強引だからこそ出来る裏技
下に降りていくと、雪が降り積もり一面雪景色の光景が広がっていた。
この階層は吹雪いている時間とそうでない時間があるようで、今の時間は吹雪いていない時間のようだ。
雪がピカピカとダンジョンの光を乱反射して、幻想的な光景だ。
「綺麗ですね。」
ボスを倒してから直ぐに起きた零華が感嘆の声を上げる。
「よし、サッサと終わらせてアイツに会いに行くぞ。」
俺は光景そっちのけで歩いていた。
昔から感動や感激などの感情は薄く、あまり興味が湧かなかった。
だが一回目の時から更にその傾向が強くなっている気がする。
召喚前の俺なら嘆息くらいはしていただろう。
「シンプルに上空から行くか。」
慌てて追いついてきた零華が意味が分からずに首を傾げる。
分かりやすいように飛ぶ。
いや、表現としては足が地面から離れて浮いた。
「え?ユウ様は天使族か悪魔族なのですか?」
「?何でそうなるんだ?」
身体の約2割は悪魔なんだけど。
黒翼出せるけど今やってるのは違う。
「何故ってこの世界で空を飛べる知恵を持つ生物は龍種、天使族、悪魔族を筆頭にその庇護を受けている似た姿の生き物です。
ユウ様の実力ならば天使か悪魔のどちらかと思ったのです。」
そうだったのか。
確かに昔見た空を飛んでいるのは翼を持つ生物だが、その翼は羽毛か、頑強そうな装甲に覆われている。
「俺はそのどれでも無いよ。風魔法で浮いているから。」
実際には風魔法と念動で動くから今使っているのは念動だけだ。
「そうでしたか。しかし飛ばれるのはオススメしません。」
「何故?」
俺が上を見ながら首を傾げる。
上には鉱物が淡く輝いていたり、強く輝いていたりする場所があったりするだけで特に異常は無い。
零華も俺と同じ様に上を向く。
「ある一定の高度を越えると先程私が戦ったクラーケン種と同じかそれ以上の強さを持つ魔獣複数に加えて、暴風が吹き荒れてきます。
ですがこれは20階層で確認された事なので恐らくこの階層のボス並の魔獣が複数出てくる可能性が高いです。」
そうなのか。騎士は冒険者のように魔獣を倒したりしていないからレベルが低い傾向にある。
騎士長のガランドでもレベル80しかなく、スキルレベルもほぼ5。あっても6だった。それでもガランドは才能がある方で、同じレベルでも高い方だ。
だが冒険者は長年やっていれば上限の100まで行っている人も多く、その中でも才能がある中でも才能がある人間がS級冒険者になる。
その中には種族が人間以外のやつもいるだろう。
俺に絡んできたB級2流の冒険者は一応少しは才能があったようだ。
それはともかく、そんな冒険者でも空は行かないらしい。
でも俺には関係ない。
「そうか。少しのタイムロスだが、問題無い。」
「え?」
言うが早いが零華を腰に抱える。
少し間抜けな格好だがわざわざこんな場所に来る人もいないだろう。
零華は何故か戸惑っているが怖がっている訳でも無いので良しとする。
「よし行くぞ零華。ちゃんと掴まっておけよ。振り落とされないようにな。」
念動と風魔法を併用して、天井近くまで飛ぶ。
その瞬間、壁から暴風が吹いてきた。
吹き飛ばされそうにはならなかったが、多少体勢が崩れた。
「あ‥‥‥!」
体勢が崩れたせいで零華が腕の中からすり抜けて空中に放りだされた。
「キャアアァァァッ!!」
直ぐ様零華を追おうとしたが、複数の気配を感じて目をそちらに向けると、鳥や梟や翼馬。その上に騎乗している脚が6本ある様々な形の魔獣が襲って来た。
そして騎乗している獣が口から純粋な魔力玉を打ってきた。
「ちっ!!面倒な。」
魔力玉は魔法と違って相性が無い。
魔法は水魔法なら土魔法でどうにかなるし、火魔法なら水魔法でどうにかなるように相性があるが、魔力玉はただの純粋な魔力を固めて放ったものなので相性が存在しない。
ポ○モンで言えばノーマルタイプだ。
魔獣は後回しにして、零華を追う。
普通は余裕で間に合うが、魔力玉のせいで上手く追いつけない。
念動と風魔法を全開にして避けながら零華に近づく。
「良し、キャッチっと。」
地面スレスレで零華を助けて、再び空に上がる。
今度は落ちない様に抱っこしている。
空の魔獣は下に降りていると攻撃はして来なくなっていたが、上空に行くと容赦無く攻撃してきた。
「ユ、ユウ様。無茶です。この弾幕をすり抜けるなんて。」
すり抜けるつもりは無い。
少し集中して〘スキル【集中】が解封されました。〙殺気を放ちながら睨みつける。
〘スキル【威圧】が解封されました。〙
〘【威圧】の経験値量が上限に達しているため【威圧】を【王の威圧】に進化します。〙
〘スキル【威圧の魔眼】が解封されました。〙
〘【威圧の魔眼】はスキル【神眼】に吸収されました。〙
俺の周りを吹き荒れていた暴風が掻き消えたような感じがする。
「カルルロロッッ‥‥‥。」
頭の中にそんな言葉が流れてきた途端、鳥達は飛ぶための翼さえ止めた。
鳥の上に乗っているだけの魔獣は バラバラと落ちていく。
鳥達は何とか落ちなかったようだが、どうやら呼吸さえままならない様だ。
「こ、これはっ!」
どうやら零華は俺が何をしたか分かっていない様子だ。
零華には殺気を飛ばしていないから分からなくて当然だ。
だがこれが俺の仕業だと分かったのか何やら変な眼で見てくる。どこかトロンとしたドキリとするような笑みを浮かべながら。
「ああっ。ユウ様‥‥‥。」
零華は身体をモジモジさせながら控え目にギュッと抱きついてくる。
落ちないようにちゃんと抱き留める。
未だ周りから吹いてくる暴風は終わる様子は無いが、数年のブランクがあったが昔の感覚は大体思い出した。
新たな鳥が何処からかドンドン産み出されて、遠距離から攻撃してくる。その攻撃は集中すれば動きが遅く見える為最小限の動きで避ける。
〘スキル【見切り】が解封されました。〙
〘【見切り】はスキル神眼に吸収されました。〙
またスキルが解封される。
スキルが解封されたお陰で攻撃が何処に来るのか分かって更に避けやすくなった。
昔のスキルの量など覚えていないが、かなり多くのスキルが封印中なので、今後戦闘になると解封される事もあるだろう。
そんな事を思いながら念動で魔力玉を躱し、すれ違いざまに鳥を両断する。
「ユ、ユウ様ッ!速くここを抜けましょう!!」
「そうだな。」
俺は念動と風魔法で加速する。
景色と魔獣達を一瞬で置き去りにして下階層の――――――予め神眼で調べておいた――――――ボス部屋に繋がる道に素速く入り込んだ。




