もう何度目かのボス戦闘
重厚な扉が開き、ボス部屋に乗り込むとそこは上の階層と同じように雪が降り積もっていた。
広い部屋に雪の絨毯が敷き詰められて、壁は頑丈そうな岩が積み重なって出来ている部屋だった。
「上とあまり変わりませんね。」
零華はそう言いながらも警戒を怠らない。
それは正解だ。
気配を探ってみれば分かるが、雪の下には生物と思わしき反応が多くあり、虎視眈々とこちらをつけ狙っている。
【光線雨】待機。
30m近くある天井辺りに光の塊が出現する。
そのままバチバチと膨大なエネルギーを溜め込んでいる。
「零華はここで待機してろ。まずは敵を誘き出してやる。」
「分かりました。」
零華は入ってきた扉ギリギリまで下がる。
それを確認してわざと足音を立てて雪の上を歩く。
ザッザッと言う足音に反応して、雪の下から気配が近づいて来て、丁度部屋の真ん中に来るくらいに一気に上がってきた。
その瞬間俺は空へと跳び上がった。
「ガルラグァッ!ゴルアゥ?」
雪の下に潜んでいたのは真っ白い狼だった。
俺は直ぐに攻撃に移った。
【光線雨】発射
雪から出てきた狼共に眩い光線が襲い掛かった。
!!??!?
狼共は攻撃を視認することも無く、何が起きたか認識する間もなく塵と成り果てた。
だが、雪の中に埋まっている大きい気配は消えていない。
レーザーは雪を溶かしながら進んで行くが、新たに雪の中に出現した気配に遮られる。
「溜めが足りなかったか。」
俺はそう一人愚痴りながら、新たに魔法を使う。
【集束砲】
これはレーザーの威力を一点に集中させたもので、レーザーとは比べ物にならない威力を誇る。
それで雪の下の気配に攻撃をする。
それは一直線に雪ごと貫き、下の気配に当たる。
ひどく弱りきった気配からして、致命傷を与えたようだ。
【集束砲】【集束砲】【集束砲】【集束砲】【集束砲】
それを気にせず、取り敢えず死ぬまで撃ち続ける。
「ギッィッ、ガァァッ、ギャァァァッッ!!!!」
何かのスキルで必死の抵抗をしていたが、どんどん防御を削り取って行く。
悲痛そうな叫び声が響くが、それを無いかのように容赦無く攻撃が降り注ぐ。
すると観念したのやら覚悟を決めたのか、雪の上に出て来て玉砕覚悟の突進して来た。
【リフレクト】
一定以下の物理攻撃を同じ威力で追撃を与える光魔法で攻撃を防ぐ。
それと同時に魔力の塊で造った盾を念動で上下左右後ろから叩きつける。
グキャゴチャッと生々しい音を立てて潰れる音が聴こえる。
生々しい肉塊から出た血が雪に染み込んで赤くなって結構グロい。
「うわっこれはやり過ぎちまったかな?」
流石にリアル肉塊。ホラーゲームも真っ青な描写だ。
モザイク必須だよ。
「終わりましたか?ユウ様?」
ああ、零華。
大したことなかったから大丈夫。
軽く零華に声を掛け、グチャグチャになった肉塊を雪に埋める。
流石に匂いがきつすぎた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ
何故かそんな効果音が付きそうな感じで雪が盛り上がった。
その雪は狼の血や肉が混ざっているのか赤黒い。
「ヨグぞワガヤどヌしをタオシたナ!」
うん、ちょっと何言ってるか分からない。
滑舌悪い奴でもここまでじゃないぞ。
名前 無し 種族 スノーゴーレム
状態 寄生中
Lv-----
体力 53000
攻撃 7800
俊敏 6400
防御 3100
魔力 7900
魔耐 2500
スキル
ユニーク
寄生
エクストラ
雪の身体 分裂体増殖 雪魔法Lv10
アクティブ
氷魔法Lv8 指揮Lv5 統率5
パッシブ
求雪Lv5
寄生か‥‥‥。
道理でそんなに強くない訳だ。
寄生は倒しても倒しても直ぐに近くにある物に寄生して蘇る。
どうやらこいつはこの階層にある物全てに寄生できるようだから実質無限ループみたいなものだ。
しかしここの主は相手を嵌め殺すような鬼畜な趣味は無い筈だ。
少なくとも昔は無かった。
となると何処かに何かしらの仕掛けをしているか条件があるのだろうが、それが何か分からない。
それまでずっと倒し続けるのは作業だ。
基本的には楽しければ良いというスタンスの俺も周回作業するのは面倒だ。
「と言う訳でこの階層をぶち抜く事にするか。【連撃掘削機】」
本来近接戦闘で相手の装甲を破るために使う武器を魔法で適当に再現した。
ギャギャギャグッガガガゴギャギギギギゴゴゴゴゴッッ
階層ごとぶち破る威力で魔法を使う。
「キサマ!?ナニをシてイる!?イマすぐヤメロっ!!!」
そう言うが速いか幾つもの雪の塊が飛んでくるが、バリアで反らす。
それを確認したゴーレムは直接近付いてきた。
腕を大きく振り上げて力任せの一撃をまたも反らす。
「ヤメロおおオオおツツっ!!」
叫ぶと同時に大量の雪が雪崩のように襲い掛かってきた。
それを俺は風を俺の周囲に竜巻のように回転させて雪ごとゴーレムを巻き上げる。
「グウウぅぅ‥‥‥。キ、キさマっ!しカシっ!!ワレノやくめハジかんカせぎにスぎン。」
直ぐにやられるモブの様な台詞を吐いたゴーレムだが、その言葉は真実だったようで空中に黒っぽい穴が開いた。
「グゥゥアァ!ヴヴヴギギギ!ヴァァァッ!ゴベボォォッ!」
様々な鳴き声を上げて、この階層の空中で闘った魔物とは段違いに多い量の魔物が空中に開いた黒っぽい穴からドンドン飛び出して俺に襲い掛かってきた。
流石にこのステータスではキツいと思った俺は直ぐ様ステータスの一部を解放し、いまだ状況が飲み込めていない零華の側による。
「ユウ様!!これは一体!?」
原因は単純明解、階層に穴を開けようとしたからだろう。
俺にとっては大した数ではないが面倒だし‥‥‥。
零華はこの魔物の大群の中に放置したら1分も持たずに死ぬであろうから守るのも面倒だ。
そう面倒なのだ。言い換えれば面倒だけど出来る。
相手も俺の動機は面倒だからだと見抜いているだろうから、何かしらの手段を取ってくる筈だ。
最低限の攻撃だけして後は零華に任せる。
得意の氷で次々と凍らせているが、大して効いておらず、足止め程度の効果しか無かった。
「くっ、これらの魔物は一体一体が前のボスよりも強いです!」
零華は苦しそうに言う。
そこで気配察知がこれまでとは比べ物にならない程、強い気配を感じ取った。
そしてその気配は霊華の近くに突然出現した。
零華はその強大な気配に当てられてか、膝をガクガクさせながらうつむいた。
「カ‥‥‥ハッ‥‥ハッハッ‥‥カハッ‥。」
過呼吸になったのか苦しそうに呻く。
その途端銀色の毛を持つ巨大な狼が雪の中から飛び出して、零華を食べようと迫る。
「‥‥‥クッ‥!」
俺は瞬時に剣を構えようとするが、狼の口の中から特定の波長の魔力が感じられたので、叩き斬るのを中断した。
零華は訳も分からずに目をぎゅっと瞑って俺に抱きついて来た。
そして俺達は銀狼に食べられた。




