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キ○肉マン?とのボス戦

荘厳な扉の前で勇者達は勇者最強である輝を筆頭に整列していた。

剣を真っ直ぐ上に構えてカッコつけていたり、やる気に満ちた表情で拳を突き合わしていたり、緊張して深呼吸をしていたりと様子は異なるが、全員の目に使命感があった。


「みんな!聞いてくれ!!」


戦闘で輝が勇者達の武器の中で最も流麗で神々しい剣を頭上へ掲げた。

そのままクルリと反転してそこにいる全員を見据えた。

そして少し芝居がかった声で叫んだ。


「俺達は勇者だ!

悪を倒し!この世界を平和へと導く存在だ!

実際はそんなことを言われる程のことは成し遂げてはいないけれど‥‥‥俺は!そんな風になる為の第一歩としてこのダンジョンを攻略する!

みんな!俺と一緒に本物の勇者を目指そう!!そして強くなろう!」

「「「「おおっ!!」」」」


扉の前で全員がやる気に満ちた勇ましい雄叫びを上げる。

その様子を見て、先頭にいた輝は様々な想いがこもった表情で扉を強く押した。

しかしピクリとも扉は動かなかった。


「・・・・・・」


彼等の間に耐え難い沈黙が訪れた。

何人かのジトーとした目が輝に寄せられた。主に男子から

女子からはドジっ子な輝君もカッコカワイイ〜という視線が多い。

そんな視線に敏感に反応して輝は顔を両手で隠す。


「開かねぇのか?」


そんな輝に達也の悪意の無い追い打ちが降り掛かった。

ますます羞恥心に顔が赤く染まる。

そんな親友の様子に気付くこともなく達也は扉を睨む。


「開かねぇなら!開かせるまでだろ!」


いかにも脳筋的考えで拳を握り、扉の前で重心を落として構える。

ギュッと目を瞑り、特殊な呼吸法で息を整える。


「オラァッ!!」


粗野な掛け声と共に確かな重みを持った拳が突き出された。

重厚な金属音が響き渡り、不快感に耳を塞いでいる者もいる。


「痛ってぇ〜〜!!」

「お、おい!達也!?大丈夫か?」

「お、おう。スゲー痛ぇけど扉は壊せそうだぜ?」


そう言われて輝は扉を見ると、達也の拳が当たった場所がヘコみ、ところどころ亀裂が走っていた。

確かに少し時間は掛かりそうだが、壊せそうだった。


「よし!何もしないで待っているのも愚の骨頂だ!

みんなでこの扉を破壊しよう!」

「オラァッ!!」


綺麗な回し蹴りが扉のヘコんだ部分に再度命中した。

そして転がるようにして扉から離れる。。


「【フィジカルアップエンチャント】」「【アクセラレータエンチャント】」

「【ブロウバースト】」「【一念突き】」「【黒砲】」


達也に筋力upと敏捷upの付与魔法が掛けられると同時に、扉へと攻撃が加えられ、ビリビリと空気を揺らした。


「いけるぞ!!あいつ等に続くぞ!!」


その言葉を機に数々の魔法や武技が無秩序に放たれた。

達也は扉に攻撃を加えようとして、飛んで来た魔法に気付いて咄嗟に避けた。


「あぶねぇ!これじゃ俺が殴るタイミングが見つからねぇぞ!!」

「分かった!俺が指示をするから達也はその指示に従って動いてくれ!!」


達也が愚痴をこぼしながら少ない遠距離攻撃で攻撃を加える。

輝はバラバラに飛び交う魔法と武技を避けて、自らが持つ聖剣に力を、魔力を限界まで込めていく。

この場の誰よりも強い波動に無差別に放たれていた魔法が少し止んだ。


聖星光波(オリオンスター)


輝の最高の技が一筋の光線となって扉に直撃した。

その衝撃で、片方の扉が歪んで、中が覗けるくらいの隙間が空いた。

そのほか全員の攻撃より強い攻撃に一部を除いて絶句し、悔しがったり憧れの眼差しを向けると言った反応が帰ってくる。


「みんな!バラバラに攻撃するだけじゃこの扉は壊せない!

みんなで力を合わせるんだ!」

「そうですよ皆さん。この中で一番の威力を誇るであろう輝が壊せない扉ですからいくら攻撃しようと無駄です。

徐々に直っていってもいるようですから、意味の無い攻撃だと修復能力を助長している可能性すらありますね。」


ハッとした表情で全員が扉を見ると確かに傷が修復していたのだった。

無駄な事どころか邪魔をしているかも知れないと思った彼等は悲痛な面持ちで下を向いてしまう。


「大丈夫だ!

肉体強化系の付与魔法が得意な人は俺と達也に!

魔力系の付与が得意な人は魔法使い達に!優磨ありったけ頼む!

属性魔法が得意な人は俺達が攻撃を加えた後に火と水の順に攻撃をしてくれ。」


そう言って輝と達也は構えて力を溜める姿勢をとった。

その背後で魔力を高めて同じ様に力を溜めていた。


「【覇王聖剣】」「【烈王豪拳】」


輝の光を纏い凄まじい勢いの剣が、達也の燃えながら光沢を放つ拳が、同時に扉を叩いた。

現時点で最高の技を多くの付与魔法の乗った威力で二人同時に放つ。

ミシミシと扉が軋む。

直ぐに扉の前から離脱する。


「【火炎波(フレアナーヴァ)】」「【紫炎乱回転(サイクロンファイア)】」「【紅蓮神楽(グレンカグラ)】」—————————————————


今まで二人がいた場所に炎の魔法が雨のように降り注いだ。

扉が段々と熱を帯びて、赤黒く輝く。


「次だ!水もしくは氷の魔法を放て!」

「【氷塊圧爆(プレッシャークール)】」「【海渦戦争(ウォーサイクロン)】」「【氷雪嵐(ブリザード)】」——————————————————


赤熱した扉へと次は水と氷が殺到する。

放たれた魔法は高温になっていた扉を急速に冷やし、急激な膨張と収縮の繰り返しで脆くなっていた。


「よし!今扉は脆いぞ!修復する前に壊すぞ!」


輝の激励に、彼等は魔法を放つという事で返答した。

風と土の魔法を中心に扉へと殺到し、遂にその扉を壊した。


「破ったぞぉ!」


雄叫びのような響く声を達也が上げる。

その声に被せるようにして、扉が奥へと倒れて轟音を上げる。

扉の奥へと足を踏み出した瞬間、薄暗い広い部屋に急に炎が灯った。

ポーションをそれぞれ嚥下しながら扉に入る。


「肉くぅぅっ!!」

「「「「「は?」」」」」


いきなり天井から落ちて来た魔物に全員が意味が分からないといった反応を示した。

それは外見が有名な漫画のキャラだったからだ。


「キ、キ○肉マンじゃねぇか!!」

「肉肉肉ぅぅっ!!」

「っ!全員避けろっ!!」


意味不明な鳴き声を上げながら、巨大な拳を振り下ろしてくる魔物から慌てて遠ざかった。

振り降ろされた拳は地面を砕いて、瓦礫が周囲に飛び散る。


「あっぶねぇっ!!これじゃあ巨人の魔物じゃねぇか!

四足歩行用の魔獣用の対策は無駄じゃねぇか!」

「一先ずパーティーごとに固まって攻撃を避ける事に集中しろ!

踏みつけが来るぞ!」


注意を呼び掛けてすぐに移動する輝。

振り降ろされた脚をヒット&アウェイで斬りつけるが、ゴムの様な弾力のある皮膚に押し負ける。


「斬れないっ!」

「落ち着け!どこかに必ず弱点がある筈だ。」

「ニィィィィクゥゥヴヴッッ!!」


ブオンと腕が風を切る音がなり、巨大な拳が振り降ろされる。


「ハアッ!」


輝が光を纏う剣でその拳を迎撃した。

脚が地面にめり込み、クレーターの様に陥没した。

彼等は地球にいた頃とは生物的に別の生き物と呼ばれるくらいには強くなっているが、それでもこの威力を受けて無事でいられるとは思えなかった。


「ニイィィグヴゥゥ!!」


攻撃を初めて防がれた魔物はバッと音がなりそうなポーズを取りながら、高く、天井ギリギリまで跳び上がった。

空中で身体を半回転して大の字に手足を広げたまま落ちてくる。


「ボディプレスだ!」


誰かが叫ぶと同時にその巨体に相応しい重量が降って来た。

その重量感に足がすくんだか、避けきれずに何人かがその巨体と地面に挟まれていなくなった。


「みんなぁ!!クソォッ!!」

「柊!大丈夫だ!まだ全員生きてる!」


輝を落ち着かせるために確証もないのに、誰かが叫んだ言葉を無視して丁度目の前にあった顔に向かって光を放った。


「グォォゥゥヴヴ!!」


顔に直撃すると、痛みに悶えた様なくぐもった声を出した。

ズリズリと腕を地面と擦りながら、腕で顔を守る。


「コイツっ!顔が弱点だな!」


輝が腕と地面の隙間から攻撃を加えようとすると、サッと俊敏に腕を動かして隙間を隠す。

何人も輝に続いて攻撃するが、両腕を使った防御に全て防がれてしまう。


「クソッ!!みんな下がるんだ!!」


巨人の魔物は片腕を顔から離して、立ち上がろうと地面をしっかりと支える。

片腕を離した隙に、顔に向かって攻撃が放たれるが、ほとんどの攻撃が片腕で塞がれてしまう。


木樹縛(ウッドバインド)!」


硬質な地面から長い蔦が生え、顔を庇っていた腕を地面に押しつけた。

そのお陰で魔物の特徴的なたらこ唇が顕になる。


「今だ!俺に続け!!」


輝が怒りのままに直接顔を斬りつけると、血がまるで滝のように噴き出す。

ビチャビチャと返り血を浴びて、輝はハッと、正気に戻る。


「うわぁっ!?」

「ヒィッ!!」

「キャアアアアァァァッッ!!」


魔物が浮かべた痛みの表情とその後すぐに浮かべた憤怒の表情に思わずクラスメイト達は悲鳴を上げ、輝は息を飲んだ。

ブチブチと木を無理矢理引き千切って、立ち上がった魔物は脚を大ぶりに振って一人恐怖に立ち竦んでいた女子生徒を狙った。

ギュッと恐怖に負けて、目を瞑る女の子。

しかし思っていた程の衝撃は無く、身体が何かに包まれて宙を舞っているのだけが分かった。

恐る恐る目を開くと口から血を少し垂らしたモデルの様なイケメン顔がそこにあった。


「あっ‥‥‥!」


その顔は痛みに堪えながらも、無理に笑顔を作ったような違和感があって、彼女は輝に救ってもらったのだと遅れながらに認識した。


「ひ、ひか‥‥る‥君?」

「ぐぅぅっ!!」


輝は苦しげな声を漏らして、剣を杖代わりにして立ち上がる。


「あ‥‥‥ヒ、【回復(ヒール)】」


彼女が咄嗟にかけた回復魔法も輝の体力を少し回復させただけで全快にさせるには至らない。

震える足と手を奮い立たせて立ち上がる輝の背を見て彼女は震えた声で彼へ涙を流しながら問い掛ける。


「何で‥‥‥?何で私みたいな鈍まを‥‥‥こんなに‥‥なるまで‥‥‥。」

「‥‥‥そんな事決まっているだろ!

君は大切な人だからだ!自分の事を卑下するな!俺は君の良いところをいっぱい知ってる!

引っ込み思案だけど気遣いが出来て、周りに目を向けて他人に優しさを分けてあげられる!!」


自分を貶めるような発言をした彼女に慟哭する様に輝は叫ぶ。

その様子と言葉に彼女は自分が全てに認められたような錯覚を感じた。


「だから!俺について来い!」


そう言って、輝は自らの手を彼女の前へと差し出す。

未だに戦闘音は続いていたが、輝と彼女の耳には最早お互いの声以外の音は入って来なかった。

少しの時間ジッと無言で見つめ合う二人

背後でキ○肉マンの攻撃で空に舞う男子達


「こんな時にラブコメしてる場合ですか!」


竜介が叫ぶと同時に地面から大きく揺れる。

それで多少は態勢が崩れても倒れるような無様を晒すような人物は勇者達の中にはいない。


「大丈夫です!この魔物の攻撃パターンは殴打と蹴り飛ばす踏みつけ、そしてボディプレスのみです。」


竜介はキ○肉マンが単純なパターンで動いている事に気付いて様子を伺っていたが、色々試してみてもパターンに変化は無かった。

だから大声で全員に知らせた。


「そんなこたぁ分かってんだよ!!こいつそれ以外の攻撃しないんだからよぉ!!」

「パターンと言ったでしょう!

腕で攻撃するした後は殴った地点から10メートル離れた位置に蹴りが来ますよ!」


竜介が言ったとおり、キ○肉マンは地面を殴ると10メートル離れた場所を蹴りが入った。


「おお!!やるじゃねぇか竜介!!

パターンを先読みして攻撃も全弾命中してんじゃねぇか!!」

「竜介!俺にタイミングを教えてくれ!

お前が考える最高のタイミングで俺の最高火力を叩き込む!」


輝が信頼しきった表情で竜介に話し掛ける。

その表情を見て、竜介は呆れた顔を浮かべると一瞬で気を引き締めた。


「最大火力を活かすにはやはり弱点に集中的に攻撃した方が効率的ですね。」


一言そう呟くとキッと自分の身体よりも遥かに巨大な相手を見据えた。


「全員聞いてください!」


竜介は声を張り上げて全員に伝わるように魔法まで使って拡散する。

彼等は器用に戦闘をこなしながら竜介の声に耳を傾ける。


「ダメージが通りやすい箇所は多々有りますが、それでも一番通りやすいのはやはり顔の部分です。

だから私の指示に従って最初にやったように倒してしまいます。輝はそこを狙って顔に最高の攻撃をブチかましてやってください!

頼みましたよ!輝!」

「ああ!任せろ!」


輝が大仰に頷き、穢れのない目で真っ直ぐ魔物を見据える。

それを見て竜介は後ろへと下がり、叫ぶ。


「盾戦士は次に来る殴打をどうにかして止めてください!その隙に私達魔法使いが片足を攻撃します!」


竜介が言う盾戦士とは大小様々な盾を持って敵の攻撃から仲間を守ったり、敵からの敵意(ヘイト)を稼ぐ役目を持つ職業だ。

盾戦士になっている彼等は盾のような地味な職業を忌避していたが、今勇者パーティー筆頭の一人に頼りにされているという状況に優越感を覚えていた。


「よっしゃぁ!!パンチが来たぞ!構えろ!」


グッと腰を下ろして一列に並んだ彼等の姿はまだこの世界に来て一ヶ月も経っていないのに熟練さを思わせた。


「ハァッ!!」


盾戦士達が弾き(パリィ)で殴打を弾き飛ばす。

拳を弾かれたキ○肉マンは腕ごと後方へ弾かれ、態勢を崩す。

だが、踏み留まって直ぐに態勢を立て直そうとする。


「今です!重心のある右脚を後方から魔法の一斉掃射!!」


指示どおり魔法が脚に当たり、更にバランスを崩した。


「グゴオオォォッ!!!!」


先程の巫山戯た鳴き声とは違う強烈な圧力さえ感じる獣の威嚇。

化けの皮を脱いだ魔物の顔が醜く歪み、鋭く並んだ歯が彼等を噛み殺さんとばかりに存在感を主張している。


「っ!!怯むなぁ!!更にバランスを崩すんだ!!」

「あ、ああっ!!」


気合を入れ直した彼等は再び脚へと苛烈な攻撃を仕掛けた。

グラリと巨体が揺れ、倒れるかと思いきや、ドンッと重々しい音がなり響かせながらその巨体が宙へと舞う。


「退避!!落ちる場所を見極めて回避に徹するんだ!

輝!!落ちてきたところを狙うんだ!!」

「ああ!!皆の想いは絶対に無駄にはしないよ。」


全員が上手く退避に成功したところで上から影が刺し、巨体が降って来た。

竜介たちの企みを察したのか魔物はその巨体の重さを活かして、両腕を地面に叩きつけた。

腕が地面へとめり込み、地割れが彼等の立っている場所まで達し何人かが地割れへと落ち掛ける。


「みんなぁっ!?」

「輝!!だめだ!」


思わず駆け出そうとする輝を竜介が腕を掴んで止める。

輝は咄嗟に振り払おうとしたが、竜介の手は固く強く握り締められていたせいで振り払えなかった。


「竜介!!離してくれ!!みんなを!直ぐに助けないと!!」

「駄目だっ!!」


甲高く引き留める声を出す竜介をギリッと睨むと口から血が垂らしながら凄まじい形相で何かに耐えるようにしていた。


「っ!今しかタイミングが無いんですよ!!」

「だけどっ!!」

「今!魔法で拘束している時間が最後のチャンスだ!」

「‥‥‥‥っ!」


奥の方で苦しそうに魔力を注ぎ続けている仲間を見て、顔に浮かべていた罪悪感が一層深くなる。


「輝!!」

「・・・駄目だ。俺には今にも死にそうな仲間を見捨てるなんて出来ない!!」


 輝は猛然と駆け出し、この魔物の弱点である顔の部分を素通りして行った。

突如として輝の身体に光が灯った。

その様子にも気付かず輝はギリギリのところで踏みとどまっていた仲間達を救出していた。


「輝!早くして下さい!!」


竜介はその光を訝しみながらも怒鳴るように急かす。

彼も魔法で拘束しているからか、限界が近い事を理性では無く感覚で悟っていた。


「グッ!間に合え!!」


バキッと言う音がほぼ同時に聞こえた。

それは輝が魔物の骨を砕いた音と、魔物の腕が一部の拘束を破った音であった。


「ニィィィィクゥゥヴヴッッ?!???!」


自由を取り戻した魔物がまた巫山戯た鳴き声を上げる余裕を取り戻した魔物にそのまま10分も掛からず全員を殴り殺され、部屋から消え去った。

ちょっとふざけ過ぎたかな〜とは思ってます。

何となく勇者君っぽい描写がしたかった!!

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