元魔王に誘拐されました。
さて、二度目の異世界転移を経て1週間経った。
今日は初めての実践訓練をするために整備された魔の草原に行くことになった。
魔の草原とは、魔物がはこびる広い大地でそこから魔物は基本的に出てこないが、中心に近づけば近づくほど強力な魔物がいて、未だに中心にたどり着けた者はいない。
そう言うことで魔の森の前にいるのは異世界人全員と10人の兵士、そして騎士長のガランドだ。
「いいか!お前達!お前達は俺が直々に育てあげて強くなっている。危険が近づけば俺達が対処するので安心して本物の魔物と闘ってこい!」
大きな声で全員を鼓舞する。
その効果は先ずは騎士、そして俺たち男子にまで移ってきた。
「ウオオォォォ!!やってやるぜー!」
「はあっはっはっは~!任せろ!守ってやるから安心しろ!」
近くにいた動物は尻尾を丸めてパタパタと逃げ出し、大気がビリビリ震える。
その様子は正に圧巻であった。
どっかの狂信者の集まりかよ‥‥‥。
「全軍進めーー!!!」
途端に強化された身体能力で地響きと共に見事な集団行動だ。
魔物が出ては狩り、魔物が出ては狩り、を繰り返した。
わあ、すごい。(棒読み)
若干引くぐらい凄かった。
そして、中心までの20%とされている部分に着くと、横に目一杯広がり底が見えない位深い崖があった。
異世界組がその大きさと深さに絶句しているとと、「ここは深淵の崖、かなり深くて地下は空気も薄く、強力な魔物が何匹もいるらしいから落ちたらまず助からん。助かったとしても戻ってくる手段は無い。近づくなよ。」とガランドが言った。
確かにこの崖から落ちたら身体能力、魔力共にこの世界の兵士よりずいぶん上な異世界チート組でも確実に死ぬだろう。
「この崖を越えると魔物の強さが格段に変わる。よって我らは崖の手前にいる魔物を倒すことにする。4人グループに別れろ!1グループにつき騎士が着く。」
クラスは40人丁度なので均等に別れることができる。
俺のグループは姉ちゃんは当然として、幼なじみの美紅、そして美紅と仲の良い名前を覚えてない女の子だ。(全員美人)
端から見れば俺は美少女ハーレム作ってるとても羨ましくて妬ましい存在だろう。さらに、俺は落ちこぼれだから、さらにムカつくのだろう、憎悪と殺気の視線が俺一人に向けられている。
恨み怨念の言葉をブツブツ喋っている。
呪いのチート持ちいないよな?
そして、姉ちゃんの「ゆぅ~~君は私が守ってあげる~えへへへ。」という発言や美紅の「全く、優は皆より戦えないんだから私が守ってあげるわよ。」という発言より、女子からも、色で表すと黒い視線がグサグサ刺さる。
「大丈夫だって、先ずは自分の心配しなって、ヤバイことになる可能性は姉ちゃん達の方が高い気がする。」
実際ここら辺にいる魔物に負ける要素が皆無なので何かがあるとしたら姉ちゃん達の方だが、召喚された者は来るときにチートを授かるので、苦戦することはあれ、危険な事にはならないだろう‥‥‥。
ちなみに俺の昔から持つチートは神眼。
簡単に言うと、全てを見れる。
その全てを言うのは無理なのでその機能の1つを言うと、ステータス確認である。
ちなみに、姉たち異世界組の今現在の平均は‥‥‥
=====================
Lv 25
体力 2200
攻撃 2500
俊敏 1800
防御 2200
魔力 1500
魔耐 2300
=====================
だった。
そしてここら辺にいる魔物のステータスの平均は‥‥‥‥
=====================
Lv 24
体力 1800
攻撃 1300
俊敏 1500
防御 2000
魔力 800
魔耐 1000
=====================
このステータス差に加えて、一人一人にチートが備わっている。
俺の魔力が少なくても国を追い出されない理由がチートで、それによって逆転もあり得るからだ。
一般人は全て300~500。
騎士は、Lv30~60 ステータス1000~3000という風にこの中に大体収まっている。
ここに来ている騎士は全員精鋭でLv80を越して、ステータス2500以上の者ばかりだ。
そもそもステータス2000でも100キロの岩を素手で壊せるのだ。
俺?俺は秘密だが10000を越えると言っておこう。
Lv上限は普通の人間は100までと言われているが、異世界人のLv上限は5000だ。
そもそも強くなれる度合いが違う。
しかし何事にも例外があり、Lv上限に至ったものである条件を満たせば進化することが出来るのだ。
つまり経験値を取得すればするほど、ほぼ無限に強くなる。
この世界で勇者が英雄と詠われるのは、自分達が届かない領域に足を踏み入れた人物(勇者)の戦闘を見たからである。(と聞いた)
こうして、姉たちを見守りながら(見守られながら)弱い魔物を駆逐していった。
苦戦しているところもあったが、俺の班は会話する余裕があった。
他3人は平均より高いからだろう。
「優君疲れてな~い?」
魔物に止めを刺し、戻ってきた姉ちゃんが聞いてきた。
「うん、大丈夫だって。余所見は厳禁だよ姉ちゃん。」
凄い。魔物の殺害に関する忌避関が全くない。
俺が最初に魔物を殺す時はかなり躊躇っていた。
魔物殺し、皆で殺れば怖くないってか。
順調にレベルアップをしていき、昼休憩に入った。
騎士達が持ってきたこの国の料理を堪能した。
この時も班で別れて食べていたから、姉ちゃんが、あーんって言いながら食べさしてきて、美紅も頬についた何かの肉を取って口にいれたときは周りからの殺意が一点に俺に目掛けて来て、ガランド騎士長がその殺気を感じ取って「何があった!?」と走ってきたりして、俺達の班を見て、ああ、そう言うことか‥‥‥。とあきれ混じりに苦笑していた。
休憩の時間が終わり、時間が経ち、暗くなってきた時に、ピィィィとけたたましく笛が鳴った。
笛が鳴るのは集合する時間になった時か、もしくは´緊急事態`が起こった時である。
遠くを見ると、この付近の魔物とは一回りも二回りもでかい軟体生物、スライムがいた。
「スライムには物理攻撃が一切効かない。魔法に馴れていないお前らには攻撃力が足りない!全員避難せよ!」
ガランドが金切り声をあげる。
明らかに焦った口調に異世界組が慌てて逃げる。
模擬戦で俺以外は対決して惨敗している成果が出たのかここで調子に乗る馬鹿はいなかった。
騎士団の教育の仕方に場違いな称賛を送っていると、スライムは俺を標的にしたのか、でかい体とは思えないスピードで迫ってきた。
「優君!危ない!」
姉ちゃんが此方に駆け寄ってこようとして、何人かに止められている。
スライムが近づき、モゴモゴッと動くと大量の酸を吐き出してきた。
俺はそれを危なげなく避け、赤色相当の魔術を数度放つ。
「キュアァァギャァァ!」
多少は効いたようだが、体を震わせ、触手のようなものを、縦横無尽に振り回す。
弱いと擬装しているので、ジリジリと後ろに追い詰められる振りをする。因みに後ろは崖っぷちである。
「まずい!総員突撃!彼を助けろ!」
いやー、まずく無いんですよね。
焦っている騎士長に内心で苦笑しながら、更に崖側に追い詰められる振りをする。
そこで俺はスライムを背に、今クラス全員が出せる100メートル10秒の速さで崖側に向けて走り出す。
そして崖を大ジャンプ。
擬装中なのでわざと届かない位置に落ちる強さで跳んだ。
クラスの全員が俺が落ちると思ったのか顔が青ざめて絶句している。
俺はそのまま谷底に向かって魔法を放った。
ボール型のような攻撃用でなく推進力にも使える連続で爆発する魔法。
ボボッボッッボッボッ、とロケットのように炎が出され、崖の縁に手をかける。
周りがほっとしたが、新たな魔物が俺に向かって走ってきている。
崖の向かい側なのでスライムと同程度か、それ以上に近い。
回りからすれば新たに脅威が襲ってきたように見えるだろう。
最初に俺の近くについた猿の魔物が俺の崖に引っ掛かった俺の腕をつまみ口の上まで持ち上げた。
ニヤニヤと俺の品定めしている。
全く問題は無いけど。
「おおおおおぉぉぉっ!」
大袈裟に叫びながら、猿の顔の前で掴まれなかった右手を前に突きだし、「ファイアーーー!」と叫んで、猿に効く威力まで引き上げ、顔にぶつけた。
「グアァァァァァ!!」
猿は顔を押さえてのたうち回り、持っていた左腕を離した。
そこは当然崖の上にぶら下がった状態だったので‥‥‥落ちた。
んっ?あれ?何か下の方で何か光ってる。
落ちながら近づくと転移魔方陣だった。
「優ーーーくーーん!!!」
上で崖に飛び込もうとして他の人に止められる姉がいたがそこは無視!
すると魔方陣から何か飛び出してきて、俺に抱きつきながら崖の上に飛び上がった。
それは凝縮された美‥‥とでも形容すべき美人だった。
胸は服から溢れんばかりの巨乳で、腰は見事にくびれ、血色がよく張りのある皮膚で艶かしい肢体の女が俺を抱き抱えていた。
だが、背中にはコウモリのような翼、尖った犬歯を持っていた。
姉たちが呆然とする一方、俺も混乱していた。
あれ?俺はここで死んだことにして自由に行動できるようになり、姉には後から生きてることを伝えればいいかな~、何て思っていたら何故か超美人に抱き抱えられている。
「なっ?何者だ!?」
騎士の一人が混乱しつつも問いかける。
それを無視してその女は俺に熱い口づけ。
舌を絡めて濃厚なキスをしてきた。
「「「「「!?!!????。」」」」」
異世界召喚組が狼狽えてオロオロしていたり、キスシーンを瞬き1つせずガッツリ見てたり、驚きながらも嫉妬と殺意の視線を向けて来る。
それは今の俺にとってはどうでもいい。
「んっ‥‥‥んっんんんっ‥‥。」
舌をだしたまま俺から唇を離す。
舌の先には、色気の漂う唾液の糸が架かっていた。
真っ直ぐ見て、誰かは直ぐに分かった。
確かあれは昔、王族の依頼で魔王が新たに現れているかを調べるために魔王城の中に押し入ったときだった。
俺は単身、城に乗り込み、襲ってくる奴等を殺さずに全て無力化していた。
あの時は召喚したやつらの事を信じるかどうか判断できなかったので、魔王に話を聞きに来たというのもあったが、城に住み着くモンスターは問答無用で襲ってきたので軽く相手をしつつ順調に進んでいった。
玉座の間にたどり着き、そこにいたのがこの超美人こと、魔王リーサウェルだった。
リーサは真面目に敵である筈の俺の話を聞いてくれて、流石は魔王と呼ばれるだけのことはあった。
数日間話し合って、最後には嬉々として闘った。
その時からか、魔王は‥‥‥この超美人は俺に、惚れた!、とか言ってきた。
普段は高貴な令嬢のようだが恋愛事となると、のらりくらりと猛烈アプローチをかわしながら、人間には魔王城の近くに行けば必ず死ぬと集団催眠をかけて魔王はいなかったことにして、‥‥‥帰った。
「なっ!?吸血鬼だと!?上位魔族がなぜここに!?」
かなり混乱しているがそれもしょうがない。
吸血鬼とは、魔族の中でも上位に位置する種族であり、吸血鬼が魔王になることも少なくない。
そして、もし国に吸血鬼が現れたら国が総力をあげて討伐、殺害し、それでも国に重大な被害をもたらす"災害”として認識されている。
そんな魔物が国の近くに現れただけでなく、いきなり現れて俺との熱いキスシーンを長々と見せつけるという奇行をしたのだ、混乱するわけだ。
とりあえず俺は気絶した振りをした。
「フフフッ、優は私の物だ。矮小な人間程度が私の物と楽しそうに会話することすらあってはならないのよ。」
俺はお前の物ではない‥‥‥って言っても俺が喋れなくて、自分に逆らえない状況を昔から虎視眈々と狙っていたからな。
その上、知らない人間が俺といると嫉妬深い。
恋愛に関することは厄介過ぎると言っても過言ではない。
「ちょっと!優くんに何するつもりよ!」
姉ちゃんが突っ掛かるが相応の実力が無いと話を聞いてすらもらえない。
案の定姉ちゃんを無視して、
「ふふ、優行くわよ。私が存分に可愛がってあげるわ。ベットの上でね。」
あー、たしかあの城は固かったが壊せないほどでも無かったな、だがそれだと追い付かれる。
比較的柔らかい窓を壊すか‥‥‥。
俺の思考が逃げる方法を模索していく中で、騎士団が魔法を放ってきた。
俺が現実逃避気味にそんなことを考えていたら。
「死ねええ!吸血鬼!」
「くたばれ魔族が!」
「消え去れ!」
騎士が様々な魔法を放ってくる。
異世界組は俺もいることからか魔法を放ってこない。
いつもの殺気が籠った視線は一体何だったんだ?と言いたくなる。
頭で思ってもいざ実行に移すとなると元の世界の価値観が抜けきっていないのだろう。
だが、全て、あと数センチの位置で無力化された。
昔戦ったときも魔法がこの不可視の障壁に防がれて、破るのに苦労したものだ。
「なっ!?化け物が!」
どうでもいいけど、なっ!?言い過ぎじゃない?
それはさておき、うるさいからか何か最上級殲滅魔法を放とうとしているんですが!
俺は慌てて昔行った魔王城を思い浮かべながら転移魔法で飛んだ。
一瞬で景色が殺風景で薄暗い城に変わった。
「あら、残念ね。でも優が戻ってきてくれたから許してあげるわ。」
あれ?また景色が変わった。
リーサが転移魔法を使ったのか。
ここは‥‥‥寝室!?
「優‥‥‥、貴方が戻ってくるのを30年も待ったのよ!
今日こそは一緒に寝てもらおうかしら。」
う~ん、リーサは美人で俺に好意を向けてくれて、30年も待たせて罪悪感もあるし、俺も好きだし~~~、うん、断る理由がないな。
でも、いざするとなるとな~~。
「待て待て、今日は一緒に寝てやるが、何かする訳じゃないよな?」
「あら?男と女が寝床で一緒にすることと言ったら1つでしょ?」
間違いなくヤるつもりだ。
「はあ~、全く、先に手をうっておいて良かった。」
途端にリーサの身体に魔方陣が浮き出てきて、そこから鎖系最上位拘束魔法、麻痺系最上位魔法、弱体化最上位魔法(その他、行動阻害系魔法多数)がかかった。
「これは‥‥‥まさかあの時に!?」
俺がキスされたときにかけておいた物だ。
更に俺の舌テクで楽しませたときも、舌で簡易魔方陣を描いていた。
ここまでやっても多少動けるのだから魔王とは厄介極まりない。
「残念ですが、次からは油断しませんわ。
覚悟しておいて下さいね。」
満面の笑みで微笑んでくる。
こんな反応されるとドキッとする。ただでさえ鎖で縛られてる様子は服が身体に押し付けられて体のラインが良く分かり、‥‥‥ってなに考えてんだ俺は!
ともかく今日は早いが、寝ることにした。
30年も会えなくて寂しかったのか、縛られたまま甘えてくる。
「フフフッ、明日は私と一緒に愛し合いましょうね。」
思い(重い)言葉が聞こえた気がするが、割愛しよう。
リーサを抱き枕みたいに抱きながら眠りについた。
柔らかくて、暖かいリーサは極上だった。
ストックがぁ~~無くなってしまった~!