ダンジョンマスターの懇願
「優にはダンジョンを増やしてもらいたいんだ。」
「‥‥‥はぁ?」
何言ってるんだコイツは。
そんな感想を抱きながらその言葉を発したヤツを見る。
ダンジョンとは強力であると同時にダンジョンの核を壊されたら死んでしまう諸刃の剣でもある。
一体どういう意味だ。という思いを乗せてやつを睨みつける。
「勘違いしないで欲しいんだけどさ、あくまで、僕のダンジョンを新しく他の場所で作って欲しいだけだよ。」
それを聞いて少しずつ肉を齧りながら思考する。
【思考速度上昇】【思考加速】【高速演算】が開封されました。
脳内に響くアナウンスを無視して考え続ける。
ダンジョンを他の場所で作るということのメリットはDPとヤツが呼んでいるポイントが貯まることだ。
ポイントはそのダンジョンの核に貯まるので、俺は使う事ができない。
パクパクッゴクン
新たに運ばれて来た肉をパンに挟んだだけの物を食べる。
それは俺にメリットが無いので、恐らくだが元の劣化バージョン機能付きの擬似核を渡してくる筈だ。
そうなるとダンジョン権限の一部を俺に移譲するということになる。
それは支配者側からしたらかなりのデメリットだ。
多分俺なら貰ったダンジョンを、時間は掛かるがダンジョンの権限を乗っ取ることも可能だろう。
そしてヤツはそれを分かっている。
ゴリガリゴキッ、ポリポリッ
また新たに運ばれて来た竜骨の茹で焼きを噛み砕く。
ヤツには他にも危険時に逃げる場所としてや、魔獣や魔物の訓練場やストックとしてメリットがある。
「それが俺に何のメリットがある?」
「ウフフフ、大体分かってるくせに〜。ダンジョン支配者権限の一部の移譲とそこのダンジョンのすべての権利さ。
あ、だけどここの近くに作るのはは駄目だよ。
下手な大きさだと勝手にダンジョンが取り込んで階層を増やすためのDPにしちゃうから最低でも他国に作ってね。」
ヤツは怪しげな微笑を浮かべる。
予想と違って権利の全部を渡して来た。
「そのダンジョンにはお前が召喚した魔物達は送還したり出来るか?」
「出来ないよ。逆にこっちに送るのも無理だけどね。
転移陣を作ればいいけど、結構DP使うんだよあれ。」
ハハハと愉快そうに笑う。
本当のことかは分からない、だがダンジョンを持っていても不都合は無さそうであった。
もしヤツから何か仕掛けてきたとしても、返り討ちにすればいいだけだ。
「分かった。自由に使わせてもらう。
それで作る上での条件は他国までくらいの距離離れてたらいいんだな?」
「いやー、ズルい言い方するね〜優は〜。
それだと上空とかもありになっちゃうじゃないか。
あくまで人が頻繁に来れる場所、作った後に地形を変えるとかも無し。
5年以内の時間制限付きなら、ある種族だけとか一定のレベル以上みたいな制限付けてもいいよ。」
ちっ、とりあえず思惑を潰してやろうと思ったのに、すぐに見破られたか。
パキッ、フッ!!
噛み砕いた骨を溜息に混ぜて吹き矢のように飛ばす。
それを何事も無かったかのように残像を残して躱す。
「分かった。」
「はい、これがダンジョンの擬似核だよ。」
ポイッと軽く透明なガラス玉のようなものを投げ渡された。
水晶のようでもありながら結構な魔力が込められている。
とは言っても核の中で巡っているだけなので、ほとんど魔力を感じない。
「綺麗‥‥‥。」
零華が爛々と目を輝かせている。
この眼は金の亡者に金の延べ棒を、今にも空腹で死にそうな人に食べ物を、目の前に持ってきた時くらいの執着が見える。
「あ〜れ〜?零華ちゃん。もしかして特殊な家系?」
「っ!」
一気に執着心に染まっていた目が冴えて、バッと俺の後ろに隠れる。
てか家系って関係あるのか?
さっきの目に。
「優は知らなくても仕方無いけど、特殊な能力を持ってたり異常な強さだったりする子達は大抵、先祖が英雄や勇者、君と同じ異世界人だったりする。
他には魔王に呪いを受けたり、神獣に加護を貰ったりしてたりね。
すると加護を与えた側の影響が子孫に受け継がれていくんだよね。
神狼の加護を受けると髪の毛が銀色になったりとか。
加護を直接与えられた人物は影響は少ないんだけどね。
そのせいで獣人の中には自分達が神獣に選ばれし、高貴な一族だ!なんて言ってる傲慢な一族とかいるしね。」
そうか。俺はどちらかと言うと加護を与える側だから。
今の俺は正道好きからしてみれば勇者舐めてんのか?って言われる非道な行いとかしてるし。
今の状態でも奴隷所持者な時点で勇者(笑)だ。
この世界で女の奴隷を所持してるのは、有り余る性欲を発散させるために貴族が持っていることが多い。
勇者がもし奴隷を持つとしても、王国が選りすぐった特別な選民奴隷というのを提示されるか、誘導される。
昔も勇者達の要求は基本的に呑むつもりの方針だったけど、王家のプライド的に勇者が奴隷を持つのが反対された。
昔召喚されたのは別に俺だけでなかったが、30歳くらいのおっさんや70歳のお爺さんお婆さんも奴隷を持とうとしてたくらいだしな。
腐ってる思想の持ち主が多かったから二人のイケメン奴隷を、ピーーーさせたり、ピーーーーさせたりしてハァハァしてた。
「そうなると零華ちゃんは綺麗な物を集める習性を持った竜とかの加護かな?それか祝福。
でも結構影響受けてるっぽいし〜加護かな。」
「なるほどな。俺も誰かに加護を与えてみるのも面白いかもな。」
またまたブーさんが運んで来た白米にダンジョン原産の特製卵を割り、地球から持参した醤油をピッと掛けて、カッカッカッ!!と軽快な音を立てて食べる。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「ん?どうした?」
「優様?それでもう十人分はあるのでは‥‥‥?」
「アハハハ、優が加護を与えたら子孫は大飯喰らいになりそうだね。」
‥‥‥そんなに喰ったか?俺?




