side雪菜①
王都に出現した新しいダンジョンに入るための準備をしていた。
「雪菜さん〜。準備できました〜?」
「うん。ちゃんと食料も水も回復薬も入れたよ。
防具もちゃんと着けたよ。」
結花ちゃんが間延びした声で聞いてきた。
緊張感の欠片もない声であるが、美紅ちゃんが言うにはいつも通りらしい。
優くんが居なくなって塞ぎ込んでしまう私にはその性格が少し羨ましい。
これから挑むダンジョンは騎士長が言うには魔族が何かしら介入していて、危険度がどの程度か分からない。
なので最悪の事態に備えて私達の装備は王国でも屈指の物を承り、騎士長さん直々のトレーニングメニューでレベルを上げた身体の動かし方を習ったりしていた。
同じくらいの身体能力を持つ相手でも身体の動かし方を学んでいるかいないかで全然違う。
それを王国の騎士達と模擬戦をして実感した。
「それにしても勇者しか入れないって何かそこはかとなく怪しいわね〜。
私達とこの世界の住人とは身体構造的には何ら変わりなさそうなのに、魔力ってのが関係してるのかな〜?」
確かに怪しいけれど、それを気にしても何かが分かるわけでもないので、私達に出来るのは最大限警戒するしかないと思う。
「そろそろ集合の時間ですよ。勇者様方。
もう大半の勇者様が修練場に集まっておられます。」
何時の間にかメイドが扉の前に立っていた。
「い、いつの間に!?扉を開ける音なんか全くしなかったんだけど!?」
「メイドですので。」
「いやいや!使用人は極力音を立てないようにするっていう理屈は分かるんだけどその扉って私が開けると必ずギギッて音が鳴るんだけど?」
「メイドですので。」
頑なにメイドだからと繰り返すメイドさん。
一応、周りに気を配っていたのに全く気づかなかったことに驚いた。
「時間が迫っておりますのでお急ぎ下さい。
柳様、小野様。」
「は〜い。」
「分かりました。」
王宮のメイドとは?と言う疑問を一旦棚上げして、私達は荷物を持って修練場へと急いだ。
修練場には既にかなりの人物が集まっていた。
「あ!雪菜さん。」
美紅ちゃんが入って来た私達に気付いて、ゆっくり歩いて近づいてくる。
その表情はどこか嬉しそうだが、困惑が混ざった表情をしていた。
何かしら不思議なことが起こっていると言う事がその表情から理解できた。
「どうしたの美紅ちゃん?」
「何かあったの?美紅?」
私達は同じ思考に至ったらしく同時に美紅ちゃんに疑問を呈していた。
「ええ。私達と同じくらいの女の子が、修練場で皆に何かしているの。
ガランドさんがいるから、危険な事じゃないのは分かるのだけど‥‥‥。」
美紅ちゃんは顔見知りなところがあるので、知らない人がいるのは落ち着かないのだろう。
「ともかく行ってみるしかないわね!
私達に何かするつもりなら容赦はしなければ良いし、そもそも相手がどんな人物なのか全く分からないのだしね?」
「そうよね‥‥‥。先ずは行ってみましょうか。」
近づいて人混みを身を捩らせながら抜けると、綺麗な金髪の女の子がいた。
着ている服は教会の修道服で、何故だが守ってあげたくなる雰囲気を纏っている。
聞いていた通り、私達とそう変わらない年齢、20代に達していないくらいの年齢であろう。
「ありゃ〜、想像してたより無害そうね。」
「一体どういう姿を想像してたのよ?結花は?」
結花ちゃんは恥ずかしそうに頬を赤く染めながら気まずそうに笑う。
「え〜、目つきの悪い鋭い雰囲気の色黒女かな?」
「結花ぁ‥‥‥。」
美紅ちゃんにジト目で見られた結花ちゃんはサッと目を逸らす。
そこで騎士長が大声を張り上げた。
「よし!全員揃ったな!
早速だが、先ずはお前たちも気になっているであろう彼女の紹介をしよう!
彼女の名はフィリア=スピリチュアル。教会の聖女と呼ばれている方だ。」
せ、聖女だとっ!?
と言いたげな雰囲気が男子の中で膨れ上がり、それと同時に彼女への興味が更に強くなる。
一体なぜそんな人がここに居るのだろうか?
聖女と言えば回復魔法に長けたイメージがあり、ふんわりとした汚れ一つない白い修道服から見ても、戦闘に長けている訳でもなさそうだった。
そう言われると彼女の雰囲気は聖女と呼ぶに相応しい。
「いいかお前達!聖女とは回復魔法に長けた教会の司教職以上の方が神に選ばれる事によって本物の聖女となった御方だ。
そして聖女様は勇者一人一人が必ず持っているその者だけの能力を大まかだが分かるのだ。」
「っ!騎士長!それってチートって事ですか?」
男子生徒の一人がハッとしたような表情で聞いた。
「そうだな。歴史の中でも様々な勇者が召喚されてきたが、そのちーととやらは数々の人物が口にしている。
恐らくその認識で間違っていないだろう。」
「失礼、ガランド騎士長。ここからは私から説明させていただきます。」
騎士長の前に出てそう宣言する聖女。
「まずは自己紹介をさせていただきます。
私はフィリア=スピリチュアル。アヒカリレ聖国所属していて、リアナ様を主神として信奉するリアナ教会にて大司教の地位に就かせていただいています。」
「っ!」
私の知識が正しければ確か上から2番目に高い地位だった筈だ。
「私はそのちーと。勇者個々に備わっている能力を知覚できます。分かりやすく言えばその人の才能を見抜く事が出来るのです。」
「マジか!」「おぉ〜凄いな。」「お、俺にそんな隠されし力がっ!」「へ〜、そんなのあるんだ〜。」
全員が多種多様な反応をする。
「勇者様方はこれから新しい迷宮に入られるとお聞きしました。
その場では私がお教えした能力が必ずや役に立ってくれるでしょう。」
こうして私達はその能力を調べてもらう事となった。
「貴方は【身体倍加】ですね。単純に身体能力を上げる魔法ならばありますが、貴方様の能力はそれの上位互換と言ったところでしょうか?」
また一人能力を教えてもらった。
既に半数近くが彼女に能力を教えてもらっていて、【反撃】や【竜騎士】や【無敵】と言った名前からして凄そうな能力だ。
私にも優くんを助け出す事の出来る強い能力が欲しい。
そろそろ私の方にも来るはずだ。
「次は雪菜様ですね。雪菜様。両手で私と手を繋いだままゆっくり力を抜いてください。」
言われた通り両手を繋いだまま、呼吸を整えながらゆっくり力を抜く。
そのどこか幻想的な雰囲気に男子生徒の一人がゴクリと喉を鳴らした。
「はい、分かりました。雪菜様の能力は【召喚】ですね。」
「【召喚】‥‥‥ですか?」
「はい、古い文献にはモンスターを使役し、使役したモンスターは離れた場所からでも、何時でも呼び出せる物だと思われます。
流石に一万を超える大群を一気に呼び出す事は不可能ですので制限はあるのでしょうが。」
「そ、そんな‥‥‥。」
「どどど、どうされました!?雪菜様!?」
いきなり膝を付いて倒れ伏した雪菜に狼狽する聖女。
確かに日本にいる時にも動物に好かれやすかったけれど、今私が欲しいのは直ぐにでも優くんを探しに行ける能力だったのに‥‥‥。
「ううん。大丈夫です。
もしかしたら他の人がそんな能力を持ってるかも知れないし。」
「そ、そうですか??すいません。私はまだやることがあるので‥‥‥。」
そして全員終わった後も人の居場所を、それも特定の人物を探すことの出来る能力の持ち主はいなかった。
うう‥‥‥優くん。




