支配者の配慮
勇者達の戦いぶりを見ていた俺は溜め息を吐きそうになるのを堪えて宙を仰ぐ。
ネタで作った魔物であるキ○肉マンは耐久力と体力を多めに設定してあったが、攻撃パターンは単調で、弱点も無数に存在した。
確かに一番効果のある弱点は顔の部分だが、攻撃すれば大袈裟なほど生々しくダメージを受けるエフェクトがある。
柊も血が大量に吹き出した時は怯んでいた。
そもそも目的の一つとして、彼等に俺謹製の武器を与える事があるが、それは別に彼等を庇護したりする為ではなくて、監視の意味合いが強い。
俺が作った武器には必ず場所と持ち主が分かるようになっていて、見ていなくても記録の魔法が掛けられているから何があったかも把握しやすい。
姉と美紅に危害を加える恐れのある人物を見つけ出して先に対処する事ができるようになる。
名前は忘れたが獣の姿になったクラスメイトの様な存在がいるかも知れないというのは姉達にとっては脅威でしかないからだ。
しかしその計画はもう前提から崩れている。
あの程度の魔物を倒せなければ、武器に頼る闘いしかしなくなってしまう。
一応彼等にはこの世界の問題を解決してもらう手筈だ。
最低限今の強さで勝ってもらわなければ困る。
「そして全員殺られた‥‥‥か。」
次は溜め息が抑えきれずについてしまう。
本当に想定外の心と身体の弱さだ。
「こうなったら痛み調節機能を最大にして、死ぬ気で鍛えさせるか?
だがそれだと時間が必要になってくるし、時間を歪めると俺はともかくあいつ等に掛かってくる反動が面倒だしなぁ‥‥‥‥。」
ブツブツと俺が面倒くささに辟易としていると、後ろにいつの間にか零華がいた。
油断していたのもあるだろうが、今やっている訓練の成果だろう。
「どうした?零華?」
怪訝そうにしている零華に向かって聞いた。
よく見ると両手にはティーポットとカップを持っていた。
近くにテーブルを創ってやると、音も立てずにスッとカップを置く。
「主様が人間の能力を逸脱した力を持っていることは既に知っていますが、主様が今構っておられる方々は構う価値のある人間なのですか?」
零華が唐突にそう聞いてきた。
俺は少しだけ意外と感じていた。
今まで俺から零華にやらせようとしてきた事に文句をつけたりした事はあったが、俺がやることに意見してきたことは無かった。
「世間一般で言えば価値はあるだろうな。
でも俺にとっては二人を除けばどうでも良い。死のうが生きようがどっちでも俺には関係ないからな。」
元クラスメイト自体には興味の欠片もない。
精々姉たちを護る肉壁にでもなってくれれば、良いと思っているだけだ。
「俺が鍛えてやっているのは、二人だけがいきなり強くなったりしたら、責務やら重責やらがのしかかって来るからだ。
他にもあるが、姉と美紅が壊れなければそれで良い。」
目的は初志貫徹して二人の安全だ。
しかし今のままでは身代わりどころか肉壁にもならない。
本物に会えば、紙切れの如く千切られることだろう。
「‥‥‥そうですか。分かりました。
肝に銘じておきます。」
ペコリと見事なお辞儀をして、スッと音も無く部屋から消えていった。
「さてと後残っている問題を片付けようか。
【再誕】」
俺の身体から大量の魔力が抜けていったのを確認してから俺は再度、ダンジョンのボスへと意識を遠隔操作させて、様子を見る事にした。
「ゴオオウォオゥ。オゴグォゥオオッオオ(全員揃っていなかったか。そう言えばゴブリン達から一匹仕留めたと報告が来てたな。)」
俺は部屋に無傷で転がっている勇者達を見て、そう呟く。
「ゴオォウロゥガグォゥ(チッ、全員ダンジョンの外に出ていたか。これじゃあ武器が渡せないな。)」
一応全員分用意した武具が無駄になる上、二人に渡せないのならばダンジョンを作った意味なんて大して無くなってしまう。
それは何となく負けた気がして、嫌だ。
「ガァオォグゥ(ダンジョン権能【拡大】)」
俺が拡散させた魔力は地上に染み渡り、ダンジョン領域を一時的に広げた。
そこには当然外で、野営や鍛錬をしている騎士団達も含まれる。
もちろん外で休んでいる姉達も。
「グガオオウゥガァオァァッッ(さてと新しい部屋を用意しないとな。)【転移】」
俺の周囲を光が溢れ、ダンジョン最下層から地上へと広がり、ダンジョンの周囲に存在する生物を全て丸ごと光が呑み込んだ。
全ての生物が消えた周囲には心地良い静寂があった。




