に剣へと叩きつけた。
粗末な剣と生身がぶつかり、金属が擦り合う不協和音が鳴り響いた。
「効かねぇよっ!!」
グールの腕を掴んでぶら下げ、強烈な殴打を繰り出した。
腹部に痛烈な殴打を食らったグールは5メートル以上吹き飛び、ピクピクと痙攣するが、やがて動かなくなった。
「た、達也?」
輝が剣を直接食らった腕を見て、慌てて駆け寄り達也の腕を確認する。
不思議な事になんの防具も身に着けていなかった腕には切り傷一つ付いていないキレイなものだった。
「あれ?傷一つない?」
「おぅ!!なんか知らんが俺の肉体はめちゃくちゃ硬くなったみたいだ。
剣が当たってもビリビリしないし、本気で殴っても拳が壊れないからスゲーよ。」
達也は自分の腕を不思議そうにペタペタと触って軽く振るって近づいていたスケルトンを殴り飛ばす。
持っていた剣が衝撃に耐えかねたのか、バキリと根元から折れる。
「これが俺の祝福ってやつなのかもな。」
「っ!!」
少し目を横に向けると雪菜が大小の魔法陣を操り、対処し難いゴーストを優先して倒し、美紅は通常よりも遥かに強い氷魔法で敵を薙ぎ倒している。
輝は心の中に湧き出てきた嫉妬と焦りの感情を必死に押し殺そうとする。
いま自分が抱く感情は好ましいものでは無い。
その代わりに一層力を込めて敵を斬る。
「クソッ!!」
押し込めた感情が言葉として発露する中で、ふと周りを見ると仲間達がそれぞれ魔物を倒していた。
自分一人の事で頭が一杯になっていた輝は、ホッと彼等の無事に安堵の溜め息をする。
そんな中数人が魔物達に苦戦していた。
「キャッ!?」
一人の女子がグールの攻撃に怯んで、手に持つ小ぶりな盾ごと弾き飛ばされる。
グールの顔が愉悦に歪み、手に持つ小振りな短剣を突き立てようとしていた。
それを見た輝の心に何か言い難い感情が燃え盛るように灯った。
「オオオオア"ア"ア"ッッッ!!!」
自身を奮い立たせるように雄叫びを上げて、その女の子を救う為に疾走する。
幾人か同じ様に女の子の危機的な状況に気付いて助けようとする。
彼女に1番近いのは自分だ。
だが遠い、間に合わない。
「嫌だ!」
目の前で危険な状況になっている女の子がいる。
そんな場所に居るのにたった一人の女の子を守るくらい出来なくて、どうして夢が!憧れが!自分を認めてくれるだろう。
「間に合わせる!!」
剣を顔の横で構えながら、限界を振り絞って振り絞る。
筋肉が断裂しようと骨が折れようと、速度も落とさず走り抜ける。
それでもまだ間に合わない。
「っっっ!!あああ"あ"あ"あ"っっっっ!!!」
限界なんか関係ないとばかりに脚に力を込める。
限界があるならそれを突破する!
いつの間にか輝の身体に蒼い何かが纏わりついていた。
いや、それは輝の身体の内側からコンコンと湧き出る泉のようであった。
その蒼い何かに後押しされる様に急に輝の身体が加速する。
その勢いのまま輝は、振り下ろされる凶刃をグールごとたたき切った。
[大丈夫か!?]
「う、うん。あ、ありがとう。輝君。」
すぐに駆け寄り怪我の有無を確かめて、ホッと安堵の溜息を吐きだす。
そして気が抜けるととともに、限界を超える代償と言うように筋肉をバラバラに千切るような激痛が襲ってきた。
「ぐぐぐがああああああ!!!!」
「え!?待ってて今治してあげるから‥‥【キュア】」
誰かが回復魔法を掛けてくれたようだが、痛みは全く引かずに、それどころか身体を何かにかき回されているような不快感があった。
そんな不快感に唇を噛みしめながら耐えていると、ふと上から声がかかった。
「もういいかな。」
柏手の音とともに広間に出現していたアンデッドがすべて溶けるように地面へと消えていった。
それと同時に身体中を蝕んでいた激痛も溶けるように消えた。
茫然としていると再び上からパチンと指を鳴らす音が聞こえた。
騎士達を縛っていた鎖が切れ、勇者達の前に大きな宝箱が出現した。
目の前に突然現れた宝箱に彼等は困惑を顕著にする。
「なんの真似だ?」
何故か額から血を流したガランドが厳かな声音で問い詰める様に聞く。
溢れ出る殺気に勇者達がビクリと反応するのを楽しげに見ながら少年は優雅に笑う。
「何って、チュートリアルクリアの報酬に決まってるじゃないか。
君達一人一人に合う武器を僕自ら見繕った。
さぁ受け取れ!勇者よ。
チュートリアルクリアおめでとう。」
少年は表面上は祝福している笑顔を浮かべながら、勇者達が光に包まれる様子を見送った。
雪菜と美紅のギフトが彼女達の名前のイメージと合ってないと思われたかも知れませんが、意図しての事です。
月一投稿ですが、楽しみにしてお待ち下さい。




